梯術師ギルドに入隊
梯術師ギルドの準ギルドマスターは十五歳ぐらいの猫耳の女性で名前はフェルシオーネという、彼女がまず話しかけたのが、レオン君だった。
「久しぶりね、レオン、まさかこのギルドに入ってくれるとは、思って無かったわ」
「お久しぶりです、シオねいさん、まさか、こんな事で会うなんて、俺もビックリしています」
ププッ、レオン君が俺とか言ってカッコつけてるぅ~、それにしても、シオねいさんって、日本のとある場所じゃ、蔑称になるんじゃ、まぁ、此処は異世界だし、問題ないか。とにかく、パインガスさんに言われた、梯術師ギルドの登録を済ませてしまおう。
「初めまして、俺の名はマルスといいます、そして、ココにいるのが息子のセロで、こっちの子がフェルシオーネさんも知っているレオン君です。実はパインガスさんに頼まれまして、梯術師ギルドに来ました、先に登録を済ませる準備をしたいのですが、よろしいですか?」
「はい、では皆さんの冒険者ギルドカードを見せてください」
あるんだぁ、やっぱりあるんだ冒険者ギルドカードを見せるのって、パインガスさんはギルドマスターの権限だかなんだか、言っていたが・・、ふと横を見れば、カゲマルが青ざめた顔をしている、そして、そのカゲマルを見つめるモクレン、間違いなく何かが起こる予感がする。
「凄いですね、セロさんは、やっぱり吸乳鬼なんですね!」
カゲマルは目立たぬように頷く、その途端、モクレンが立ち上がり、フェルシオーネさんに向かって歩きながら、話しかけた。
「そのギルドカードはもうカゲマ・・いえセロさんに返してもよろしいですか、私が預かって返しますので?」
「いえ、ギルドカードは他の人にむやみに渡したりは出来ません、私からセロさんに直接お返しします」
「そうですか・・・、カゲマル!、早くこっちに来なさい」
モクレンはカゲマルのギルドカードを、カゲマルに穏便工作されぬよう先に受け取ろうとしたのだが、失敗した、そして、直ぐにカゲマルに取りに来させるというやり方で、カゲマルの逃げ道を塞いだ。
そして、カゲマルが自分のギルドカードを受け取りに渋々と歩いていく、カゲマルがフェルシオーネさんからギルドカードを受け取ると、モクレンは待ってましたとばかりに、カゲマルからギルドカードを取り上げ、そのカードに書かれている、ステータスを見つけた。
「これはどういう事なのカゲマル!」
はぁ~、仕方が無い、やんちゃなカゲマルも悪いが、人様に迷惑をかけた訳でも無いし、ココはカゲマルを助けてやるか・・・、俺はモクレンに話す。
「モクレン、それは、俺の指示だ!」
「えっ、マルス様の指示?」
「そうだ、俺がカゲマルに無理やり、やらせた事だ、だから、カゲマルを責めないで欲しい」
「そうですか・・・、マルス様がそういうなら・・分かりました。はい、カゲマル、このカード返すわね」
「うぅ、父上ぇぇ、うわぁぁぁぁん、ありがとうございますぅぅぅ」
カゲマル、マジ泣きである。あぁ、ひさびさに親の責任を果たした気がする、そして、俺に抱き付いてくるカゲマルの頭を撫でているとフェルシオーネさんから声が掛かる。
「あのぅ、そちらの方は、冒険者ギルドカードを持っていないのかしら・・?」
フェルシオーネさんが目配せするのは、モクレンの事だろう。モクレンは困ったような顔をして、助けを求める様に俺を見たので、俺がモクレンが冒険者ギルドカードを持っていない事を説明すると、それならばと、梯術師ギルドの登録をモクレンに進めてきた。
「梯術師ギルドに登録すれば、ギルドマスターの権限で冒険者ギルドカードを作って貰う事が出来るんです、つまり、面倒な手続きを省くことができます」
「は、はい、では梯術師ギルドに登録します、そうすると冒険者ギルドカードを貰えるんですよね?」
「はい、私から、冒険者ギルドに手続きをしておきますね、では、モクレンさん、右手を出してください、(ピッ)、はい、手続き出来ましたよ、後は明日にでも、モクレンさんの冒険者ギルドカードをお渡しできると思います」
モクレンは直ぐ梯術師ギルドに登録した。どうやらギルドマスターの権限で、冒険者ギルドカードを作ってくれるらしい、「歳はセロさんと同じでいいですか?」と聞かれ、静かに頷くモクレンだが、よく考えたら、モクレンの歳って幾つなんだろうな?、知らない事の方がいい事もある、この場合、知らない方がいいだろう。
「では、梯術師ギルドの主な活動をお話しします、このギルドの活動は、災害救助です、主に火事や事件、そして、街が緊急事態に陥った時、市民を護るのが梯術師ギルドの活動になります」
なるほど、消防隊と警護隊を曖昧に混ぜ合わせた様なギルドだなぁ、街を護るガーディアンみたいな感じかな、で、なにか必要なものがあるのかな?、聞いてみるか。
「あの、梯術師ギルドで活動するうえで、何か必要なものがあるんですか?」
「はい、梯子です」
「梯子?」
「はい、梯術師ギルドで活動するのに、必ず身に着けていなければならない物があります、それが梯子になります」
フェルシオーネさんが言うには、梯術師というのは梯子を装備品として身に着ける事が、条件らしい、剣術士が剣を、槍術師が槍を、弓術師が弓を、という様に梯術師は梯子をと言うわけだ。
そして、冒険者ギルドの裏手にある、梯術師ギルドの演習場に向かう、冒険者ギルドの裏手は、割と活気があり、不思議だなぁ、と思ってみてたら、それを、察してか、フェルシオーネさんが話す。
「依頼を達成した人は、冒険者ギルドの裏口から入った案内所で報酬を受け取ります、だから、酒場やいかがわしい店なども、あの辺りに、集まって来るんです」
冒険者ギルドの裏口周辺は、依頼を終えた人々に向けたお店が集まって来るらしい。そうしてるうちに、梯術師ギルドの演習場に着く、二つの高い建物が向かい合う様に立っており、その二つの高い建物を繋ぐように、平屋の建物がある、梯術師ギルドの演習場はかなり小さい敷地で、建物と合わせても、テニスコート一面分くらいしかない。
平屋の建物も不思議な造りをしている、屋根の部分に幌馬車の幌の様な防水布が張られ、その屋根の正面に扉がある、地面からその扉へなだらかな道が繋がっている。
「ここで待機してくれてた、チベスさんという狐人がいるの、ちょっと待って・・あら、出てきちゃった」
狐人という事で、一瞬だけ可愛いキツネを想像したが、すぐにその幻想は打ち砕かれた。そこに表れた狐人は、狐耳で目が細く、ガッチリした体系の角刈りの男だった。
「見つかったのか?」
「はい、見つかりました、新入りが四人も入る事になったんです!」
「そうか、良かったな、それじゃ、俺は向こうに戻るぜ、なんかあったらまた言えよ、俺に出来る事なら、何でもやってやるからよ」
「はい、チベスさんも、疲れたら、何時でも此処で休んでいいですから、本当に今までありがとうございました」
そう言って、チベスさんは行ってしまった。そして、俺達は梯術師ギルドの案内をしてもらう。この場所は、演習場であり、本部でもあるとのことで、この場所が梯術師ギルドの本部だという事が分かった、そして、演習は高い建物の間に一本のロープを繋げて渡るというものらしい、屋根の幌の中は藁が敷き詰められており、落ちてもケガしないようになっていた。
「はい、では、皆さん、今日はこれぐらいでいいでしょう、解散します、また、明日きてください」
「此処に自分達専用の休める部屋が欲しいんですが、ダメですか?」
「あぁ、すっかり忘れていました、どうぞ空いてる部屋をご自由に使ってください、それと外出するときは必ず梯子を装備していってくださいね」
とにかく今日は疲れた、早く家に帰って、お風呂に入ってお風呂から上がったら、直ぐ寝るぞぉ。自分の部屋とフェルシオーネさんとの連絡と此処に転移門を作る許可を取ろう。
「カゲマル、天使のカードって、まだあるよね?」
「はい、天使のカードですね、まだありますよ、どうするんですか?」
「天使のカードをフェルシオーネさんに渡したい、いいよね?」
「はい、かまいません、どうぞ」
俺は自分の部屋を選んだ後、カゲマルと共にフェルシオーネさんと話し、天使のカードを渡した、そして転移門の許可を貰った、転移の門の場所は、この建物の正面にある、なだらかな道の下に、小さなスペースがあり物置となっているので、そこを使わせてもらう、カゲマルが転移門を作って出て来た時、フェルシオーネさんが自分の家族の話をする。
「ごめんなさいね、本来このギルドは私の姉がギルドマスターなの、でも今二人とも出産したばかりなのよ、もしよければ、二人の姉にお乳を分けてあげられるか、頼んでみるわね、セロさん!」
「ぜひ、お願いします!」
その時、新品の哺乳瓶を二つ持って、レオン君がフェルシオーネさんに、お願いしたのだった。




