モクレンがやってくる
カゲマルのギルドカードを観た石焼亭ギルドのギルドマスター、パインガスさんはその後、執事にコソコソと話した後、俺達に話す。
「んじゃ、店の場所を案内するから一緒に来てくれ」
俺達はパインガスさんに付いていく。その途中で、レオン君がパインガスさんの執事の人から、紙袋を貰ったので、レオン君は懐からアイテムブックスを取り出して、その中に収納した。
[石焼亭]と馬車ターミナルがよく見える眺めのいい場所が、ラーメン屋を営業する場所だった。普段は石焼亭ギルドの新人研修やギルド員たちの食堂として使っているとの事で、テーブルや椅子などがそろっている。
「ここが、ラーメン屋を営業する場所だ、で、これからどうするんだ、街に行って買い出しすんのは、かまわねぇが、ウチ等は、金だせねぇぞ、ウチのアレクサンドルに言ってくれれば、金は出せるから、困ったら言ってくれ、アレクサンドルはこの店の一階に待機させる、てか元々ここに住んでるし、なにかと便利だから、こき使ってやればいい。」
パインガスさんの執事の一人である、アレクサンドルさんを紹介される、澄んだ青い目をした、美しい青年だ、あまりに美形すぎて、苦労しそうな雰囲気がある。今は畏まっているが、仲良くなれば、よく話してくれるだろう。
「まず、資材を出し入れする、倉庫部屋を作りたいと思います。」
「倉庫部屋ぁ、資材?・・・、あぁ、そういえば、ケインのせがれだったな」
「社長、それは・・」
「あっ、いや、なんでもねぇ、コッチの話だ、とりあえず、俺は此処の一階で休憩してるから、なんかあったら、アレクサンドルに言ってくれ」
んむぅ、怪しい、ケインの倅と言ってたが、もしかしてレオン君のお父さんの名前か?、倉庫部屋と資材というキーワードで、何が思い浮かぶか考えれば、答えは簡単、アイテムブックスだなぁ~。パインガスさんはその場から逃げる様に居なくなってしまった、俺はアレクサンドルさんに話しかけた。
「いや~、パインガスさんは、凄すぎて緊張しますねぇ~、それじゃ申し訳ないけど、アレクサンドルさん、真っ暗な倉庫部屋を作りたいので良い場所ありますか?」
「真っ暗な倉庫部屋ですか?・・、えっ、ま、真っ暗でいいんですか?」
「いいんです!」
そして案内されたのは、何も置かれていない、ちいさな部屋だった。最初は大きな部屋に案内されたが、「カゲマル専用の部屋を作るんです。」と言ったら、何かに納得したように、この部屋を紹介してくれた。
「それじゃ、カゲマル、申し訳ないけど、柱で止めるタイプの四角いテントを二つとラーメン屋台セットを持ってきてくれないか?」
「柱で止めるタイプの四角いテントですか?、何に使うんですか?」
「それで、カゲマルに転移門を作って貰おうかなって、ほら、バリスカの街に自分たちの拠点ができたし、四角いテントをラーメン屋の後ろに作って、そこに転移門をつくればいろいろ便利だと思ってさ」
「なるほど、基地に繋がる転移門を作るんですね。」
「それは、ベースに帰ってからになるが、とにかくここに転移門を作ろうと思う」
「分かりました、では行ってきます」
そう言ってカゲマルは、ちいさくて真っ暗い部屋に入って扉を閉めた。アレクサンドルさんが、何か聞きたそうに俺を見ているので、話しかける。
「え~と、カゲマルは転移魔術が使えるんです!」
「なるほどぉ、さすが神の子と呼ばれるだけはありますねぇ」
どうやら、カゲマルは神の子と呼ばれているらしい。いや、本当に神の子なんだが、実際の事ではなく、噂という形で広まっている様だ。
「一応、言っておきますけど、吸乳鬼ですよ」
「知っているよ、この世界で、唯一の高貴なる吸乳鬼の生き残りだという事は、なぁ、マルス、カゲマル様にもっと俺を頼って欲しい、何かいい方法はないかな?」
「えっ、ま、まぁすぐ頼る様になると思うよ」
カゲマルはカゲマル様で、俺は呼び捨てかい・・・、そうこうしてるうちにカゲマルが帰ってきた。
「父上、ただいま戻りました」
「おつかれ、なぁカゲマル、アレクサンドルさんが、もっとカゲマルにこき使って欲しいってさ、だから、イッパイ、こき使ってあげてね!」
「なんと、私にですか!、分かりました、アレクサンドルさん、私を運んでください。」
そう言ってカゲマルはふわりと浮き、アレクサンドルさんに肩車してもらいながら、ラーメン屋の場所へ着いた。
「それじゃ、アレクサンドル、コレを柱に巻き付けてくれ、ここと、そこと、それと、あれに」
「マルス、コレは何に使うもの何だ?」
「コレは、テントの固定に使う奴だよ、こうしてここに繋げるんだ」
「それが終わったら、カゲマルはラーメン屋台セットを出しといてくれ」
そう言って俺はテントを設営する。まず、テントを立てて、その入り口をもう一つのテントで塞ぎ、光を一切、入らない様にしようと思っていたが、違うやり方が出来る事が判明して、そのやり方で立てていく。そのやり方とは、テントの中にテントが入った、いわゆる、マトリョーシカ方式だ。
実は最初はマトリョーシカ方式しようと思ったが、テントの内側からテントを固定する術がないなと、思い込んで、入り口をもう一つのテントで塞ぐというやり方で、テントを立てようと思っていたら、マトリョーシカ方式が出来る事が分かって、すっきりしたテントになった、そして、カゲマルが自身の体の中からラーメン屋台セットを取り出した。
「よーし、それじゃ、ラーメン屋台セットは俺達で組み立てるから、カゲマルはテントの中に転移門を作ってくれ」
「父上、何個、転移門を作りますか?」
「とりあえず、三つ、作ってくれ」
「はい」
そうして、俺達がラーメン屋台セットを組み立てている途中で、カゲマルが難しい顔をしながら、テントから出てきた。
「どうした、カゲマル、何か問題があったのかい?」
「いえ、転移門の設置は終わったのですが・・・」
「えぇぇ、もう、終わったのか?」
「そうなんですぅ、テントの中は既に転移門を作るように設計されていたんです、おかげですぐ終わってしまいました。」
なんだってぇぇ、あのテントはリリゼト産のはずだ、俺の父親も、母親も、リリゼトには入って来れない筈だし、モクレンはテントとか作るタイプでは無いし、そもそも、モクレンはキャンプとかする様な子では無いよなぁ~、じゃあ、一体、誰が作ったんだ、あのテント、謎だ・・・。そう考えながらラーメン屋台が完成した。
「よし、ラーメンを作る準備は完了した。後はパインガスさんにとりあえずラーメンを食べてもらって、開店の為の準備をし・・」
「父上ぇぇぇ、テントからぁぁ、テントの中からぁぁ、誰か来る気配がしますぞぉぉぉ」
「えぇぇ、えぇぇ、何?、えぇえ」
振り返ると、テントがガサガサと音を立てて、テントの中からチャックを開ける音がする。そして、テントの中から、白い鹿が顔を出した。
「あぁー、カゲマルちゃんいたあぁー、ちっちゃくなってるぅぅーー!」
「なんですってぇぇぇ!」
テントの中から現れたのは、白い髪で赤い瞳の少女と青い瞳で白い毛の鹿だった。
「も、モクレン!、何故ここにいるんですか?」
「何故ここにいるんですか、じゃないわよ、カゲマル、アンタが何も言わないからここにいるんでしよ!」
「ご、極秘任務だからです」
「なぁにがぁ、極秘任務よぉ~」
俺達はしばらく続くであろう、カゲマルとモクレンの口喧嘩を眺めている。俺の隣にはそれを黙ってみている、白い雌鹿の姿をした神獣のナラコがいた。空気の読める頭の良い鹿だ、ちなみにナラコの名付け親は俺だ、名前の由来は日本人ならなんとなくわかるだろう。何時まで経っても埒が明かないので俺はモクレンに尋ねてみた。
「なぁモクレンはこの後、どうするんだ?」
「カゲマルと一緒に此処にいます」
「リリゼトはどうするんだ?」
「リリゼトはイーモリ様に任せてきました」
えぇ~、あのネットゲーム馬鹿に任せてきたのか?・・・、大丈夫か?リリゼト・・・妖精がネットゲームにハマるのか?、まぁいい、とにかく、モクレンには俺の言う事を聞いて貰うぞ。
「よお~し、分かった!、じゃぁモクレン、とりあえずラーメンを作ってくれ!」
「はい、えっ、ラーメン?」




