この世界は浮いている?
冒険者登録を終えた事で、ギルドの依頼を受ける事が出来る様になった。俺達は冒険者ギルド、バリスカ西支部を出て、カゲマルに話す。
「なぁ、カゲマル、もう小さくなって、いいんじゃないか?その方がカゲマルらしいし」
「でも、周りに結構、人が居ますよ、ここで小さくなって大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ、だってカゲマルはこの世界にたった一人の吸乳鬼なんだから、お乳を飲まないとちっちゃくなる体質って事で、みんな納得するから」
「ハァ~、そういうことなら、ちっちゃくなります」
カゲマルはちっちゃくなった。そして俺はこれからの事を考える、俺としてはラーメン屋を運営しても怒られない土地と許可が欲しいので、レオン君に店屋を出すにはどうすればいいのかを聞いてみたが、レオン君もよく解らないらしい。その時、カゲマルが俺に甘えながら話しかける。
「父上ぇ、あれに乗ってみたいですぅ。」
「ん、馬車か、乗ってみるか?」
「は~い」
俺達が乗ったのは個人で営業をする馬車だった。少し値は張るが、レオン君の家に近い、バリスカ五区の馬車ターミナルまで、馬車で行くことにした。そしてラーメン屋の営業許可について、お食事処で食べるついでに聞いてみればいいんじゃないか、という事で、レオン君の知っているお店で食事をする予定だ。そうして[石焼亭]というお店の前に来た。
「へぇ~、ちょっとデカくないかい、このお店」
「いや、大きく見えますけど、宿屋と併設してるから大きく見えるだけで、食事をする場所は、そんなに大きくないですよ」
俺達は店の入り口の前で、レオン君から店の中で食事をする作法を教わるところだ。でも作法というほど難しくはない、まず、店の前にあるお店の魔法道具で手を洗う、そしてお店の専用の魔法道具で手を乾かす。
店に入ると一人づつ番号の書かれた、おしぼりを給仕さんから渡される。この渡されたおしぼりは、個人の認証の様な物なので、食事を済ませて支払いをする時に、会計をする従業員さんに返す為、自分で管理しなければならない。
「このおしぼりを無くさなければいいんだね?」
「はい、自分のおしぼりは他人に貸さないで。自分だけに使ってくださいね。」
この国だけの不思議な食事作法なのかと思いながら、眺めのいい奥の席に座る。窓の外は馬車ターミナルになっており、その馬車ターミナルは偶然なのか意図的なのか判らないが、馬の蹄の形をしていた。
「おっ、お箸がある、それに塩と胡椒」
「ま、まぁ、食べるお店にはだいたいあると思います」
ちょっと、はしゃぎすぎた、反省、反省。しかし、そこにあったのは割りばしではなかったのでレオン君に聞いたら見た事が無いらしい。で、冒険者ギルドで依頼を出してみるのがいいのでは、という話になり、そうする事にした、爪楊枝も必要か聞いてみるか?
「レオン君、歯に食べかすが挟まる事ってあるでしょ、そん時どうしてる?」
「歯に食べかすですか・・、その辺の野草を引きちぎって、それで処理しますねぇ」
いらねえわ、爪楊枝!、この世界は歯磨きとかも草でしてるかも知れないし。後で一応歯ブラシと歯磨き粉をレオン君にプレゼントしとこ。そしてレオン君が席の奥にあるメニュー本を二つ取り出して、一冊を俺に渡す、俺の隣にはカゲマルがいるのでカゲマルに見せる様にメニュー本を開く。
「おっ、カゲマル、コレなんかどうだ、ピ、コレもいいなぁ、ピ、俺はこれにしようかなぁ、ピ、ん、さっきから何かピッピ鳴ってない?」
「注文しちゃいましたね、お料理を!、ほら、マルスさん左手におしぼり持ってるでしょ、ギルドカードと似たようなやり方で注文が出来るんです。」
えぇぇぇ、嘘でしょ、でも嘘じゃなかった。このおしぼりにギルドカードと同じ様な機能があるなんて思わないでしょ、普通は・・・、でも、メニュー本を押しただけで注文できるなんて、現代の地球文明が負けてる所だよねぇ~、おそらく魔法が使える時点で文明度はこの世界の方が高いんだろうな、化学が進化しすぎると魔法にしか見えないって事だね。
「いっぱい、頼んじゃったなぁ、食べきれなくなるかも」
「大丈夫です、ご主人様ぁ、ジョシュがぁ、食べますからぁぁぁ」
いままで大好きなレオン君の前では喋らなかった、スライムのジョシュが喋りだす、好奇心と食欲に乙女心が負けた形になった。俺はジョシュをレオン君の隣に置いた。
「そういえば、水は出さない作法なのかい?」
「あぁ、すいません、気が利かなくて、水は自分で用意する仕組みなんです。」
「えぇ、水筒とかで用意するのぉ?」
「いや、そんな事はしないです、ここに洗面所があるんですけど、ここから店で用意されてるコップで水を汲んだり、おしぼりを洗ったりするんです」
いわゆるセルフサービスって奴だ。そうこうしてるうちに食事が運ばれてきた、俺が頼んだのは地球でいうところのピザだ。考えてみれば店の名前が[石焼亭]だし、イモかピザだわな。そのピザの味はミートソースというよりもハヤシライスの味に近い感じだった。
酸味が足りないなぁ、と思っていたのだが、テーブルの上に小皿に乗ったレモンが置いてあり、不思議な切り方をしているが手に取ってみて解かった、搾りやすいように切られていたからだ、俺はそれをピザの上でギュっと搾り、食べてみると割と味がミートソースに近くなった。
「どうだい、ジョシュ、始めての味は?」
「はぁぁい、おいしぃぃぃ」
「レオン君、ドンドン注文してね、そんで食べ残しちゃっていいから、レオン君の食べ残しがジョシュが一番美味しい食べ物だからぁグファファ、なぁジョシュ」
「もぉう、ご主人様ぁったらぁぁぁ」(ピシュピシュ)
「いだだだだ」
ジョシュが俺を叩く、ムチで叩かれた様な痛さがあり、これから成長していく事を考えると、かなり危険だ、恥ずかしい時に叩く癖を自制する事を覚えさせねばならないな。
それより、この店に来た本題である、どうすれば店が持てるのか?、何処かに店を出す許可を貰うのか?を、店の給仕さんに聞いてみたら、質問の答えを店の知ってる人に聞きに行った後、帰ってきて「皆様のお食事が終わった後に店のマスターが質問を聞きますので、今はごゆっくりお食事を楽しんでください、」と言われて俺は了承した。
「店のマスターが話を聞いてくれるって、言ってたけど料理長とかだよねぇ、まさかこのでっかい建物のオーナーとかだったら緊張して喋れなくなっちゃうよ」
「たぶん、店を任されている人だと思いますよ」
「そんな事を、心配するより違う話をしよう、そういやカゲマルのギルドカードに、物乞い師ってのがあったんだけど、物乞い師ギルドってのが、この世界にあるって事なんだよね?」
「はい、何処かにあると思います、そうでなければギルドカードに出ませんから」
「凄くね、だって物乞い師ギルドなんて、どんな仕事をしてる人なのか?、なんか犯罪組織に関わってそう」
ギルドカードの職業欄にはギルドが存続していなければ職業欄に載らないらしい。
「そうだ、レオン君からも、何か聞きたい事があったら言ってみて」
「そうですか・・・、それでは、以前スライムのジョシュさんに、スライムの神様の加護を得る、という話をしてくれましたよね」
「あぁ、したした、サクラ・スライミィね」
「ドワーフの神様って居るんですか?もし、居るのなら僕も加護を得たいと思いまして・・・」
う~む、ドワーフの神様といえば俺の父親のゴドウィンだが、忙しいしなぁ、レオン君ならかまってくれるかも・・、それ以外だと、ドワーフの神様では無いがガイアと家は仲がいいし、加護をくれるかもしれない。
「レオン君、ドワーフの神様は居るよ、でも、忙しいんだ加護を貰うのは無理だよ」
「そうなんですか・・・」
「ごめんね、知ってるドワーフの神様が一人しかいなくてね、しかもそのドワーフの神様は俺の父親っていう、人脈、いや、神脈の無さ」
「えっ、マルスさんのお父さんがドワーフの神様?」
「うん、俺の父親だよ、でも、レオン君、ドワーフの神様じゃないけど、加護をくれそうな神様も居るから、えーとカゲマル、この世界に居るガイアは、どこに行けば会えるんだい?」
カゲマルは難しい顔をしていた。
「父上、その事なんですが・・・、この世界のこの大地にガイアは居ません」
「えっ、じゃあこの世界は浮いてるって事か?」
「浮いてるかは解りませんが、大地と繋がっていない事は間違いないです」




