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グズのちから

 二神能基さんという人がいて、「ニュースタート事務局」というNPOを作って、ニートや引き籠もりだった人を就労支援している。二神の著書に、『希望のニート 現場からのメッセージ』新潮社、というのがあり、その中で以下のような話しをしている。




 ある女性がいて、いろいろな会社に勤めたが、何をするにもゆっくりな性格が災いし、どこへ行っても「グズ」と言われる。それで職を転々として居るうちに、自信を無くし、ニート生活を始めるようになって、しばらくして、二神のところへ来たという。




 そこで、二神はこう考えた、「グズ」といえば聞こえは悪いが、要するにスローペースが合っているという事なのだろう、老人介護の仕事をしてみてはどうか、というのである。そこで、女性は老人福祉施設で働き始め、非常にうまく行った。もちろん時には急いでテキパキと物事をやらなければならない事もあるだろうが、そもそも、お年寄りというのはゆっくり物事をやるものである。それは父を見ていればすぐにわかる。「お年寄りは動作が緩慢」というのは、健常な若年層の価値観で勝手に言っていることなのであって、ゆっくりやればそれで良い事はゆっくりやれば良いのである。お年寄りはもうすでに人生でやらなければならない事はほぼ全てやってきているのだから、安らぎの中で人生を過ごせばよい。健常な若年層の価値観を勝手に押し付けるほうがよっぽど暴力的なのである。そんなわけで、その「グズ」の女性はまさにその「グズ」さをフルに活かし、介護職を続けているという。何しろ、ゆっくり物事をやったり、お年寄りのゆっくりさ加減が性に合っているのだから、お年寄りのほうも、安心であろう。労働環境にもよろうが、ゆっくりさが活かせる職場であることは想像できる。




 もうお分かりだと思うが、母が昇天した時、「私は、グズでノロマでだらしがない父と、障害者で、さらにグズでノロマでだらしがない私がどうやって生きていくというのだろう」と本気で不安になったものである。




 だが、今になってみると、わたしは私のグズさ、だらしなさに取り立てて目くじらを立てない父に、母に比べれば完全にはきちんとしていないがそれなりの世話をしてもらいながら、のんびりとうつ病と逆流性食道炎の治療を行っている。治療といっても薬を飲んで、治るのを待つだけである。死病ではない。時間が解決するのである。




 こういったわけで、私がグズな分、父のグズさは、それすなわち「スローペースに合わせる能力」になり、だらしなさは、「私のだらしなさに対する寛容性」になった。多少家は散らかり汚くなったが、うつ罹患中に関していえば、私は、母が存命していた時よりも生きやすくなっている。




 何事も、大量と高速が支配し、その大量さや高速さ自体が人間の認識可能範囲を超え、数字に置き換えないと価値判断すら難しい狂気の時代である。この狂気を地で生きる人間にとって、老人や障害者は邪魔者でしか無いのだろう。だが返す刀で言わせてもらえば、現代の健常者の狂気は、老人や障害者にとってはまさに凶器であり、打倒すべき敵でしかない。障害者は自らの障害力に目覚め、これを研ぎ澄まし、健常者の狂気を暴いて異議申し立てを行うべきであろう。何しろ、健常者の狂気と来たら、その健常者自体に跳ね返り、過労死すら引き起こす長時間労働や人間関係を狂わせる能力選別という形で、健常者自体にさえ凶器となっている有様なのだから。


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