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マーマン危機一髪  作者: ベスタ
8/19

7 仕事

「フーカ!! フーカぁ!!!」


 テルは運ばれていくフーカに並走しながら声をかけていた。

 ライトにフーカが切られた後、フーカはタコス軍の兵士によって搬送されていたのだ。

 背中に大きく切り傷を受けているので長い海藻でぐるぐる巻きにされ、体ごと縛って傷口を止血し応急処置をする。そのまま担架に体ごと固定されてうつ伏せで運ばれていたのだった。

 フーカは切られて少し意識を保っていたようだったが、その後意識を失ってしまった。


 この後フラボン砦の治療室に運ばれるが、それでも手に負えないときはカララトのポリフェル城へ搬送されることとなっていた。


「兄さん、落ち着いて」

「落ち着けるわけがないだろう!!」


 力では負けるはずの史郎の制止を、振り切って前に進もうとするテルだった。


 仲間の魚人が死ぬのは、今回が初めてではない。兵士はなんだかんだで今まで多く死んでいるのだ。だが、テルはそれを『自分と関係ない数』として見ていた。だから平気だったのだ。

 現実の世界でも戦争で多くの人が死んでいますと言われても日常をおくれていたのは、そこに知り合いがいなかったからだ。

 知り合いが死にそうならば、話は別。

 大きな声を出し続けているテルの口から、その勢いでポロリとノエが吐き出される。


「いい加減にしないか!」

「ティガ。フーカが、フーカが俺のせいで!!」


 ティガが後ろから羽交い締めにする。それで流石に動きは完全に封じられたものの、テルはイヤイヤをするように体を捩じらせる。


 なにせ、自分の失敗で親しい誰かが死ぬ。そんなことはテルには耐えられないのだ。自分が死ぬ分にはどうとでもなると思っている。死ぬ恐怖は確かにあるが、テル自身一度死んでいるのだ。痛みも恐怖もあるが、『死んでしまった』らそれらは全て過去となる。

 実際、なった。

 テルには自分のせいで他人に不利益を与えるのが、自分が死ぬよりどうしても耐えられなかったのだ。


「俺なんかの、せいで……」


 テルの口から後悔が漏れる。

 佐賀輝彦が顔をのぞかせる。ネガティブだった自分が自分を問い詰める。どうして追撃してしまったのかと、どうしてもっとうまくできなかったのかと。


 そのテルのつぶやきに足を止める、フーカを運んでいた兵士たち。史郎やティガでさえも言葉なくうなだれてしまう。


 その時、テルの視界に影が走った。

 それは明らかに拳だった。


 バキッ!!


 殴られた衝撃を、ティガに羽交い締めにされているせいで受け流せなかったテルは、視界に火花が走ってクラクラとする。

 その歪んだ視界の先に1mほどの少女が静かな表情で浮かんでいた。


「ノエ…」


 テルが呟いたのと同時に今度は足がテルのアゴを蹴り上げた。


 ドガッ!!!


 体全体を使っての蹴り上げで、テルは痛みに視界が歪む。しかし、頭はまだ意味がわかっておらず『?』が頭の中を泳いでいた。

 ティガが手を離してテルはようやく地面に倒れ伏す。


 ノエがフヨフヨと漂っていたが、フーカの方を見て言った。


「仕事をしてくださいッス。フーカを医者に見せるのが、あなた達の仕事ッス」


 それを聞いた兵士たちは慌ててフーカを運び、見えなくなった。

 テルはよろよろと立ち上がるとノエに聞いた。


「ノエ?」

「はいはい。史郎さんもティガさんも仕事をしてくださいッス。この後は会議ッスよ。2人とも呼ばれているはずで、こんなところで油を売っている暇はないはずッス」

「ああ、それはそうだが」


 ノエの言葉にティガは答えるがそのティガにノエは言った。


「まだ敵は外にいるッス。ティガさんの仕事はタコス様の指示に従うことッス」

「あ、ああ」


 ティガはノエの言い知れぬ圧迫感に押され、史郎と一緒に会議の方に向かった。残されたのはテルとノエだけであった。

 ノエはフワフワとテルに近づくと倒れているテルを見下ろして言った。


「いつまでも済んだことでうじうじしてないでテルさんも仕事をして欲しいッス」

「なんだって?」


 テルは意味がわからなかった。フーカと家族同然に過ごしていたのはテルを除けばノエが1番親しかったはずだ。それなのになぜこんなに冷徹に言えるのだろうか。


「敵はまだ被害を受けておらず、こちらは最大の戦力であるフーカが戦えなくなったッス。そのうえ食料はあんまりなくて四方八方いいことないッス。それをどうにかしようと会議を「ふざけるな!!!!」」


 いつものような様子でいうノエに、テルはついに意味不明な気持ちから怒りへとスイッチが切り替わった。

 テルは許せなかったのだ。なんの感情もないようにフーカの戦力外を伝えるノエが。そう思えるのは、もしかしたら人間としての心が残っているテルだけなのかもしれない。

 魚人もやはり元は魚であり、死んでしまえば後腐れなく切り離せる考えなのかもしれない。

 しかし、それでもテルは叫ばずにはいられなかった。

 ノエはそれでも冷静に言った。


「ふざけてなんかないッスよ」

「お前はフーカとも仲が良かったじゃないか。なんでそんなに平然としていられるんだよ」


 テルはノエも家族のように思っている。だから、テルはノエに、どうかフーカのことを思ってやってくれと願っていた。

 しかし、ノエの言葉は変わらなかった。


「ふざけてるのはテルさんのほうッスよ」

「なに!?」


 思わず声を荒げたテルにノエは淡々と言った。


「フーカは仕事として戦って怪我をしたッス。しかも、仕事としてきっちりとテルさんを守り通してッス」


 そう言われてテルは自分が責められているように思えて何も言えなくなった。続けてノエは言う。


「さっきはちょっとサボってたッスが、あの兵士達も仕事としてフーカをきっと医者に見せてくれるはずッス。


 託された医者もきっと自分の全てをかけてフーカを治してくれると信じてるッス。


 もちろんタコス様は仕事をよくしてくれて、仲の良かったフーカの治療に協力をしてくれるはずッス。


 フーカだって死んでないんだから、頑張って治ろうと協力するはずッスよ」


 テルは今度は純粋に何も言えなくなった。感情で眼が曇って現実が見えていないのはテルだった。テルが騒いだところで兵士が医者のところに行く時間が伸びるだけで、その分フーカの治療が遅れることになる。それは、フーカの体を心配してフーカを殺すことになりかねない。


 頭ではわかっているが、心はそうはいかないのだ。


「フーカが死んでもいないのに騒ぎ立てているテルさんは、ただ単に失敗した自分を誰かに怒ってもらいたいだけなんスよ」


 図星を言われてテルは顔を伏せた。テルは自分がどんな顔をしているのかわからなかった。しかし、今の顔をノエに見て欲しくはなかった。みじめだった。


「それは自分が殴ったんでもう十分なはずッスね? わかったら仕事をしてくださいッス」

「わかったわかった! もう、うるさいな!」


 テルは照れ隠しに顔を上げると大きくため息をついて心を切り替えた。結局、心も頭もぐちゃぐちゃできっとろくな状態ではないのだろうけれど、それでも心の奥底で何かが切り替わったのは確かだった。


 テルがようやく立ち上がるとノエは小さくなってテルの肩に座った。


「それと……」


 ノエの言葉に歩こうとしたテルは足を止める。ノエは小さな声でテルに呟いた。


「自分のことを『なんか』なんて言って欲しくないッス。それじゃ、なんのためにフーカが頑張ったのか……フーカが可哀想ッスから」

「……………すまん」


 ノエの言葉を理解してテルは素直に謝った。やはり、フーカのためにと言いながら、テルは全くフーカのことを考えていなかったのだ。

 ノエは少し明るい声を出して言った。


「大丈夫ッスよ。何かあればまた、自分がテルさんをぶっ飛ばすッスから!」

「あれはきつかったな」


 テルは痺れの残るアゴをさすりながら苦笑して言った。ノエも笑いながら弁明した。


「まあ、あれが自分の仕事ッスからねぇ」


 そういったノエに、テルは不思議そうに肩越しにノエを見て言った。


「あれはお前の『仕事』じゃないだろ?」


 そう言ったテルを見てノエは頭をぽりぽりとかいた。


「バレてたッスか?」

「流石にな」


 テルは仕事仕事と言いながら動いていた先ほどのノエを思い出す。確かに仕事として説明のつくことを言っていた。


 しかし、テルを立ち直らせるのがノエの仕事、と言う件については話が変わってくる。

 ノエはもともと寄生虫なのだ。宿主が死ねば宿主を変わればいいだけなのである。特にノエのような賢い寄生虫ならば幾らでも宿主を見つけられるであろう。


 ではなぜテルを立ち直らせたのか。


 ノエは赤い顔でたはは、と笑って、お茶を濁しながらテルの口へと入っていった。

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