4 フォーク
フラボン砦は大きい岩の塊のような外見をしている。
ここに限らず砦と呼ばれるものは、防衛拠点の要として頑丈に作られている。人間の拠点と違うのは海の中なので上からの攻撃もくる可能性があるということだった。
のぞき窓と複数の入り口が色々なところに配置されており、攻撃をしっかりと防ぎ反撃がしやすい作りになっている。
また、サイガンドは岩場ばかりの海域である。そのため、見晴らしを良くするためにサイガンドの方面には砂で綺麗にならされていた。
これならば敵が進行してきたことをいち早く知ることができる。カララトとアーラウトの間の砂漠のミニチュア版であった。
テル達がフラボン砦に到着した時、まだサイガンド軍は到着していなかった
それならば、とテル達は砦の中を確認していったのだった。
一二三と五十六は食料のある場所を確認しており、テルはタコスとともに案内役の魚人の元、武器庫の中を案内されていた。
「こちらが保管している武器になります」
「いろんな武器がありますね」
「一応最前線だからな。武器は城の武器庫に眠らせていても意味がないだろう」
テルの言葉にタコスが答える。ここら辺の考えは人間より魚人の方が正しく思える。使えるものは必要な場所へ、というものだ。
テルは納得しながら武器を見て回る。
その中に岩のような変な槍があった。
「これは?」
テルが手にとると岩のようになっている部分がパラパラと崩れた。一見槍のようだが、先が分かれて三又になっている。サイズは違うが人間の時によく見たフォークによく似ていた。
「それは鉄の槍というものです。残念ながら鉄の装備は基本的に錆びついてしまうので、使っている方があまりおられません」
どうやら鉄の槍だったようだ。岩だとおもっていたのはサビでボロボロに変形してしまった姿ということだ。テルは手に持った槍を見ながら、ここまでサビが進行していたのではもう使えないと判断した。
鉄の武器であれば欲しかったのだが。鉄ならば曲がることはあってもほぼ折れることはなく、貝や珊瑚などよりも十分丈夫であり、敵に突き刺さればよほどのものでも防ぐことはできない。
テルは聞いて見た。
「これはどうやって手に入れたかわかるか?」
「人間の落し物のようです。基本的に鉄の装備というものは人間が作ったものが基本となります。人間が捨てたり落としたものを我々が使っているにすぎません。どうやって作っているのか検討もつきませんね」
どうやらたまたま手に入れただけのようだ。これでは整備の仕方もなにもあったものではない。それに海の中にあれば遅かれ早かれサビで使えなくなってしまうだろう。
そこまで考えてテルは思い出したことがあった。
「タコス。確かコノワタは鉄の剣を持っていたはずだが、あれはどうやって手に入れたんだ?」
「詳しくはわからんが。人間の作る武器には、なんでも色々な効果をつけることができるらしい。で、船乗りなどが使う武器にはサビ防止の魔法がかかっていることが多いそうだ。
多分人間の船乗りでも襲った戦利品じゃないのか?」
「そういうこともあるのか」
ならば人間を襲いまくれば強力な武器が入る。そこまで考えてテルは少し気持ち悪くなった。思考が人間の自分が同じ人間を害する想像ができなかったのだ。
魚人であれば何人も殺しているのに、である。
(人間と戦わなくてはならなくなった時、俺は戦えるんだろうか)
テルはそう思いながら、ふとステータスを開いて見た。
テル
職業 イワシLV99
マーマンLV15
マーランスLV16
マーボーLV9
電マーLV15
マーフォークLV1
装備 ノエ
何か増えていた。
やっぱりさっきのはフォークだったのかと振り返ってみる。確かにフォークのような形はしているが、ほぼ槍である。それとも人間はあれをフォークとして使って食べているのかとテルは混乱していた。
テルは気づいていないが、アメリカ映画などでよくみる、牛や馬が食べる飼葉をまとめるために使われる道具は、英語でフォークという。日本語で鋤というやつであり、有名どころでは西遊記の豚が使う武器で有名である。
ちなみに実際の英語のマーフォークはフォークから来ていないはず。多分。
テルは混乱していた。フォークを持ってマーフォークを覚えた。スプーンとか持てばマースプーンとかあるのではないか。むしろすでにランスも棒もあるのだから他にも色々あるのではないか。そう思って色々な武器に触ったのだが、特にこれ以上増えることはなかった。
正直テルは、もう人間と戦えるかどうかとかどうでもよくなっていた。
テルが武器庫を漁り始めたあたりから、ノエはこっそりテルの口から飛び出していた。
「何か始まったみたいッスね」
「そうだな」
少しおかしそうに笑い合うタコスとノエ。なんのことかわかっていない案内人をタコスは帰らせて、忙しそうに武器を手にしていくテルを眺める。
テルは必死に取っ替え引っ替え武器を手にとっては、何もない宙空を眺めてガッカリして、また武器を取ることを繰り返していた。
「あいつのああいう顏を見るのは面白いな」
「そうッスねぇ」
そうやって眺めるタコスとノエは面白いものを観戦する態勢になって、気楽に眺めていた。
テルはそんなノエたちの様子には一切気づいていない。ノエはふと、タコスにいった。
「忙しいんなら自分がみときますんで、タコス様は仕事に戻っていいッスよ?」
「んんー? 俺様は特に忙しくないな。忙しいのは一二三たちだけだ」
そう言ってタコスはそこらの箱の上に腰掛ける。5cmサイズのままノエも近くの棚に腰掛ける。
その時、ノエはフーカがこちらに走って来ているのを見つけた。
フーカは新しい装備を着て来ていた。硬いウロコでできたの簡易鎧であり、大事な部分を重点的に守る構造になっており動きの邪魔をしない。フーカにとっていい防具だと言えるだろう。その上から革のジャケットも着れるようだ。
どうやらフーカはテルに意見が聞きたいような様子だったので、代わりにノエがフーカの前に漂う。
「あ、ノエ。テルはそっち?」
「そうッス。でもちょっと待ってほしいッス」
やはりフーカはテルを探していたようだ。輝くようにニコッと笑って尋ねるフーカに、ノエはそれを押しとどめる。
「えー。なんで?」
「今はテルさん、集中してるみたいッスから。邪魔しちゃダメッス」
ブスッとむくれるフーカに、ノエは少しだけテルの様子を見せてあげる。
テルは重量級のハンマーを、赤い顏をしてなんとか持ち上げているところであった。あまり緊張感はない。
「私は新しい服を着た私を、みて欲しいだけだから」
「ダメッス」
進もうとするフーカの鼻頭にノエが指を突きつける。その声に真剣なものを感じて、体格差ではいくらでもノエを押しのけられるフーカは体を止める。
「ノエが意地悪する」
「意地悪じゃないッスよ」
それでも不満げにフーカが抗議すると、ノエも目をそっと閉じて答える。
「フーカ。いいことを教えてあげるッス」
ノエは5cmサイズのままフーカのおでこを抱きしめるようにくっつく。少し見上げるようなフーカの視線の中、ノエは告げた。
「本当に好きな相手なら、相手のことも考えてあげるんッスよ」
いわれたフーカにはよくわからなかった。しかし、フーカは何故だか怒られたみたいに気持ちがしゅんと沈んでしまった。ノエは静かに微笑んでいるのにもかかわらず。
「わからないよ…」
「フーカには、まだ難しいかもしれないッスね」
フーカの素直な言葉に寂しそうに笑うノエであった。




