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マーマン危機一髪  作者: ベスタ
3/19

2 成長

 一二三とテルはポリフェル城を移動していた。


 以前、テルは一二三からブドウをもらっていた。ブドウと聞いて喜んだテルだったが、それはテルの期待していたブドウとは似て非なるものだった。

 大きい粒が集まったものではなく木苺のように小さい粒が固まりとなったもので、甘くなくどちらかというとしょっぱい物だった。しかし、これはこれで美味しいものだ。ブドウのつぶつぶをプチプチと潰す食感が楽しい。そもそも海水の中で生活しているのだ。しょっぱいのは当たり前かもしれない。


 そのブドウを入れたカゴを抱えながらテルは一二三の部屋へと向かっていたのだ。内容は主にブドウの情報についてだ。


「こんな食べ物もあったんだな」

「ええ、このカララトの名産品であまり流通もしていませんが。アーラウトで育った兄さんには珍しいものだと思いまして」

「ああ、できれば定期的に購入したいな」


 テルは人間時代、居酒屋にも行ったことがある。主に会社の飲み会の付き合いで。

 基本的に前世のテルはオタクである。そんな付き合いの時間を作るくらいならば家でゲームをしていたいのだが、残念ながら生きて行くにはお金がかかるもの。お金を得るお仕事の付き合いで仕方なく会社主催の飲み会には顔を出していたのだ。流石に人生全てをオタク趣味に向けていたら40まで仕事などできていない。


 その中の1件に沖縄の居酒屋があった。

 そこでおつまみとしていた海ブドウ。その感触に近い、というかそのものではないだろうか。安酒とはいえ元々軽く晩酌をたしなむ程度にはお酒を飲んでいたテルは、こういうおつまみも好きなのだ。問題はメインのお酒がないことだが、テルは魚として生まれた時からあまり気にしてはいない。ないものはないのだから。諦めているとも言える。


「購入の件、頼んでもいいか?」

「いいですよ」


 軽く微笑む一二三。よく考えてみればテルは兄弟たちとこういった話をするような時間を持ったことがなかったように思う。命を預けあい、よく話をしている一二三ですら何が好きなのかもわからないのだから。

 一二三の笑顔はテルのことを少し知ったからの笑顔だと思う。テルがこういったお菓子のようなものが好きなのだとしれた嬉しさなのだろう。


 だからといってテルが自らどうこうコミュニケーションが取れるわけではない。兄弟だから、必要だからとなれば話すこともできるが、あまり深く入り込んだ会話は苦手なのだ。


 どうしたものかとテルが考え込んでいると、先の部屋から魚人が出てくる。それはテルたちの兄弟である56五十六いそろくであった。一二三の部屋から出てきたということは何か書類関連のものを持ってきていたのだろう。


「ああ、参謀。こちらにいましたか」

「何かあったのか?」


 五十六の言葉に一二三は尋ねる。本来は五十六の方が一二三より兄である。イワシ的に考えて兄を上に見る文化があるのだが、ここは国の機関である。兄弟の序列より役職を重視する。

 そのため、一二三の方が偉そうにしているのである。兄弟だからといって馴れ合っていたのでは他のものに示しがつかない。


(じゃあ、俺はなんなんだって話だけどな)


 テルはほとんどのものにタメ口である。かしこまってしゃべるときはスイカやゲールラ将軍など兄弟でもなんでもない偉そうな役職の人の前だけである。それ以外のものにもかしこまった方がいいのかとも思うが、テルとしては兄弟という意識の方が強いのかついついタメ口で話してしまい、それを許されるのでテルとしてもタメ口で話すままとなっていた。


 テルの役職は未だに『サラリーマン』なのだが。

 もしくはイワシ兄弟の長として考えられているのだろうか。それならば納得である。イワシ兄弟達はいまや出世してタコス軍の中で勢力を持っている。その出世した魚人達が兄さんと慕ってくるのだ。それだけでテルは侮られていないのかもしれない。

 兄弟だのみというのがなんとも歯がゆい感じではあるのも確かではあるが。


 テルの思考が脱線している間に五十六は報告する。


「急な案件ではありません。サイガンドに向けて立っている砦のフラボン砦、タロスに向けて立っているイソボン砦、両方の将から正式にタコス様に従うという書類が届きましたので持ってきたところです」

「そうですか。あの砦もコノワタがいなくなった今、次の支配者であるタコス様に従うのも当然ですからね」


 書類というのは情報の記載された粘土板である。

 おそらく契約書のようなものであろう。それが一二三の部屋に届けられたということだった。

 一二三はこの国の参謀をしている。その役割は内政、外交の両方を担当しているのだ。


 テルとしては首相とか宰相かなんかではないのかと思うのだが、この国ではなぜか参謀と呼んでいる。

 そもそも宰相とかいう役割は、タコス軍以外では1番魚人という役職の魚人が行なっているのだ。タコス軍には1番魚人がいないのでこんなややこしい呼び方となってしまっている。


「タコスもさっさと1番魚人を決めてしまえばいいのに」

「それは……」

「そうですねぇ」


 テルの言葉にいぶかしむ五十六とゆっくりと頷く一二三。特に何があると思って話題に出したわけでもないので、テルは特に話題の流れを気にもせずブドウを食べた。少し行儀が悪いが、別に叱られることもないだろう。


「……やっぱり兄さんは気づいてないんですね」

「そういうことだ。あまり気づかれるなよ」


 ごにょごにょと五十六と一二三が何事か喋っているが、こっそりと喋っているということはあまり他人に聞かれたくない話なのだろう。


 一二三は参謀だが、五十六もそれに準ずる能力がある。一二三と同じように武器をとっての戦闘は苦手だが、戦術の指揮が上手なのだ。それを一二三に見出されて採用されている。

 ただ、五十六は賢いといえどその能力は主に戦術に偏っている。内政方面についての知識は残念ながらそこまで頭が回らない。タコスの内政のお手伝いをしているテルとしても本当に残念だ。


「それと、新しく強そうな魚人をタコス様が作られました。その確認をお願いしたいと思いまして」

「そうですか。兄さん、時間がよければ一緒に行きませんか?」

「ああ、いいよ」


 五十六の報告に一二三がテルの予定を聞いてきた。テルとしても戦力確認は大事だと思うので同行することとした。


 タコスが魚人を作るというと、昔の特撮なんかでやっている得体の知れない液体とかから怪人を作り出すのを想像してしまいがちだが、もちろんそんなことはない。

 支配者であるタコスはジンカの業というものが使える。その力で魚から魚人にするのだ。


 五十六の先導で一二三とテルは練兵場に向かう。

 どんな魚人でも魚から魚人になる場合は、まず魚人状態の体に慣れなければいけない。手はもちろん指の動かし方、泳ぐ時の体の動き、そういったものを一から覚え直さなければいけないためだった。


「ああ、いたいた。おーい」


 五十六が声をかけると魚人達の中からひときわ背の高い魚人が進み出てくる。


 背丈は180cmから190cmくらい。

 見あげるような筋肉質のがっしりした体つきもそうだが、問題は彼のつけているフルプレートメイルであった。全身を覆う鉄とは違ったプレートメイルは顔から足のつま先まで全てを覆っており非常に固そうだった。その威圧感でテルは内心ちょっとビビってしまった。

 その兜の目の部分が上に開き、魚人の目が見える。


「どうも、はじめまして。この度魚人になったタルトルです。どうぞよろしく」


 すごく優しい目をしていた。テルのビビっていた内心がほぐれていくようだった。五十六がタルトルの紹介をする。


「彼は亀の魚人でタルトルといいます。見ての通り防御力がたかそうでいい働きを期待できそうですよ」

「これだけ大きいと敵の攻撃ならなんだって防ぎそうだな。頼もしい」

「あ、ありがとうございます」


 一二三の言葉にタルトルが恐縮する。体は大きいが肝はまだ小さいようだ。

 しかし、テルとしては別の考えもあった。


(魚じゃないのか)


 そう。タルトルは亀の魚人。つまり魚類じゃなくて爬虫類なのである。それがテルには不思議に思えた。まあ、そもそも以前タコスはワニとかカニとかを魚人に変えていたのだから今更といえば今更なのだが。

 ジンカの業というものに改めて驚くテルであった。

 一二三はそんなテルに聞いてみた。


「戦ってみますか?」

「いや、俺じゃ勝てないだろう。これだけ守られていると槍も効かないだろうし」

「以前勝てそうもないデンキウナギの魚人と自ら進んで訓練していたと聞きましたが」

「あれば別の意味があったんだ」


 なぜ一二三が戦うなどというのかテルには分からなかったが、聞いてみてはっきりした。


 以前テルはデンキウナギの魚人、エルエイルと戦闘訓練をしていた。エルエイルの方が強くて端から見ていれば一方的にボコボコにされていたのだが、テル自身には意味があった。

 それは職業のレベル上げ。

 テルには特殊な能力、ステータスで自分の状態を曖昧に見ることができるのだが、そこで見た能力。


 テル

 職業 イワシLV99

  マーマンLV15

  マーランスLV16

  マーボーLV9

  電マーLV15

 装備 ノエ


 この電マーをレベルを鍛えるためだったのだ。電マーは電気マーマンの略であり、電気耐性のあるマーマンであった。

 それを鍛えるためにエルエイルとの訓練をしていたのであり、テル自身が痛めつけられるのが好きというわけではない。

 少なくともタルトルの強さをはかりたいのであれば、テルよりも強い魚人と戦わせればいいのだ。

 例えば兄妹である奈美とか。

 そこまで考えてテルは気づいた。


「そういえば奈美がいないな」

「彼女は史郎と結婚した後、軍を辞めまして」

「そうなのか」

「ええ。たまにこちらに顔を見せにきますが、基本的には史郎の家にいますよ」


 一二三が教えてくれた。

 テルは言われて納得する。史郎としてもせっかくの結婚した魚人の嫁を傷つけたくはないのだろう。幸い奈美は軍の中でも強い部類ではあったが、指揮をする隊長レベルの者ではなかった。

 寿退社をしても、そこまで軍の運営に影響は出ないだろう。


 また、守るものを持った男は強い。


「はあっ!!」

「ふんっ!」


 ガッバシッ!


 テルの視線の先にティガと戦う史郎の姿があった。

 史郎の素早い突き込みに、軽く身を引きながらティガは腕でさばいていく。時折ティガが反撃し、史郎が何度か棒で攻撃をさばくもさばききれずティガに寸止めされてしまう。


「はあっはあっ。参りました」

「ああ、お疲れ」


 ティガが疲れてへばる史郎をたすけおこす。未だにティガに及ばない史郎だが、そもそもティガはタコス軍の中でも1、2を争う実力者だ。そのティガと戦えるだけでもすごいことであった。


「史郎様。頑張りましたね」

「次は私と練習してください」


 史郎に惜しみない賞賛の声と腕試しの依頼が降りかかった。

 テルとしてもこれは驚くべきことである。テルにとって史郎は、戦えば100回に一度くらいは勝てるかもしれない相手であったのだ。

 しかし今では100回やっても勝てる気がしない。動きのキレ、力強さ。それらが段違いになっていたのだ。同じ魚人とは思えなかった。


 みんなが成長しているんだな、とテルは脇に抱えていたブドウを隠しながら思った。

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