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マーマン危機一髪  作者: ベスタ
2/19

1 もう1人の支配者

シリーズ3作目です。

前の話を読んでいないとネタバレの要素があります。

 支配者タコスの支配はついに2つ目の海域まで及んだ。

 そのため、タコス軍は政治の中心地をアーラウト海域からカララト海域に変えざるを得なくなった。


 理由は簡単。

 アーラウト海域から前線まで距離がありすぎるのだ。もしサイガンドやタロスから攻められても、駆けつけるのは難しいだろう。


「あー!!! もう!! めんどくさい!!」


 ご立腹の現支配者、タコスであった。

 なにせ、カララト海域の旧支配者であるコノワタを殺してしまったので、カララトの政治の空気を入れ替えなければならないからである。



 コノワタ自身は特に不正を推奨したり、荒れている内政を放置したりということもなかった。

 問題はコノワタについていた内政官である。

 イソギンチャクの魚人であるコシイとコバンザメの魚人であるサスガである。この2人がコノワタの周りで常にコノワタをもてはやしていた。内政は決して上手とは言えなかったようだが、この2人から話を聞く前にテル達は彼らを殺してしまっていたのであった。


 元々、カララトは高温の海域である。暑いことにさえ目をつぶれば生き物というものは暑ければ暑いほど動きが活発になるものだ。結果、豊富な食料は手に入るわ、豊富な生態系からは各種様々な魚人が生まれるわで、豊かな土地なのだ。2人の魚人が少々手を抜いていても問題がないくらい富んでいた。


 ちなみにどのくらい豊かかというと、アーラウトが用意できた兵士が7800名、サイガンドが用意できる兵士が8500名、タロスが9200名という状況で、カララトは守備を合わせてとはいえ16500名用意できたのだ。それだけでどれくらい優秀かというのかがわかる。



 戦争によりアーラウトは7200名。カララトは城の部隊が8500名から3800名まで壊滅したが。

 タコス直々のサラリーマンであるテルは、やれやれと軽く首を振りながら言った。


「抑えてくださいよ。確か今日には着く予定なんですから」

「ん? そういえば今日だったか」


 タコスがそういったちょうどその時、廊下から軽い足音が響く。その音が部屋の扉の前で止まると、控えめなノックの音が聞こえてきた。


「だれだ?」


 不機嫌を隠そうともせずにタコスが訊くと扉の向こうの人物が軽く息を吸ったのがわかる。足音とその様子から、どうも扉の外に2名いることがわかった。


「お待たせいたしました。アーラウトから呼ばれて、今、到着いたしました」


 その男は少し太り気味の男であった。過労気味なのか目の下におっきいクマをくっきりと作っていたが。


「久しぶりだな、ムジナ」

「兄さんも、お久しぶりです」


 テルの弟、ムジナが顔をだしていた。ムジナはテル達兄弟のうちで、唯一と言っていいほど内政向きの魚人であったのだ。そのため、殆どの政治の全てを一手に率いていると言っても過言ではなかった。

 過去形なのは、タコス軍の政治を名実ともに一手に率いることになるからである。

 それくらい内政官というのは人材に乏しいものであった。


「まあ、積もる話もあるが今日のところは顔見せにして、疲れを取るがいい。明日から頑張ってもらわねばならないのだから」

「その件ですが、私は今日にでもアーラウトに戻らないけませんで」


 タコスが旅の疲れをねぎらおうとするが、ムジナはほほをピクピクとさせ、帰ると言い出していた。


「帰る? お前がいなくてカララトの政治はどうするんだ?」

「その為にある人をお呼びしたんで。どうぞこちらへ」


 タコスの疑惑の言葉に、ムジナは後ろにいる人物を呼んだ。そういえば人物の気配はふたりだったはず。そう思ってムジナの後ろを見て、


 タコスの体が固まった。

 その影は威勢良くタコスとテルのいる執務室に飛び込んで、胸をそらした。


「ほほほほほほ!!!スカタコスは相変わらず頭がスッカスカのようじゃな!」

「げぇっ!!」


 本当にげえっという人を初めて見たテルであった。それぐらいタコスにとってみれば会いたくない人物である。


 その少女は白い髪を翻し、同じように透明感のある洋風なヒラヒラした白い服を着て、タコスと同じ金色に光る目をランランと輝かせて執務室に入ってきたのだ。

 アーラウトの旧支配者、スイカである。今はアーラウトの首都、カリウム城で捕虜の身であったはずだが。


「こんのバカスイカ! 何しに来やがった!」

「ほっほっほ!! 頭の足りんスカは礼の言葉も知らんとみえる!」

「あんだ!? やんのか!?」

「なんじゃ!? やるのか!?」


 とても元気であった。鬱憤をためていたタコスはすぐさま噛み付く。

 今にも殴り合いそうな2人の間に割り込みながら、テルは先ほどのスイカの言葉に引っかかった。確認のためにテルはムジナに訊ねる。


「礼?」

「はい。先にあったうちらの軍とカララト軍との争いで、うちらは少々無茶をしましてなぁ。


 具体的にいうと、最初の戦いで負けた時に敵の目の前に投げ出した食糧ですな。元々軍というものは食べ物をよう食べます。それをしばらくとはいえ、維持せないかんかった。しかも最初に必要と言われとった分プラス追加の分です。ここをケチりゃあ負けるとはいえ、食べ物は魔法のようにポンポンとでませんからなぁ」


 なるほど。食糧だって無限ではない。むしろ有限であると思うのが殆どの人間の見解だ。しかし、戦争している当人達は食べ物をおろそかにする。命を張って戦っているんだから食べれて当たり前だろう、と。

 全然当たり前でもないのだ。それはテルは以前の敗戦の時に嫌という程思い知っている。


「あと、食料と一緒に武器ももっていかせました。この武器は槍だけ、今回の戦いだけ、と割り切っても1万本程も用意したんでして。ちなみにこれ。決して多く見積もっちゃおりません」

「なるほど」


 腹を満たせば次は武器だ。腹一杯で拳で向かっても勝てるものも勝てないだろう。テル自身、槍をメインで使うので武器の大切さはよくわかる。


「最後に、戦ったもの達への褒美です。戦ったものには休暇も出さにゃならんでしょう。戦った分だけ恩賞も与えなけりゃならんでしょう。死んだものに家族がいれば補償もしなけりゃならんです。


 聞いたところによると、兄さん達の報酬は月額固定支給と聞いてますが、だからといって報酬が全くいらんというわけにもいかんでしょう?」

「そうだな。できればもらいたい」


 そういって眉間のシワをもみほぐすムジナ。テルとしても内情を知っているので、気分としてはボーナスはもらいにくい。しかし、家を長い間放置して、そのほとんどを戦闘に回しておいて何ももらえないではモチベーションも違うというものだ。


「それらの問題で流石に首が回らんかった時に、スイカ様に活躍してもらったってことです」

「おう、そうじゃ。つまりこのスカは妾のおかげで勝てたということじゃな」


 偉そうに胸をそらせるスイカ。しかし、今回は偉そうではなかった。実際に偉かったのだから。


「ぐぬぬぬぬ…」

「お? どうした? 感謝を示してもらっても良いのだぞ? 地面に土下座して『スイカ様のおかげで勝てました。あなた様の偉大様に比べればわたくしめなどゴミムシでございます。』と言って靴を舐めるのを止めはせんぞ? まあ、お主に舐められるなど嫌なので、その時にはありがたく靴の裏で踏んでやるがの? ほっほっほっほっほ!!!」


 悔しそうに唸るタコスに笑いながらおちょくるスイカ。色々ひどかった。ムジナが解説する。


「実際、支配者様であるスイカ様が矢面に立ってくださったんで、各領地からの食料調達が非常にスムーズに行われました。その後の分配や調整に関しても、なかなかお上手にされておられてまして」

「妾もいつまでも檻の中では嫌なのでな。唸っておったそこのムジナに処遇改善要求のついでに手伝ってやったのじゃ。交換条件じゃな」


 ムジナの説明にスイカが本音をはいた。タコス以外の魚人には中々に話のわかる支配者なのである。そこでついにタコスの堪忍袋の緒が切れた。


「だからってフリーで歩かせてんじゃねえ!! 反乱とか起こしたら面倒だろうが!!」

「はんっ! 頭がガキなお主と一緒にするではないわ! この戦闘狂めが!!」


 やいのやいのとうるさい2人を放置してコソコソとムジナがテルに耳打ちした。


「正直私もそこが心配だったんですが。どうやらスイカ様は海域の支配にはあまり関心がないらしいですわ」

「そうなのか?」

「はい。どうも以前信頼していた魚人にひどい扱いを受けてたんで、支配者っちゅうのに懲り懲りなんでしょう」


 スイカはタコスに監禁される以前より、信頼していた1番魚人であるダイアという魚人に監禁されていた。そこには自由はなく、不自由な生活であったのだろう。

 それでも支配者であるスイカが本気で嫌がれば、いかにダイアが1番魚人であろうとも周りの魚人が黙ってはいまい。それをしなかったスイカの心境はわからないが、いまは閉じ込められていたくないというのが本音なのだろう。


 テルにはそれは、いいことのように思えた。


「じゃあ、信頼できそうだな」

「はい。正直タコス様より向いてると、私は思っとります」

「わかった。スイカ様はカララトにいてもらうとしよう。それで、スイカ様がいなくてもアーラウトは大丈夫か?」


 スイカのおかげでアーラウトがまとまったというのならばムジナだけでは抑え切れないのではないか、という意味でムジナを見てみるが


「不満を言っとるのはもうおりません。あとは負債を利子つけて返せばそれで終わりですわ。それぐらいならわたし1人でもできます」

「そうか」

「あっ。ただ、食料や武器の支給はできませんな。しばらくはアーラウトは戦争なんてできんので、あしからず」

「わかった。細かいところは書類で後で出しといてくれ」

「はい」


 テルはムジナと細かい調整を終えた。ムジナは言った通り本当にすぐに帰った。目の隈は相変わらず濃いままであり。テルはすこしムジナの体調が気になった。

 ただ、テルは


「相変わらずお主は感謝というものができんのう!」

「俺様は俺様のやりたいようにする!!」


 ムジナはただ逃げただけじゃないかとも思った。

 執務室に響く喧嘩は中々収まらず、結局その日は延々と2人の喧嘩を聴きながらの仕事となった。




 スイカはうるさいものの政治力はあるようだった。


「ところどころ、街道整備やプランクトン養殖場の増設についての案件が滞っておるな」


 それらの書類をさっと目をとおし、可不可を瞬時に判断し、許可できるものを優先的にタコスに任せる。タコスもささっと目を通してその粘土板に許可を出す。

 ある程度頭の中に地図が入っているのだろう。地名を聞いて何処そこには何があり、ということがわからないとこういう判断は時間がかかってしまうのだが。


 だからテルには政治面であまり手伝えないとも言える。

 スイカの加入はたしかに助かることであった。スイカが来てからテル達の作業スピードは数倍に跳ね上がったのだから。口げんかがうるさいが。




 夕方になりテルはフーカと一緒に食堂から出てくる。

 しばらくの間、テル達はポリフェル城に住むこととなっていた。それはタコスの身辺警護のことがあった。


「お城の食事は美味しかったな」

「わたし、残さず食べれたよ」

「そうか、いい子だな」


 フーカが言っているのは夕食に出て来たワカメサラダのことである。このサラダ、好き嫌いが激しいことでも有名である。それを食べたことをフーカは褒めて欲しいのだろう。よしよしとフーカの頭を撫でてやるテル。


 最近、このようにフーカが甘えてくることが多くなっていた。別に悪い気もしないのでテルも止めたりはしない。以前よりもなんだか親しくなった感じがしているからだ。


 それは特に、前回の戦いから顕著になったような気がする。

 テルは特に原因が分からなかったのだが。


 そのまま庭に面した廊下を歩いていると、廊下の先が薄ぼんやりと青く光っていた。もう日が落ちている。

 日が落ちると夜行性の魚人以外は皆眠りにつく。ある程度は夜目が効くのでテル達は完全に暗くなる前に部屋に行って眠ってしまうつもりでいた。


 流石に水中では火が使えない。

 火が使えないということは明かりが手に入らないのだ。明かりが手に入らないということは1日のうち夜の時間が完全に無駄になるということだ。時間がもったいないとは思うがどうしようもない。


 さすがに人間の時は夜にゲームをしていたりもしたのだが、魚になってからはほとんど健康的な生活なので日が落ちて眠るのになんの抵抗もない。


 しかし、テル達に前にはぼんやりとだが明るい光が見えた。

 気になったのでフーカと一緒にその明かりの方にふらふらと寄ってみた。


「♪〜」


 そこには鼻歌を歌いながら庭を眺めるスイカがいた。そのスイカの服のヒラヒラから淡い光がふわふわと輝いていたのだった。

 その光はとても綺麗でみるものを引きつけさせた。


「きれい」


 ぼーっとしてフーカが呟いた途端、スイカが鼻歌をやめこちらをみた。まさか誰かいるとは思っていなかったのだろう。


「な、なんじゃ。お主らか」


 そう言って安堵の吐息を漏らす。多分鼻歌を歌っている姿を見られたくない相手でもいたのだろう。主に赤を好む支配者あたりに。

 テルは不思議だったので聞いて見た。


「なぜスイカ様の服は光ってるんです?」

「ああ、これはな。小さい虫がくっついておるんじゃ。虫とは言っても目には見えんがな。妾が好きらしくての。妾は支配者の一族でもこの虫に特に好かれているのじゃ」

「へぇ」


 テルは綺麗にライトアップされているスイカに少し見とれた。そして、その光で周りがよく見えているのも感じていた。庭が淡い青色でライトアップされて幻想的に浮かび上がっていた。


「さて、妾も夕飯にするかの」

「わたしはワカメサラダも食べたよ」

「うーん。妾はあれが苦手でのぅ」


 フーカの言葉にうーんと唸りながらスイカは食堂へ向かっていった。幻想的な風景も消えてあたりは視認が難しいくらいに暗くなりかけていた。


 テルとフーカは急いで自分たちの部屋へと戻っていったのだった。

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