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悪役令嬢と王道転校生と…

作者: ゆゆか

本日の授業も終わり、今私は学園内のサロンで優雅に午後のティータイムだ。

窓際の席で暖かな午後の日差しに目を細め…


「おい、聞いているのか?」


テーブルには最高級茶葉で淹れられた香り高い紅茶が薄く湯気をたてている…


「…だからな?悪いことは言わない。悪役令嬢など辞めるのだマリアージュ。」

「………。」


そして…私目の前には今日も訳の分からない寝言を宣うマリモが1人…


こんもりとしたアフロヘアーに厚底眼鏡と言う、非常に分かりやすい変装の男である。

いつもの事ながら意味不明な熱弁を繰り広げ続けているが、私の耳には入らない。

入らないったら、入らない。


「お前のフランツ殿下に対する一途な思いは高く評価する。だが、嫉妬に狂って身を滅ぼすなど愚かだ。賢いお前ならば分かるな?」

「………。」


そもそも私と殿下の間には恋愛感情と言った物は存在しない。

王公貴族には当たり前だが、家同士で決められた婚約者なのだ。

この辺は仕方がないではないか。


だが…残念な事にこのマリモ生物には未だかつて私の言葉が通じた試しが無いのだ。

従ってひたすら寝言を聞き流す。

…願わくば早く終わってくれ。


「今日も配下の者達を使って呼び出しなぞしていたそうではないか…その様な事は高貴なお前の名を貶めるだけだぞ。」

「………。」


私に配下の者などいる訳が無い。

今日も絶好調にボッチなのだ。

寧ろ今の私に話しかけてくるのは、この人語を解さぬマリモのみと言っても過言では無い。…全てコイツのせいだがな!!


以前は私にだって多少の友人くらいは居たのだ。

決して人望が無い訳では無いぞ!!


だいたい貴族社会は友人選びも難しい物なのだ。

特に家の格だの、派閥だの、本人の資質だのets…

あわよくば利用してやろうと群がって来る奴等の何と多い事。

だからこそ友人は選んで付き合わねば、此方が要らぬ被害を被る結果となる。

好き嫌いだけで友達作れる庶民とは違うのだ。


そんなこんなで私が厳選に厳選を重ねて得た友人達は、家の格もさる事ながら本人達も非常に優秀な才女ばかりであった。


…だからだな。

優秀な彼女達は、私が正体不明のマリモ生物に寄生されるようになると絶妙なタイミングでフェードアウトしていった。

うーん…実に見事であった。


いやいや、彼女達を責めるつもりは毛頭無い。

君子危うきに近寄るべからず。

誰だってこんな不振人物とはお近づきになりたく無いのだから。

私が彼女達の立場でもきっと同じ行動をしただろう。


ハァ…1人くらいはおバカな友人も作って置くべきだったかもしれない。


「まだ分からぬのか?これ以上アンジュには関わるな!…それがお前の為だ。」


・・・だからアンジュって誰やねん!!






…こほん。失礼。

今世での(ワタクシ)は、マリアージュ=オーベルライトと申しますの。

オーベルライト侯爵家の長女で一応(・・は、この国の第二王子フランツ殿下の婚約者でもありますわ。あくまで一応は、ですけれども。


今世(・・)のところでお気付きの通り、私には物心付く前から前世の記憶がございますの。

前世の私はこことは異なる世界…異世界とでも申しましょうか…

その世界で極々平凡な家庭に産まれ育ち、極々平凡な生涯を少々早目に終えた、正真正銘の庶民でございました。


…と言う訳で、お貴族様のお嬢様ぶりっこマジ疲れるわ~

いつ如何なる時も優雅な微笑みを絶やさず、人様の話の腰は折らず、決して出者張る事無く控え目に、且つ聞き上手がレディのたしなみだとか。

だ~~~!!めんどくせ~~~!!


だが、しかし!!前世干物女上等で、ものぐさな私がこんな窮屈で堅苦しいお貴族様生活に堪えてお嬢様しているのにも、ちゃんとした理由があるのだ。

主に私の極めて個人的な欲望の為だがな!!


そのためには先ずこのアフロを何とかせねばなるまい。




「リカルド様。何度も申し上げますが、私には貴方様の仰る事に一切覚えがありませんの。」

「…ハァ…マリアージュ。何故分かってくれないのだ?」




おいおいおい!!

その台詞、そっくりそのままお前に・・・お返ししたい。

そして早く私を解放しろ!!


大体貴様は私なんぞにかまっている暇は無いはずなのだ。

こんな所で油を売っている暇があるならとっとと攻略に行けぇい!!


そして私に大いなる萌えを提供するのだvV ハァ…ハァ…






私はこの世界が作り物…ただの虚像だと知っている。


ここ、聖フィールド学園を舞台に繰り広げられるR18vな、BLゲーム。

【嵐の転校生☆】~放課後に捕まえて~ のゲームの世界であることを。

はい。しちゃいましたよ流行の転生トリップ。

来ちゃいましたよ憧れのBL天国!!

ヤフ~~~~!!神様有難うございます!!




前世の私は腐女子であった。

それはそれは立派に極めた腐女子であった。

故にBLと名の付く物は片っ端から網羅したと豪語する。

その極め過ぎたコレクションの中でも極めつけに王道テンプレなBLゲームが【嵐の転校生☆】だ。

時期外れな転校生がイケメン達を次から次へと攻略しまくる『勿論ハーレムエンドもありだよ♪寧ろ攻略対象全員とイヤンでアハンでウフンなトゥルーエンド推奨だよ♪』と言う非常に分かりやすくも腐的に美味しいゲームなのだ。


そして…この私の目の前の人物。

このマリモこそが、このゲームの主人公(受専)なのである。


マリモことリカルドと言う名は勿論偽名で、その正体は御忍びで転入して来た隣国の王子様だ。

更にアフロと眼鏡を取れば、まるで作り物のような絶世の美少年と言うのは最早お約束。


なのに…なのに、なのにっだ!!

何故こやつは毎日私に付きまとって訳の分からん寝言をほざいてばかりいやがるのか?


私の出番はこやつがフランツ殿下ルートに入ってからだ。

確かフランツ殿下ルートの序盤、二人の逢瀬(夕暮れの教室でハグ&キスvV)に婚約者であるわたくしマリアージュがバッタリ遭遇v!!


…カタン…

「っ、フランツ様…一体何をなさって…」…のシーンで私は初登場だったはず…

それ以前にこいつとの絡みなど無かったはずなのだが…


…バグか?…バグなのか?

まぁ、ここはリアルだ。

全てシナリオ通りとはいかないだろう…が…


はっ!!ゲームの流れと違う展開!!…って事は…

もしや…こやつの狙いはフランツ殿下ルートでは無いのか!?

そうすると当然ハーレムルートも無しなのか!?

そっ、それは困る!!せっかくの私の野望!(なま)BLがっ!!

せっかくリアルで生々しい生BLを思う存分堪能できる特等席(マリアージュ)に生まれたと言うに!!


むおおぉぉぉぉぉぉ!!

ここまで来て、諦めきれるかぁあぁぁぁ!!




「時にリカルド様はフランツ殿下の事をどう思われます?」


BLゲームの攻略対象だけあって、うちのフランツ殿下も大変見目麗しいハイスペックなイケメンなのだよ?


「…どう…とは?」


またまたぁ、すっとぼけは無しですぜ旦那ぁ!!

何せあれだけ目を引くイケメンなのだ。

ゆるいウエーブのかかった見事な金髪に、エメラルドの瞳。

マリモより10cmは高い高身長に加えて、文武両道均整のとれた細マッチョ。

まさに王子様とはこうゆうモノだぁ!!を体現したような男なのだ。

BLゲームの主人公(受)のお前が何も感じないなんて言わせない!!


…ああ…ひょっとしたらこれはアレか?

王道主人公にありがちな鈍感系ってヤツなのか?

OK!OK!その辺もお約束だよね。さすが主人公。

そう言う事ならばここはちょいとアピールタイムといきましょうかね!!


「とても素敵な方だと思いませんこと?文武両道、性格も至って穏やかな紳士ですし、男女(・・)共に人気がございますのよ。」


押し(おし)。推し(おし)。ひたすら圧し(おし)。




「…マリアージュ」


明らかに動揺を隠しきれないマリモ少年。

その少しズレた眼鏡の奥から覗くパッチリとしたお目々は切な気に細められ、心なしか潤んでいる。

なんだ。脈はあるんじゃないの。ホッ

実は水面下では意識してましたテヘ☆ってところだろうか?


…そう言えば主人公って元々はノンケだったっけ?

確か同性に惹かれつつも、己の隠れた性癖に気付き思い悩む性少年の苦悩…

分かります。分かります。そして、たぎります。


それぞ正しくBLの醍醐味!!


だとすれば今は絶賛お悩み中だったと言うとこでしたか!

うん、うん、納得。


そうと分かれば、お任せ下さいリカルド様!いやさ王子様!!

お二人の為!いいえ全てはハーレムエンドの為!!

この腐の女王たる私が一肌でも二肌でも、いっそ諸肌でも脱ぎましょうぞ!!


腐っ腐っ腐っ…

目指せ!!あんなや、こんなや、そ、そんな事まで!?な、ハーレムトゥルーエ~~~ンド!!

ウ~ェ~ルカ~~~ムvV!!










「ハァ…うふふv」


マリアージュは何やらまた想像の世界へと旅立ってしまったらしい…

大方フランツの事でも考えているのだろう…チッ


だか、それじゃ駄目なんだ!!

頼む、目を覚ましてくれマリアージュ!!




この世界はおそらく造られた世界だ。

【君のハートに恋しまくってる】(笑)

王道中の王道、所謂逆ハーレムと言われるジャンルの少女漫画の世界だ。


………俺が前世で読んでいたので、間違い無い。




俺が前世の記憶を取り戻したのはつい最近の事だ。

久しぶりに出掛けた遠乗りで落馬事故にあったのが直接の原因だった。

直後は軽い記憶の混乱に陥ったが、何とか自分の中で折り合いを着けて今世での人生を真っ当しようと受け入れた頃…気付いてしまった。


この世界が…

自分が前世で読んでいた少女漫画の世界だと言う事を…


そして真っ先に浮かんだ少女が…このマリアージュ=オーベルライトだった。




マリアージュ=オーベルライトは【君のハートに恋しまくってる】(笑)に登場する主人公のライバル役の侯爵令嬢、所謂悪役令嬢と言う役どころの少女だ。


だが、俺はあの漫画では彼女が1番好きなキャラだった。

彼女の一途で直向きな恋する乙女心は、優柔不断で下手すりゃビッチと言われ兼ねない主人公よりもずっと好感が持てた。


フランツの為に、彼に相応しい自分である為に必死に努力してきた彼女…

愛する男に裏切られ、嫉妬の余り悪役令嬢へと身を落した彼女…


ただ一身にフランツを愛しただけの可哀想なマリアージュ。





そんなホイホイ心変わりするような男などにマリアージュは勿体無い!!

早々にビッチにでもくれてやればいい!!

自棄を起こすな!!男はそいつ1人じゃ無いぞ!!

お前ならもっといい男がいくらでも現れる!!


…物言わぬ紙面に向かってブツブツ呟く30男はさぞかし気色悪いものだったろう。




だが完全に彼女贔屓だった俺には、物語終盤の皆衆の前で断罪される彼女のシーンは耐えられなかった!!

何故彼女が婚約解消された上に学園追放!?その後没落!?ざっけんな!!

元々婚約者のいる身でありながら、不貞をはたらいたのは王子のほうだろう!!

口出しも手出しもされたくなきゃ、初めに婚約解消してからビッチを口説きぁいいだけの話だろう!?

なのにマリアージュを婚約者と言う口出しも手出しもできる立場に置きながら、堂々と他の女を追っかけ回しやがって!!

挙句、いざ手を出されれば待ってましたとばかりに批難する。

ありゃ絶対ワザとだろ?自分有責で婚約解消できないが故の罠だ。


あれはマジで(はらわた)が煮えくり返ったぜ!!

………あんな悲劇をリアルで起こしちゃいけない…絶対にだ。




幸い、時系列的にはギリギリまだ間に合う!!

俺がこの世界に産まれたのはひょっとしてこの為なのか?

この転生は俺の魂に刻まれた怒りを酌んだ神の采配なのか?

ならば…俺が流れを変えて見せる!!


待ってろマリアージュ。

あんな事になる前に俺が必ず!!






ババーーン!!と、重厚な執務室のドアを遠慮なく開け放つと、ズカズカと中に進み出る。

正面の執務机にはこの国の国王、向かいには宰相がワンセットで居た。

ちょうどいい。


「父ちゃん(陛下)!俺暫く家出(留学)するわ!!」


先程から躾がなって無い事この上ないが、これが今の俺ユリスモールのデフォなのだ。


天真爛漫、唯我独尊を地でいく17歳だが30男の記憶が甦った今ではちとキツいものがある…

かと言っていきなり人が変われば騒ぎになるのは容易に知れているので、その内少しずつ修正を試みようと考えている。


「伏せ字が反対で御座いますぞ王子。」


これが俺の叔父で実質この国の要を担う宰相。


「…あ~急にどうした…」


この頼りない風情の親父が現国王の父。


「急いで(偽物の)旅券作ってよ!」


「今度は正解で御座います。」


挨拶も事の経緯もまるきり無視で要求だけを突き付ける俺。

これも(ユリスモールの)デフォだ。

勿論これはいつもの事なので誰も咎めない。

宰相もそこんとこはスルーだ。


「…うむ。まぁ…良かろう。」


よし。これで許可は取れた。

なんだかんだで父ちゃんは亡き母に瓜二つの俺に超甘い。

そして俺には何を言っても無駄と言うのがここの常識と化しているのだ。

更に宰相には暫く留学してくれるなら寧ろ国は静かになっていいじゃん?ぐらいに思われていると思われる。


早速偽の身分証と学園の入学手続きを頼むと、俺は急いで自室に戻った。

まずは諸々の準備だ!!




さて、これでも俺は一国の王子。

国外にも顔が知れ渡っている可能性を考えて、念入りに変装する必要がある。


変装と言えばカツラは必須。

何せ俺の長い銀髪はこの国の王族特有のモンだしな。

因みに父ちゃんもハゲかかっちゃいるが、さらさらな銀髪だ。ぷぷぷ…


だが、しかし。

俺の腰近くまであるロン毛は普通のカツラじゃ収まりきらない…

あれもダメ。これもムリ。うーん、お?何かでっかいカツラ発見~!!




鏡の前でカツラと格闘する事暫し、うん。中々の出来栄えだ。

仕上げに大きな丸眼鏡装着で、よっしゃ!!完璧だ!!

これならば誰も俺とは気付くまい。


フッフッフッ我ながら上出来だ。

俺、結構変装の才能あるかも知れないな♪






だが…何だかんだの末、万を辞して乗り込んだ学園で出会った肝心のマリアージュには…

連日に渡る俺の涙、涙、涙の説得も全く通じなかった。

可憐に微笑みながらも『覚えが無い』と繰り返すマリアージュ。

流石令嬢の鏡と謳われる女だ。すっとぼけ具合も超一流だ。


艶やかな亜麻色の髪に、すみれ色の瞳。透き通るような白い肌。

リアルで見る彼女は申し分のない知的な美少女だ。

今もニコニコと大変に可愛らしい事この上無いが、騙されるな俺。

女の笑顔と涙は奴等の武器だ。30男の悲哀を思い出せ。


現在進行形でビッチはかなり派手に嫌がらせを受けている。

俺は極力近づかないようにしているが、あれは傍から見てても一目瞭然だ。

クソ王子も最近マリアージュの側で見かけなくなったし、最早一刻の猶予も無い。


そこで俺は作戦を変えた。

可能な限り時間を作り、朝、昼、晩とマリアージュに付き纏いまくった。

ぶっちゃけ俺が朝から晩まで付き纏う事で、マリアージュがビッチに構う暇を与えなければいい。

そうすれば嫌がらせすら出来まい…と言う作戦。所謂いじめ妨害&監視だ。

勿論説得も続けるつもりだ。

マリアージュが自ら気付いて辞めてくれれば、それが一番な事に変わりはない。


しかしマリアージュは正に聞く耳持たぬ。と言った態度を始終一貫しているし、噂で聞くところではアンジェに対する苛めも着々と進んでいたようだった。


何故だ…マリアージュは授業意外、いつも俺が見張っていると言うのに。

一体いつの間に?………はっ!しまった!!

最近姿を見せなくなっていたマリアージュの取り巻き達…あいつ等の仕業か!!







「時にリカルド様はフランツ殿下の事をどう思われます?」


どう思う?はっきり言えばお前と言う婚約者がいながら、他の女に乗り換える男の風上にも置けないクソ野郎だが…

相手は一応この国の王族。はっきりと言える訳も無い。


「…どう…とは?」

「とても素敵な方だと思いませんこと?文武両道、性格も至って穏やかな紳士ですし、男女(・・)共に人気がございますのよ。」


最悪だ。やはり原作通りだ。

この期に及んでまだフランツ殿下に盲目の恋をしているマリアージュ。

あんな見た目だけのクソ野郎のどこが素敵だ!?

いいかげん目を覚ませ!!・・・覚ましてくれ…お願いだ…


「…マリアージュ」



ああ、マリアージュ。

…どうしたら君を救えるのだろうか…










「…マリアージュ」


暖かな日差しが射し込むサロンで向かい合い、切なげに僕の婚約者の名を呼ぶ男に抑えきれない苛立ちが募ります。

でも僕は咄嗟に柱の影に身を隠す事しか出来ない…

こんな自分を情けなく感じながらも、二人を前に冷静ではいられない自覚があるのです。




聡明で美しく慎ましい…正に完璧な貴族令嬢。

令嬢の鏡と謳われるマリアージュ=オーベルライトは僕の自慢の婚約者です。

ですが…どうやら僕が彼女の婚約者でいられるのも後わずかのようです。






貴女と初めて会った子供の頃、愚かな僕は愛してはいけない君を一目見て恋に落ちてしまいました。


決して報われる事の無い恋。

愛すれば愛する程辛くなると知りつつも、僕の目はいつも貴女を追ってしまう。

ですが、いつか離れて行ってしまうとわかっている君に…中々素直にはなれない。

これ以上辛い想いはしたくないと自ら線を引いたにも関わらず、こうして物陰に隠れて様子を伺ってしまう僕は、なんと滑稽なのでしょう。


ああ…今日もまた、あの男と一緒なのですね。

つい先日迄は貴女の隣は僕のものだったのに…








この世界は…ある物語なのです。

前世、僕がまだ僕で無い頃に読んだ小説の舞台。

その話の中に今僕達は生きている。…馬鹿げているでしょう?

でも…それは現実の物として今、僕の目の前にあるのですから。



初めて前世の記憶を取り戻した時、まだ幼かった僕は3日3晩熱を出して寝込みました。


膨大な記憶の波。

ですが最初はただの夢だと思ったんです。

熱に浮かされて長い長い夢を見ていただけなのだと。

でも…その半年後。パーティーで紹介された君を見て、全てを思い出したのです。






それは王族の花嫁にと定められた美しい令嬢の恋物語。

前世の母の愛読書。ハーレークインロマンスと言う書物でした。


年頃になった彼女は学園で運命の人と出逢ってしまう。

許されぬ恋に翻弄され、思い人と婚約者の間で苦悩する彼女。

でも実は彼女の運命の人は身分を隠して留学していた隣国の第一王子でした。

最後には皆に祝福され運命の恋人達が結ばれる王道のハッピーエンド。


…僕(婚約者)以外の人にとってはハッピーエンド。




初めから報われる事の無い恋だと分かっていても、君を思う気持ちを止められない僕は…


ごめん…マリアージュ…

僕はどうしても君を手放せない。


その為に僕は…






「フランツ様ぁ~」


ピンク色の髪を靡かせた少女が、僕に手を振りながら駆け寄ってくる。


「…君か…アンジュ」


そうだ。この子が打ってつけだろう。

最近僕の周りをうろちょろと煩く付きまとう女。

男爵令嬢のアンジュ=モートン。

どんな駒にも使い道はあるものだ。

お前には是非僕の役にたってもらおう。


「よかったら今週末に町へご一緒しませんか?」

「悪いが今週末は都合が悪いんだ」


相変わらず頭の回転の悪い女だ。

自国の王子であるこの僕が、警備万全では無い町中に易々と出掛けられる訳が無い事すらわからない。


「え~この前もそんな事言ってたじゃないですか~。」

「すまないね。これでも忙しい身なんだ」


たかだか男爵令嬢の身分で王家の者を気軽に買い物などに誘う事自体間違っているのだけれどね。

でもそこがいいよ。

無知で常識知らずで怖いもの知らずのアンジュ。

だからこそお前には駒としての価値がある。


「お詫びと言っては何だけど、リカルド殿を誘って見てはどうかな?彼も転校したてでこの辺りは詳しく無いだろう。案内してあげたら喜ぶんじゃないかな?」

「リカルド?あの変な…いえ、個性的な転校生ですか?」


アンジュは露骨に顔をすがめた。

この女はとてもわかりやすい〈玉の輿狙い〉の女だ。

しかも大層な面食いで有名だ。


まあ、この学園そのものが将来の伴侶を見つける為の見合いの場も兼ねているので、婚約者のいない者は相手探しに奔走するのも普通の事なのだが…

流石にこの女は露骨過ぎる。

正に目ぼしい男は手当たり次第と言う感じだ。

従って僕だけでなく学園内でも見目が良く、将来有望な男達5~6人に常に付きまとっている。

おかげで女子の反感を買い、多方面から嫌がらせを受けているらしいが、全く悔い改める気は無いらしい。

その並々ならぬ野心と行動力、豪胆さは寧ろ尊敬に値する。

…僕には無い強さだ。


さて、そんな君の強さを最大限に発揮してもらおうか。

今のところ5~6人分に分散されているその野心と行動力がたった1人に向けば…


「これはアンジュだから特別に話すけど…内密にね?」


僕はわざと小声で彼女の耳元に囁いてやる。


「リカルド殿は…実はお忍びで留学にいらした隣国の王太子なんだよ」

「王太子?…ぇ…(それってシークレットキャラじゃ…)…」


?…よく聞き取れなかったが既に彼女の目が期待と興奮でランランと輝き出した。

どうだい?玉の輿狙いの君には極上の獲物だろう?

彼を落とせば次期王妃だよ?…勿論男爵令嬢ごときじゃ王妃は無理だけどね。


「本当に内緒だよ?今は変装為さっているけど、実際の彼は銀の髪に青い瞳のとても綺麗な人でね…」

「銀髪…碧眼…間違いない…」


さっきからブツブツと何か呟き出したアンジュだが、既に目はギラギラとしている。

もう一押しだ。


「僕としても隣国の時期国王となる彼には、我が国によりいい印象を持ってもらいたくてね?君のような明るくて可愛いお嬢さんに誘ってもらえたら…」

「…はっ、はい!!私、誘ってみます!!…この国のお役にたてるなら私、頑張ります!!」






くっくっくっ…上手くいった。

これで暫くはユリスモール殿下もマリアージュに構っている暇さえ無くなるだろう。


元気よく駆けてゆくアンジュの後ろ姿を眺めながら、これからの算段を思い浮かべる。




僕の(・・)マリアージュ…


君は誰にも渡さない

絶対逃がさないよ…







実は全員転生者でした(笑)


マリアージュ

筋金入りの腐女子。

リカルドとフランツの絡みを妄想するだけで、ご飯何杯でもいける。

できればハーレムトゥルーエンドに持ち込みたい。


リカルド(ユリスモール)

マリアージュの断罪劇+学園追法+没落は防ぎたいと思っているが、婚約破棄は寧ろしてほしい。

寧ろ俺が国に持って帰って、幸せにしてやりたい本音もチラホラ。


フランツ

リカルド(ユリスモール)を何とか出し抜いて、マリアージュを死守したい。

いっそ既成事実でも…とか考えちゃってたり。


アンジュ

逆はー狙いの女の子。(本命は隠しキャラのユリスモール)

尚、この世界はゲーム補正(ゲームの強制力)などは存在しない為、皆から敬遠されているが決してめげないメンタルの強い子。




この後は、アンジュ→リカルド(ユリスモール)→マリアージュ←フランツの追いかけっこのドタバタ劇場?な展開になる模様。



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