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プロローグ
その人は、ゆっくりと私に腕を伸ばし抱き上げる。そして、私の耳元で話始める。
「僕の、ところへおいで」
「――」
「待っているから」
「――」
「ずっと、ずっと君を待っていたんだ」
「――」
「もうすぐ、会えるかな?」
「――」
「僕は、君に会いに行く事が出来ないから……」
「――」
「だから、待っている」
「――」
「ずっと、ずっと、君を待っているから」
そう話終わると、その人は私の頬にキスをする。
私は、もの心付いた頃から同じ夢を毎晩繰り返し見ている。
夢の中のその人は、私をずっと待っている。
どのくらい、待っているのだろう。
私が成長しても、夢の中のその人の容姿はちっとも変わらない。何処の誰なのかも判らない人。顔も見ているはずなのに、目を覚ますと忘れてしまう。優しい声と、私を抱きしめる優しい腕、そして、頬へのキスが、私の中に残される。
それでも、私はその人に会いに行かなければ……。
いつか、必ず……。