(真一)「もしもし?」
(卓司)「よぉ真一、今暇!?」
卓司は軽快な口調で話しかける。
(真一)「おぅ、暇だよ。」
(卓司)「じゃあさ、今からボーリングいかね?」
真一は卓司のこの言葉に少し驚いた。
(真一)「お前今日就活じゃなかったか!?」
(卓司)「そんなもんどうでもいいんだよ。今から遊ぼうぜ!」
(真一)「ったく~将来がどうなってもしらねぇぞ………」
真一は少し呆れた顔をしながら電話で卓司に言った。そして………
(真一)「いいぜ。ボーリングって駅前のいつものとこだな?」
(卓司)「ああ!待ってるぜ!」
卓司からの電話はあっけなく切れた。
(真一)「………まぁ、遊ぶのが一番の暇潰しか………」
そして真一は外に出て駅前のボーリング場に歩いて向かっていった。
時刻は12時48分。真一は駅前に着いたが、すぐにボーリング場には向かわない。
(真一)「腹が減った………」
真一はおにぎりを買って外で食べようとコンビニに寄る。
(店員)「いらっしゃいませ~。」
(真一)「………」
真一は店員の挨拶もあっさり無視しておにぎりを売っているコーナーに真っ直ぐ向かった。
(真一)「………(これにしようか。)」
真一はエビマヨのおにぎりを選んで、次に財布の中身を確認した。
(真一)「げっ………」
真一はここで所持金が500円近くしか持っていなかったことに気付く。これではおにぎりは買えてもボーリング代は到底払えない………
(真一)「………(仕方ねぇ、またあの手でいくか………)」
真一は結局エビマヨのおにぎりを買って、残金が350円程になった状態で卓司たちが待つボーリング場に向かっていく。手に持つおにぎりを食べながら………
時刻は1時前………
(卓司)「お!やっと来た!」
(真一)「悪い、ちょっと遅れた。」
卓司と真一が合流した。そこには同じ同回生の国嶋直樹と阪井静流がいた。
どちらも男性である。
(真一)「今日も6ゲームか?」
(卓司)「ああ、いつも通り投げ放題だぜ!」
(真一)「OK!」
(卓司)「じゃ早速ボーリングしようぜ!」
(真一)「ちょっと待った!」
真一は急かす卓司を、手を挙げて制止した。
(真一)「その前に、賭けをしないか?」
(卓司)「げっ………」
(静流)「賭け?」
真一の提案に卓司はあからさまに嫌な顔をしたが、静流は賭けに少し興味を持った様子でいた。
(真一)「簡単なことさ、1ゲームごとに最下位が1位に500円渡すっていう賭けをしようぜ。その方が盛り上がるだろ?」
(卓司)「やっぱりか………」
卓司は真一の思惑を全て悟ったかのように落胆した。
(静流)「いいぜ!真一の腕がどれくらいかしらねぇけど俺ボーリング強いし一位狙ってやるよ!」
(真一)「じゃあ決まりだな!」
賭けの提案が通ったことで真一は不敵な笑みを浮かべる。
(卓司)「やっぱこうなるのか…………」
(直樹)「?」
卓司はさらに落胆した表情を見せる。直樹は状況が理解できていないという表情をずっと繰り返していた。
そしてボーリングは始まった。1番は静流だった。
(静流)「見てろよ………賭けの話を出したことを後悔させてやるぜ!」
静流が1投目を力強いストレートで投げた。そして見事に全てのピンを倒した!
(直樹)「おぉ~!!」
(真一)「ナイスストライク!」
(静流)「へへっ、どうだ!?」
(真一)「まだまだ始まったばかりじゃねぇか。勝負はどうなるかわかんねぇぜ。」
2番手は卓司だった。
(卓司)「最下位になって出費することだけは避けてやる!」
卓司が1投目をストレートで投げた。1投目で8本のピンが倒れ、2投目では残り2本が倒せずガーターになってしまった。
(卓司)「まぁまずまずか………」
3番手は直樹だった。
(直樹)「とりあえず最下位にならなかったらいいんだろ!?」
直樹は1投目をストレートで投げた。1投目で6本のピンが倒れ、2投目で残り4本のピンを全て倒してスペアをとった。
(卓司)「え!?お前スペア!?マジかよ俺最下位じゃん!」
(直樹)「さすがに500円は痛いからねぇ。」
直樹は少し嘲笑いながら卓司を見下した。
4番手は真一だった。
(静流)「お手並み拝見といくか………」
(卓司)「拝見するまでもねぇよ………」
(静流)「ん?」
真一は無言で1投目を投げた。だが真一の投げた球にはカーブがかかっていて、見事に全てのピンを倒してストライクとなった!
(静流)「カーブかよ!?こりゃ手強いなぁ………」
(卓司)「手強いなんてレベルじゃねぇよ………あ~あ………」
(静流)「なぁに!これからが勝負だ!」
(真一)「へへっ…………」
そしてその順番通りに投球し、1ゲームは順調に進んでいった。その結果………
(静流)「おい………マジかよ………」
(直樹)「こんなの初めて見た………」
(卓司)「天才とはこんなもんさ。まぁ俺が最下位じゃなかっただけマシか………」
全員のスコアはそれぞれ、静流は187、卓司は125、直樹は118、そして真一は259となり、真一の圧勝だった。
(真一)「悪いな。」
(静流)「こんなに強いなんて聞いてねぇぞ!?」
(卓司)「真一が天才なのはみんな知ってたろ………あいつは頭だけじゃねぇんだよ。」
(真一)「約束通り500円よろしく。」
真一は直樹に向けて手を広げた。
(直樹)「ちくしょー………」
直樹は真一に渋々500円を手渡した。
(真一)「じゃ次のゲームしようぜ!」
(卓司)「これが後5ゲームか………」
(直樹)「悪夢だ………」
そしてこのような調子で6ゲーム全てが終了し、予想通り真一が3000円を手にした。ちなみに直樹と卓司がそれぞれ真一に1500円ずつ出し合う結果となった。
(真一)「おっしゃぁ!」
(静流)「結局1回も勝てなかった………」
(直樹)「1500円か、痛いなぁ………」
(卓司)「1500円で済んだだけマシだ………」
時刻は5時32分。4人は清算を済ませてボーリング場を後にした。
(卓司)「てかなんで真一そんなに金持ってねぇんだよ!」
(真一)「いや~気付いたら300円しかなくてよぉ。」
真一は少し恥ずかしそうに言った。
(静流)「だからあんな賭けを言い出したのか!」
(真一)「いや~ははははは………卓司も直樹も悪かったな。」
(卓司)「まぁゲームだから別にいいけどさ。」
(直樹)「まぁねぇ。」
卓司と直樹は少し諦めた顔をしながらそう言った。
(静流)「じゃ俺電車乗るからここで解散だな。今日は楽しかったぜ!」
(直樹)「あ、俺も電車に乗らなきゃ。」
(真一)「俺たちはこっから歩きだな卓司。」
(卓司)「おぅ、それじゃあな!」
(直樹)「バイバイ!」
そして静流と直樹は駅の中に入っていき、真一と卓司は歩いて家に帰っていった。
(真一)「今日は楽しかったぜ。ありがとな。」
(卓司)「なぁに、俺もとにかく遊びたかったからさ。」
真一と卓司は2人で住宅街を歩いていた。その時………
(卓司)「真一。」
(真一)「ん?」
(卓司)「ちょっと話をしないか?」
卓司は住宅街の中にある公園のベンチを指さしてそう言った。
(真一)「あぁ、いいぜ。」
時刻は6時17分、夕焼け空の下真一と卓司は公園に寄ってベンチに座った。
(真一)「話ってなんだよ?」
真一が問いただすと卓司は突然神妙に畏まった顔つきになっていた。そして…………
(卓司)「俺さ………自殺を考えてんだよね。」
(真一)「!」
卓司は軽い口調で真一に自殺をほのめかした。それを聞いた真一は驚いていたが、どこか異様な空気を醸し出していた。
(卓司)「いや、別に死にたいってわけじゃねぇんだけどさ。なんかこんなご時世じゃん?将来が不安っていうかなんかさ………」
卓司の話を真一は静かに聞いている。
(卓司)「就活もやる気でねぇし就職したところで上司に扱き使われるだけだろ?大学卒業したらもう生きてる意味ねぇなぁって思ってよ。」
(真一)「………」
真一は何も言わず卓司の話を聞く。
(卓司)「真一はどう思う?やっぱり自殺なんて馬鹿らしいか?」
卓司は真一に問いただしてみた。すると卓司は思わぬ言葉を耳にする………
(真一)「………奇遇だな。」
すると真一はベンチから立ち上がり、卓司の方を見てこう言った。
(真一)「俺もお前と同じこと考えてたぜ。」
(卓司)「!」
真一の言葉に卓司はとても驚いていた。
(真一)「俺も4回生になった頃からずっと考えてた。今の社会は屑どもが社会を支配してる。そんなとこに出たって何の面白みもない。人間の屑が支配してる社会に興味はねぇし、楽しみが全部なくなるんならいっそのこと死んじまった方がいいかもしれねぇってな。」
卓司は驚いた表情のまま唖然としていた。
(真一)「どうした?」
(卓司)「いや、まさか真一が自殺を考えてるなんてよ…………」
(真一)「意外か?」
(卓司)「だってお前超エリートじゃん!?お前程の天才なら扱き使われることはねぇだろ!?」
(真一)「言っただろ。屑どもが支配してる社会に興味はねぇって。それに何をやってもうまくいくんじゃ逆に何も面白くない。みんなは俺のこと天才天才っていうけど俺は天才って言われるこの才能が邪魔にしか感じねぇのさ。」
(卓司)「それ聞く人が聞いたらすっげぇ嫌味だぞ?」
(真一)「かもな!」
真一と卓司は笑いながら話し合っていた。
(卓司)「へぇ~、天才ってのも考え物なんだな。」
(真一)「まぁな。」
(卓司)「………なんか真一に話せてよかったぜ。」
卓司は笑顔になってベンチから立ち上がった。
(真一)「俺もだ。」
そして真一と卓司は2人で公園を後にした。