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初夜は、鼻血で中止です。

作者: 有梨束
掲載日:2026/05/15

結婚初夜は、シーツが血まみれとなった。

夫の鼻血で。



「カリクス…、大丈夫?」

今日晴れて夫となったカリクスがしょんぼり下を向いている横で、パタパタと扇で煽いで風を送る。


その鼻には、いつものように詰め物が入っている。


結婚初夜が鼻血が止まらずうまくいきませんでした、なんて、落ち込むのも無理ないかもしれない。


…まあ、こうなるのではないかなと、私は正直思っていたけれど。


深夜だというのに、使用人の足音が絶え間なく聞こえる。

それも仕方がない、カリクスが鼻血を出して止まらずに、医師を呼んだり、シーツを替えたりと仕事が増えたのだから。


この寝室だって、侍女たちが入れ違いに入ってきて、全く2人きりではない。



「……………ごめん、エリス」

「あなたが謝ることないわ」

「せっかくの綺麗な夜着まで、鼻血で汚しちゃった」


ああ、そっち?


「エリスに似合っていたのに…」

「控えめなデザインのものを用意してくれたのだけれどね」

「あれで、控えめなの…?」

うるうるの目がこちらを向くので、私、今日子犬と結婚したんだったかしら?と首を傾げそうになる。


私は笑いそうになるのを誤魔化すために、大きい体の可愛い夫の頭を撫でた。





私たちが婚約したのは、私が12歳でカリクスが14歳の時だった。


そのはじめての顔合わせの時も、カリクスは鼻血を出した、私と目が合った瞬間に。


ドクドクと鼻血を流して、手で押さえているカリクス自身もびっくりしていた。


私も目を丸くして、何も言えなかった。


12の少女には、気の利く言葉がすぐには出なかった。


だけど、我が家よりも身分の高いはずのカリクスのお父様が慌てて、私に謝ってくれた。


「エリス嬢、すまない…!せっかくの顔合わせだというのに!息子も悪気はないんだが…!」


今思うと、お義父様もびっくりしていたんだろう、鼻血に悪気があるとは思えないし。


でも、私はその空気感にこの家に嫁ぐのは大丈夫そうだ、妙に確信を持てたから、安心して婚約した。





カリクスは元々鼻血が出やすい体質ではあったらしい。


それが興奮すると、より鼻血に直結するようになったのは、私と出会ったからだった。



最初の頃は私を見ると脈が上がって、鼻血を出すか、次の日熱を出して寝込むか、と体調がおかしくなることばかりだったので、医師から婚約者との接近禁止が出されたこともあった。


あまりの様子に私は不安になって、「カリクス様は、私と会うのがそんなに苦痛なんですか…?」と訊いたのだが、「違う!君といると嬉しくて!どうしていいのかわからないんだ!」とすぐに否定されて、一目惚れだと明かされたのだった。


という感じですれ違うことなく、カリクスとの順調に仲を深めたが、鼻血の回数は減らなかった。




はじめて贈られたドレスを身に纏ったのを見て鼻血を出された時には、とうとう笑ってしまった。


「私が、赤いドレスが似合えばよかったですね」

「……?」

「鼻血がついても誤魔化せそうです」

「エリスは、天使か何かかい…?」

私が天使に見えているのだから、カリクスは相当盲目だと思う。

でも、それが嫌じゃなかったりする。


大人になるにつれて、カリクスも毎回鼻血を出すわけにもいかないので、私と慣れるために長時間一緒にいるとか、夜会で着る服はなるべく通気性のよいものにするとか、色んな対策をしてきた。


今までに比べたら5回に1回ほどに頻度が減っていたので、上出来だったと思う。


鼻血が出てもすぐにお手洗いにいって止めてくればなんとかなったし、私もそれでいいんじゃないかなと思っていたのだけれど、今日は結婚式だったのだ。



結婚式だ。



カリクスが鼻血を出さないわけがない。


でも、式でそんな姿を見せるわけにもいかない。


というわけで、結婚式用のドレスは従来よりも早めに仕上げてもらって、何度もカリクスにドレス姿を見せた。


当日のお楽しみなんて言っていられない。


3回目までは鼻血を出していたが、それ以降は大丈夫だったので、本番までに計10回見せて、なんとか結婚式は乗り切った。


そして、初夜を迎えたのだ。


初夜対策は、事前に何もしてない。

カリクスが鼻血を出さないと、誰が思っていた?

当然、鼻血が出た。


いや、ちゃんと言うなら、途中までは頑張っていた。


私をベッドに横たえて上に跨った体勢で、いつも以上にうっとり見ているなあと思っていたら、ボタボタボタッと鼻血が落ちてきた。


ちなみに、何も始まっていない。



そこからは、血の海だった。


あんな量の鼻血、カリクスと出会ってからもはじめて見て、私は初対面の日のようにじっと見つめてしまった。


かろうじて、侍女を呼ぶベルを鳴らせた。


こうして、初夜の日に妻じゃなくて夫が血を流すこととなったのだった。



「結婚式は大丈夫だったのに…」

「式が無事だったのだから、上出来でしょう?」

私がそう言っても、カリクスは納得がいっていないようだ。


私としてはそんなに気にしなくても、今日からずっと一緒にいるじゃないと思うのだが、カリクスは節目を大事するタイプだから、このままではしばらく落ち込むんだろう。


婚約して1年目の日も熱を出したことを悔やんで、あとから詫びてきたくらいだし。


カリクスに風を送りながら、こんな夜も悪くないと思う。


とても私たちらしいと言ったら、カリクスはいじけてしまうかもしれないから言わないけど。


今日、私が初夜用に用意してもらった夜着が真っ赤だった意味を、カリクスは気づいているのかしらね。




「カリクス、好きよ」

私はしゃがみ込んで、下からカリクスを見上げた。


「なっ!?僕だって好きだよ!?大好きだよ!」

「うん、まだ夜は長いからね。鼻血が止まったら、再開しましょう?」

「待って…、それは余計に鼻血出る…!」

焦った様子のカリクスに、私は今度こそ笑ってしまうのだった。


これで本人は有能なのだから、ギャップがすごい。

私といる時は、ほとんど子犬なのに。


「ふふっ、カリクス可愛い…」

「僕はもっと頼り甲斐のあるかっこいい夫になりたいんです!」


カリクスは大真面目にそう言うが、それがますます可愛くて仕方ないのだから、私も大概だ。


「もう〜、今日だって最後まで鼻血を出さずに1日を終えるはずだったのに…」


カリクスとしては不満そうだが、やっぱり私を見て鼻血を出す夫を見るのは悪い気はしない。



だって、この人、私のことが好き過ぎるんだもの。






お読みくださりありがとうございます!  毎日投稿135日目。

興奮して鼻血が出るの医学的根拠はないらしい…。

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― 新着の感想 ―
何とも微笑ましいことである。 とりあえず出血多量には気をつけて、仲睦まじくあれ
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