第35話:俺たちのギルド
「……なるほど。森で危険な目に遭っていたところを、エルヴァンに助けられ、そのまま馬に『同乗して』街まで帰ってきた、と」
『陽だまりのしっぽ』亭の食堂。
俺の向かいの席に腰を下ろしたセリアは、完璧な営業スマイルを浮かべながら、メモを取りながらニーナの話を静かに聞いていた。
その瞳の奥には一切のハイライトがなく、声のトーンは絶対零度。俺でさえ背筋が凍るような冷気を放っている。何かの取り調べのようでもあった。
「は、はいっ! エルヴァン様には、本当に命を救っていただいて……!」
「様、ですか。ふふっ、エルヴァンも随分と慕われたものですね。私という専属の担当がいながら、いつの間にこんな可愛らしい一番弟子を作っていたのかしら」
「い、一番弟子だなんて私には勿体ないですっ! でも、エルヴァン様の隣で、たくさん勉強させていただきたくて!」
「と、隣、ですか。……へぇ」
セリアの笑顔の圧が一段と増し、ニーナが「ひぃっ」と小さくスライムを抱きしめた。
セリアからの一方的な火花が散っていることに全く気付かない俺は、呑気に煮込み肉を頬張りながら口を開いた。
「いやぁ、ニーナが仲間になってくれて本当に助かったよ。俺一人じゃ、あのバカでかい敷地のギルドを管理しきれないと思ってたからさ。なあセリア、俺たちの新しいギルドの名前、どうしようか?」
「……そうですね」
セリアはコホンと一つ咳払いをして、プロの受付嬢としての顔を取り戻す。
「前のギルドが『獣王の鎖』という、支配と暴力を象徴する名前でしたから、全く真逆の理念を示す名前はどうでしょう?。
例えば……『蒼炎の導き』などはどうですか?」
「いや、蒼炎って、俺が勝手に呼ばれてる物騒な二つ名だし……なんかカッコつけすぎじゃないか?」
「私は賛成です! シリウスちゃんの青い炎、すごく格好良かった!!」
ニーナが目を輝かせて身を乗り出す。
すると、龍玉から顔を出していたファルと、厩舎で食事をしていたシリウスが念話で割り込んできた。
――だめだめ! お名前は、もっと『美味しいもの』がいいの! 『お肉いっぱい団』とか!
『うんうん! 『みんなでご飯』がいい!』
「お前らは食うことばっかりだな……。
でも、そうだな」
俺は腕を組み、今日森で見た光景を思い返した。
血を流し、重たい鎖と首輪で地面に縫い留められ、自由を奪われていた魔物たち。そして、それに逆らえずに涙を流していたニーナ。
「痛みを教え込んで縛り付ける『鎖』の、逆……」
俺の視線の先で、龍玉から顔を出しているファルが、不思議そうにこちらを見つめ返した。
『エルヴァン、お肉のおかわり!』
ファルがハッチから手を出しおねだりしてくる。
「お前は本当に呑気だな……」
思わず苦笑いが漏れる。だが、ファルの黄金の瞳を見た瞬間、俺の中でふと、一つのイメージが結びついた。
「なぁ、ファル。おとぎ話じゃ、お前は古のテイマーと一緒に、自由に世界中の空を飛び回っていたんだよな?」
――うん! お手てをばーーっと広げて!びゅーんって、楽しかったよ!
「そっか。……決めたよ」
俺は立ち上がり、エールの入ったジョッキを手に取って、テーブルを囲む仲間たちを真っ直ぐに見渡した。
「旧ギルドの連中が、魔物を地面に縛り付ける『鎖』なら。俺たちは、魔物も人間も、自由に空へ羽ばたくための『翼』だ。傷ついた奴らが羽を休め、美味しいご飯を食べて、また自由に飛び立てるような……そんな、温かくて安心できる止まり木にしたい」
俺の言葉に、ニーナがふんふんと頷き、セリアも静かに耳を傾けた。
「俺たちの新しいギルドの名前は――『白竜の翼』だ!」
その言葉が食堂に響き渡ると、数秒の静寂の後。
「……ふふっ。エルヴァンらしくて、とても素敵な名前だと思います。正式に受理させていただきますね」
「白竜の翼……! 私、このギルドで、魔物たちが安心して過ごせるように一生懸命頑張ります!」
「よし! それじゃあ、『白竜の翼』の設立と、俺たちのこれからの日々に……乾杯!!」
「「乾杯!!」」
俺という普通の人間が、規格外の相棒たちに振り回され、勘違いで「化け物」だのと持て囃されながらも、ついに自分だけの居場所を手に入れた。
三十五年ローンという恐ろしい現実は、今はエールと一緒に飲み干して、最高の仲間たちと囲む温かい時間を、心ゆくまで満喫するのだった。
◆◆◆◇◇◇◆◆◆
読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白かったと思っていただけたら、ブックマークや評価を頂けると幸いです。
毎日、午前7時頃に更新予定です。よろしくお願いします!!




