第34話:新人テイマーの加入
静寂を取り戻した森の中。
俺は、逃げ出した旧ギルドの連中が置き去りにした魔物たちの首輪を外し、「もう自由にしていいぞ」と森の奥へと帰してやった。魔物たちが後ろを振り返り、仲間にして欲しそうに見ていた気がするが、気のせいだろう。
「怪我はないか? 立てる?」
そして、足元でスライムを抱きしめて震えている少女に、ゆっくりと手を差し伸べた。
少女は恐る恐る顔を上げ、俺とシリウスを交互に見つめると――ボンッ!と音が鳴りそうなほど顔を真っ赤にして、パニックを起こした。
「あ、あああ、あわわわっ! 『蒼炎のテイマー』様!? ほ、本物!? なんでこんな所に……っ、私、ずっと憧れてて、あの日の広場の認定式も一番前で見ててっ……!」
「お、落ち着いて。俺はエルヴァン。君の名前は?」
「ニ、ニーナです! スライムのプルちゃんと一緒に、テイマーになりたくて……でも、あんなひどいやり方、絶対に間違ってるって……うぅっ」
張り詰めていた糸が切れたのか、ニーナは大粒の涙をポロポロとこぼし始めた。
俺は「よく頑張ったな」と頭を撫でてやり、彼女を街まで送り届けることにした。
◇ ◇ ◇
帰りの道中。ニーナは、青い炎を収めたシリウスの背中に乗せ、ゴルドランの街を帰っていた。
「あぁ……伝説のナイトメアの背中に乗れるなんて、夢みたいです……。毛並み、すっごく綺麗ですね」
ニーナが恐る恐る、けれどとても慈しむような優しい手つきで、シリウスの首筋を撫でる。
すると、俺の脳内にシリウスの嬉しそうな念話が響いた。
『エルヴァン、この子すっごく優しい匂いがする! 僕、この子の撫で方、好きかも!』
「ははっ、シリウスも喜んでるよ。ニーナは本当に動物が好きなんだな」
「はいっ! ……でも、私には力がなくて。先輩たちから魔物を守ってあげることもできなくて……」
俯く彼女の言葉は、かつてテイマーギルドで無力感に苛まれていた昔の俺と、完全に重なっていた。
「ニーナ。強い魔法やムチの力なんて、テイマーには必要ないんだ。君のその『動物を大事に想う心』こそが、本当のテイムの力なんだよ」
「エルヴァン、さん……」
俺の言葉に、ニーナは目をパチクリとさせ、再び顔を真っ赤にしてブンブンと首を縦に振った。
◇ ◇ ◇
すっかり日が落ちた頃。
俺たちは常宿である『陽だまりのしっぽ』亭の食堂で、一緒に温かい晩飯のテーブルを囲んでいた。
龍玉のハッチからファルが手を伸ばし、そしてニーナのスライムも、巨大な皿に盛られたご飯を夢中で食べている。シリウスには厩舎で食べて貰っている。
「んん〜っ! 美味しいです! スライムのプルちゃんも、こんなに美味しそうにご飯を食べるなんて……!」
「魔物だって、ムチで叩かれるより、美味しい飯を腹いっぱい食べてる時の方が力を発揮できるに決まってるからな」
俺が笑って言うと、ニーナは瞳をキラキラと輝かせた。
「エルヴァンさんのテイムの考え方、本当に感動しました! 私、今のギルドの『力で支配するやり方』がどうしても許せなくて……でも、どうすればいいか分からなかったんです」
「実はさ、俺、新しく『テイマーギルド』を作る予定なんだ。魔物と人間が対等に、一緒に美味い飯を食えるような……そんな新しい常識を発信する場所にしたい」
「新しい、テイマーギルド……!」
ニーナがガタッと椅子から立ち上がった。
「わ、私っ……! まだ弱くて何にもできない新人ですけど、どうかそのギルドに入れてください! エルヴァンさんと一緒に、新しいテイマーの在り方を広めたいです!」
「もちろん大歓迎だよ! よろしくな、ニーナ」
俺が笑顔で手を差し出し、ニーナが両手でその手をギュッと握りしめた。
――ちょうど、その時だった。
「エルヴァン、特別融資の追加書類をお持ちしまし……た?」
カラン、と食堂の扉を開けて入ってきたセリアが、その場でピタッとフリーズした。
彼女の目に飛び込んできたのは、俺が『若くて可愛らしい女の子』と、顔を寄せ合って情熱的に手を握り合っている光景だった。
「えっ……? あ、あの、エルヴァン? そちらの可愛らしい女性は……?」
セリアの瞳から、スゥッとハイライトが消える。
その背中に、まるで般若のようなオーラが立ち上っているように見えたのは気のせいだろうか。
(ま、まさか彼女!? 私たちちょっと良い感じだったわよね?! いつの間にこんな若い子を捕まえて……!? いや、エルヴァンに限ってそんな……でも、手が! て、手がっ!!)
内心で凄まじい葛藤とを繰り広げているセリアの心中など露知らず。
俺は「おお、セリア! ちょうどよかった!」と無邪気に手招きをした。
「こっちは今日から俺のギルドの『最初の仲間』になってくれた、ニーナだ! セリアも一緒に飯食おうぜ! ちょうど今、新しいギルドの『名前』をどうするか相談してたところなんだ!」
「……な、仲間? ギルドの、メンバー……ですか?」
「そうそう! それで、ギルドの名前なんだけどさ……」
俺の言葉に、セリアは「ふぅぅぅぅ……っ」と安堵の深いため息をつき、気を取り直して俺たちのテーブルへと腰を下ろした。
「……それで、ギルドの名前の候補はあるんですか?」
「いや、それが全然決まってなくてさ。何かいいアイデアないかな?」
俺とニーナ、そしてセリア。
賑やかな食卓を囲みながら、俺たちはこれからの新しい『家』の名前を決めるための、楽しい会議を始めるのだった。
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