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第33話:本当のテイマーの力

 静かな森の中に、俺の低く冷たい声が響いた。


 ビクッと肩を揺らした『獣王の鎖』のベテランテイマーたちが、一斉にこちらを振り向いて語気を荒らげる。


「あぁ!? なんだてめえ、どこの……」

「あっ……! あ、あの人は……!」

 へたり込んでいた新人テイマーの少女が、俺とその後ろに控える黒馬シリウスを見て息を呑んだ。

 俺はベテランテイマーたちを真っ直ぐに睨み据え、はっきりと告げた。


「無闇に従魔をいたぶるのはやめろ。ましてや、同じギルドの人間にムチを打つなんてもってのほかだ」

「あぁん? 部外者がうちの教育に口を出してんじゃねえよ!」

 ベテランテイマーが苛立ったように歩み寄り、ドンッ!と乱暴に俺の胸を突いた。


『……僕のエルヴァンに、気安く触るな』

 ギロリ、と。背後にいたシリウスが、周囲の空気を凍りつかせるような凄まじい威圧感プレッシャーを放ち、男を睨み下ろした。


 勿論相手にシリウスの声は届いていないが、ただの馬とは思えない底知れぬ殺気に、男が「ヒッ」と息を呑んで後ずさる。今にも男を蹴り飛ばそうと一歩踏み出したシリウスを、俺は手で制した。


「ストップだ、シリウス。……お前の力は、こんな奴らに使うほど安くない」


『……うん、わかったよ。エルヴァンがそういうなら』

 俺の言葉に、シリウスはフンッと鼻を鳴らして殺気を引っ込めた。


 だが、恐怖から一転して「ただの馬にビビってコケにされた」と感じたらしいベテランテイマーは、顔を真っ赤にしてさらに激昂した。


「ふ、ふざけやがって! やっちまえ! その生意気な男を噛み殺せ!!」

 男は手元のムチを狂ったように振り回し、血を流している巨大熊ボア・ベアや、周囲にいた数匹の狼型魔物に攻撃を命令した。


 ムチで打たれたことによる痛みと、首輪に込められた隷属の呪いが発動する。魔物たちは苦痛に顔を歪め、戸惑いと涙を浮かべながらも、命令に逆らえずに俺へと飛びかかってきた。


「やめてええぇぇっ!!」

 少女の悲痛な叫び声が響く。


 シリウスが再び前に出ようとするのを、「いい、俺に任せろ」と手で静止し――俺は丸腰のまま、迫り来るボア・ベアの鋭い牙に向かって、スッと右手を差し出した。


「やめるんだ!

 ……そんなこと、お前たちも本当は望んでいないよな?」

 俺は魔物たちの怯えた瞳を見つめ、心からの同情と、慈愛の気持ちを真っ直ぐにぶつけた。


 ――ピキッ。


 その瞬間。魔物たちの首に巻かれていた『隷属の首輪』の呪縛よりも、俺の魔物に対する純粋な愛情とテイムの力が完全に上回った。

 俺の腕を噛みちぎる寸前で、ボア・ベアの巨大な顎がピタッと止まる。


「グルゥ……、クゥーン……」

 濁っていた魔物たちの瞳に、光がもどり自我が蘇った。


 ボア・ベアは俺の差し出した手のひらに、まるで甘える子犬のように巨大な鼻先を擦り寄せてきた。他の狼たちも、俺の足元にすり寄って尻尾を振っている。


 暴力による支配が、エルヴァンの慈しむ心の前にあっけなく崩れ去った瞬間だった。


「なっ……!? てめえら、何やってんだ! 俺の命令が聞けねえのか!!」

 信じられない光景にパニックを起こしたベテランテイマーが、再びボア・ベアに向けてムチを振り上げる。

 だが、次の瞬間。


「ガァァァァァッ!!」


 ボア・ベアは俺を庇うように振り返ると、かつての主人であった男に向かって、鼓膜を裂くような怒りの咆哮を上げ、鋭い牙を剥き出しにした。首輪の強制力など、とっくに無効化されている。


「ひぃぃぃっ!?」

 魔物に逆らわれた男は、腰を抜かしかけながらも「クソがぁっ!」と半狂乱になり、今度は俺自身に向けて、棘のついたムチを力任せに振り下ろしてきた。


 シュガッ!と空を切る凶刃。


 だが、俺が動くよりも早く――青い閃光が俺の前に割り込んだ。


 ボワァァァッ!!


「……あ?」

 男が呆然と声を漏らす。


 俺を庇って前に出たシリウスの体に、ムチは触れることすらできなかった。シリウスの漆黒の鬣《》たてがみが突如として爆発的な『青い炎』を纏い、それに触れた瞬間、皮のムチはパチンと音を立てて発火し、一瞬にしてただの白い灰となって空中に散っていったのだ。


「あ、青い炎……。まさか……『蒼炎のテイマー』……エルヴァン……!?」

 ムチの持ち手だけを握りしめたまま、男はガチガチと歯の根を鳴らした。


 彼らはここに来てようやく、自分たちが因縁をつけた相手が、巷で噂になっている『規格外のバケモノ』であったことに気がついたのだ。


「ヒィィィィィッ!!

 ば、化け物ぉぉぉっ!!」


 男たちは完全に戦意を喪失し、尻餅をつきながら後ずさると、魔物たちを置き去りにして、そのまま無様にも森の奥へと敗走していった。


「化け物とは…酷い言われようだ……」


 静けさを取り戻した森の中。俺はホッと息を吐き、青い炎を収めたシリウスの首筋を撫でてやると、足元で震えている新人テイマーの少女へと、ゆっくり手を差し伸べた。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 少しでも面白かったと思っていただけたら、ブックマークや評価を頂けると幸いです。


 毎日、午前7時頃に更新予定です。よろしくお願いします!!

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