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第30話:語り継がれぬ真実

 静寂の中、ファルは遠い空を見るような目で語り始めた。


『その本にある通り、かつての我が相棒……「星詠み」と呼ばれた男は、少しばかりお節介で、お主のように料理を愛する人間であったよ』


 ファルの話によれば、おとぎ話にある「空から落ちてきた竜の子供を助けた」というエピソードは事実らしい。当時、まだ幼く羽を痛めて動けなかったファルを、そのテイマーは救い、共に世界中を旅したのだという。


「じゃあ、やっぱり『真の契約』で災厄を退けたっていうのも本当なのか?」

『うむ。あれは……そう、今のスタンピードなど児戯に等しい、負の魔素が世界を飲み込もうとした時のことだ。おとぎ話では「魂が重なり合って神々しい力を発揮した」と綺麗に書かれておるが、実態はもっと泥臭いものよ』

 ファルは自嘲気味に鼻息を吐いた。


『「真の契約」とは、テイマーが己の生命力そのものを魔力に変換し、相棒へと流し込む命懸けの同調だ。我はその力を借りて、世界の汚れを焼き払った。……だが、代償はあまりに大きかった』

 ファルが静かに目を伏せる。


 おとぎ話では、英雄となったテイマーと竜はその後も幸せに暮らしたことになっているが、現実は違った。


『男は、我に力を貸しすぎたのだ。災厄を消し去った後、彼は寿命を使い果たし、眠るように息を引き取った。……我が、あまりに弱かったがゆえにな』

 ファルが虚空を見つめる、数分の静寂の後、再びエルヴァンを見つめ、話し始めた。


『ゆえに、我はこの力を封じてきた。お主を失うわけにはいかぬからな』

 その言葉に、俺はファルの黄金の瞳と視線を合わせ――ふと、耐えきれずに目を逸らしてしまった。


 今の俺は、戦闘においてもそれ以外でも、完全に彼らの強大な力に「おんぶに抱っこ」の状態だ。テイマーとして、彼らの相棒と言えるのか?

 今のままただ守られているだけでいいのか?

 俺には深く考えるべきことがある。


 俯いてしまった俺を見て、ファルは地響きのように優しく、穏やかな声で言葉を紡いだ。


『だがな、エルヴァン。お主は我らに頼るばかりで、自分は何もしていないと卑下しておるようだが……お主の作る料理に、我がどれほど救われているか分かっておるのか?』


「俺の、料理に……?」


『うむ。長き時を生きる中で、ふとあの古のテイマーとの別れを思い出し、心が暗く沈む夜もある。だが、お主が心を込めて作ってくれる温かい飯を食い、我らに向けてくれるその真っ直ぐな愛情に触れるたび……我の心は救われ、それが我らの確かな力となっているのだ』

 ファルは巨大な鼻先を、そっと俺の頬に擦り寄せてきた。


『お主は決して、無力などではないのだぞ』

『そうだよ、エルヴァン!』

 ファルの言葉に重なるように、シリウスも力強くいなないた。


『エルヴァンのご飯を食べると、体の底から力が湧いてくるんだ! それに、ただ強いだけの魔物だった僕を「家族」って言ってくれたのはエルヴァンが初めてだった。僕たちにとって、エルヴァンはこれ以上ない、最高の相棒だよ!』


 二匹の真っ直ぐな言葉が、心の奥底の不安を溶かすように染み渡っていく。

 俯いていた俺は、ゆっくりと顔を上げた。視界が少しだけ滲んでいた。


「お前たち……。ありがとう。本当に、ありがとう」

 俺は再び、ファルとシリウスの大きな首に力いっぱいしがみつき、心からの感謝を伝えた。


 それからしばらくの間、俺たちは洞窟の中で他愛のない会話を交わし、夕暮れの空の下、ゴルドランの街への帰路についた。


 ◇ ◇ ◇


 赤く染まった空の下、青い炎の軌跡を描きながら街道を走るシリウスの背中。

 その温かい体温を直に感じながら、俺は再び、セリアから借りたあのおとぎ話のことを思い返していた。


 もしも……


 もしもこの先、ファルやシリウスが、自分たちの力だけではどうにもならないほどの絶体絶命のピンチに陥ったとしたら。

 その時、俺はあの古のテイマーと同じように、自らの命を代償にしてでも、彼らを救う『選択』ができるだろうか。


 俺は静かに目を閉じ、流れる風の音を聞きながら、自らの心に問いかけた。

 凡人の俺にとって、それはあまりにも重く、恐ろしい問いだった。


 だが――。


 やがてゆっくりと目を見開いたエルヴァンは、迷いのない真っ直ぐな瞳で夕焼けの彼方を見据えると、手綱を無言のまま、ギュッと力強く握りしめるのだった。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 少しでも面白かったと思っていただけたら、ブックマークや評価を頂けると幸いです。


 毎日、午前7時頃に更新予定です。よろしくお願いします!!

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