第27話:真実の告白
スタンピードを未然に防いでから数日後。
ゴルドランの街は、ある『とんでもない噂』で持ちきりになっていた。
「おい、聞いたか? 王都に送られたテイマーギルドのボルグ、地下牢の尋問でずっと同じことを叫び続けてるらしいぞ」
「ああ。
『あの新人は伝承の悪魔馬と、巨大な神竜を使役している!俺は見たんだ!』
ってやつだろ?」
「自白用の魔法具を使っても『嘘偽りなし』って判定が出たらしい。つまりあいつ、狂ったわけじゃなくて、本当に見たってことだぜ……!」
あの日迷宮にいたAランク冒険者たちは義理堅く黙秘を貫いてくれたのだが、まさかの捕まったボルグ本人が、恐怖のあまり王都で事実を喚き散らしてしまったのだ。
結果として、「特例昇格した天才テイマーは、規格外のヤバい魔物を従えている」という噂が、尾ひれをつけて街中に広まってしまっていた。
◇ ◇ ◇
冒険者ギルド、二階の特別応接室。
俺は、ギルドマスターのガストンと、専属受付嬢のセリアの前に座っていた。
「……というわけで、街の噂は本当なんだ。黙ってて悪かった」
俺は覚悟を決め、二人に真実を打ち明けた。
シリウスがただの黒馬ではなく、青い炎を操る『ナイトメア』であること。
そして、胸元に浮いている龍玉の中のファルが、もふもふネズミなどではなく、伝説の『幸運の白竜』であること。
重い沈黙が落ちる。俺は二人に怒られるか、あるいは気味悪がられるかと身構えた。
だが――。
「「あっ、やっぱり?ですよねーー」」
「……えっ?」
ガストンとセリアの声が、見事なまでにハモった。
二人の顔に驚きはなく、むしろ「長年の便秘が解消された」ような、スッキリとした納得の表情を浮かべていた。
「いやエルヴァン、薄々気付いてたぞ。いくらなんでも、ただの馬がAランクの『岩殻竜』の装甲を粉砕するわけないだろ」
「あの硬い『水晶巨蟹』の殻を割らずに脳震盪させるなんて、物理的に考えても普通の魔物じゃありえませんし。……むしろ、ちゃんと理由があってホッとしました」
ガストンが呆れたように笑い、セリアも大きく頷く。
見事なまでの「知ってたー」という反応に、俺は拍子抜けしてしまった。
「だが、問題はその『幸運の白竜』の方だな」
ガストンが鋭い眼光で、俺の肩でプカプカと浮いている龍玉を睨む。
「ナイトメアなら、歴史上でも使役したテイマーが数人いる。だが、神獣である白竜となれば話は別だ。国家間での戦争の火種、……奪い合いになりかねん。ファルの正体だけは、絶対に隠し通さねえとマズい」
「……確かに」
「そこで提案だ。王都から、お前の『Aランク昇格』と『独自ギルド設立』の正式な許可証が届いた。その認定式を、ギルドの正面広場で公開でやる」
ガストンはニヤリと悪戯っぽく笑った。
「その認定式で、シリウスがナイトメアであることを派手にお披露目するんだ。群衆の視線を『伝説の悪魔馬』に釘付けにして、ファルの存在は誤魔化す【木を隠すなら森の中作戦】だ」
「なるほど……! 龍玉が浮いてるのも、全部ナイトメアの魔力のおかげってことにしちゃうんですね!」
俺が手を叩くと、玉の中のファルは不満そうに『むきーっ! ぼくのほうがすごいのに!』と短い手足をバタつかせたが、俺が「今日の夕飯、一番いいお肉にするから」と撫でてやると、すぐに『えへへ、しかたないなぁ』と矛を収めてくれた。
◇ ◇ ◇
翌日の正午。
冒険者ギルドの正面広場は、新Aランク冒険者の一目見ようと集まった群衆で埋め尽くされていた。
ギルドのバルコニーに立つガストンが、拡声の魔導具で高らかに宣言する。
『これより、冒険者エルヴァンのAランク認定、および新ギルド設立の認可式を行う! 見よ、これがゴルドランが誇る最強のテイマーと、その従魔だ!!』
その合図と共に。
ギルドの巨大な扉が開き――『青い炎』が噴き出した。
「おおおおおおおっ……!?」
群衆がどよめき、道を開ける。
そこに現れたのは、漆黒の鬣と蹄に、美しくも恐ろしい青い炎を纏った伝説の悪魔馬――シリウスだった。
その背に跨る俺は、内心(うわー、めちゃくちゃ見られてる……恥ずかしい……)と冷や汗をかいていたが、表面上は威風堂々とした態度を崩さないように必死で胸を張った。
『どうだエルヴァン! 僕、かっこいいでしょ!』
「ああ、最高にかっこいいよ、シリウス」
シリウスが一歩歩みを進めるたびに、青い炎の軌跡が美しく石畳を舐める。その圧倒的な神々しさと力強さに、広場は静まり返った。
「あ、あれが噂のナイトメア……!」
「すげえ……あんなバケモノを、乗りこなしてるぞ……!」
群衆の最前列には、あのAランク冒険者のパーティーがいた。
彼らは青い炎を前にしても逃げるどころか、感極まったように涙を流し、「エルヴァン閣下ァァァッ!! 万歳!!」と狂信者のように叫んでいる。
俺の肩の高さでは、ファルの入った龍玉がプカプカと浮いている。
だが、群衆の目は完全にシリウスの青い炎に釘付けになっていた。
「おい見ろ、あの宙に浮かぶ玉……」
「あれもきっと、ナイトメアの強力な魔力で浮遊させてる魔導具なんだろうな。あの男、どれだけ底知れないんだ……!」
ガストンの読み通り、ファルの異常性は見事にシリウスの派手さと、俺への過大評価によって上書きされ、ゴリ押しで誤魔化すことに成功したのだ。
「エルヴァン。これでお前は、名実ともにこの街のトップ冒険者の一人だ」
バルコニーから降りてきたガストンが、真新しいAランクのギルドカードと、分厚い『土地の権利書』を俺に手渡した。
「さあ、自分の居場所を作れ。お前と、その規格外の相棒たちが、誰にも縛られずに笑って暮らせる場所をな」
「……はいっ!!」
広場を包み込む割れんばかりの歓声……。
俺は相棒たちと共に、いよいよ自分だけの『新しい家』を築き上げるという第一歩を踏み出そうとしたのだが……俺には一つの不安があった。
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