第24話:神獣の威圧と、頼もしき相棒たち
ボルグが使った『魔力阻害の結界石』によって龍玉が破壊され、広場には天を衝くほどの巨大で神々しい白竜――ファルの真の姿が現出していた。
『……我の安眠を妨げ、愛し子を脅かしたのは、貴様か』
地響きのような声と共に、ファルがゆっくりと首をもたげ、黄金の瞳でボルグを見下ろす。
さらにファルは、鋭い牙が並ぶ巨大な顎をガバァッと開き、今にもボルグを頭から丸呑みにせんとする恐ろしい『捕食のポーズ』をとった。
「ヒッ……!? あ、あああああっ……!!」
眼前に迫る巨大な竜の口。死の恐怖が限界を超えたボルグは、白目を剥いて口からカニの泡のようにブクブクと泡を吹き出し……そのままバタンと仰向けに倒れ、完全に気絶してしまった。
『ふん。小悪党が。愛し子よ、このゴミは我が消し飛ばしておこうか?』
「いや、ファル、ストップ。こんな奴でも一応テイマーギルドのトップだ。ここで魔物の餌にするより、あいつがやろうとしていた悪事を、地上で法とギルドにしっかり裁いてもらった方がいい」
俺はため息をつきながら、袋から丈夫なロープを取り出すと、泡を吹いて気絶しているボルグを簀巻きのようにぐるぐる巻きに縛り上げた。
――そんな俺たちのやり取りを、少し離れた岩陰から呆然と見つめている者たちがいた。
ギルドマスターのガストンから、スタンピードの先行調査を依頼されていたベテランのAランク冒険者パーティーだ。
「お、おい……嘘だろ。あんな階層ボスクラスの、いや、それ以上のドラゴンを従えてるのか、あの新人は……」
「それに、あの簀巻きにされてるの、テイマーギルドのギルドマスターだぞ!? 何がどうなったらあんな状況になるんだ……!」
歴戦の猛者であるはずのAランク冒険者たちは、ガチガチと歯の根を鳴らしながら、ただ畏怖の念を持って俺たちの様子を窺うことしかできなかった。
◇ ◇ ◇
「さて。捕まえたはいいが……こいつ、どうしようかな」
俺は簀巻きのボルグを見下ろして頭を掻いた。
俺たちの本来の目的は、この先の深部で起きている『スタンピードの兆候』の調査と駆除だ。このまま気絶したおっさんを引きずって行くわけにもいかない。かといって、魔物が溢れ出している迷宮内に放置すれば確実に死ぬだろう。
一旦地上へ戻るべきか、と俺が悩んでいると、ファルが低く喉を鳴らした。
『案ずるな、エルヴァン。我に策がある』
ファルがそう言うと、巨大な体がシュルシュルと縮み始め、同時に空中に砕け散ったはずの『龍玉』が光の粒子となって再構成されていった。ファル自身の魔力を使って、新しい龍玉を作り出したらしい。
ポンッ、と俺の掌に真新しい龍玉が落ちてきた。
――あうぅ……おっきくなったら、また魔力つかっちゃったぁ……。
玉の中に収まったファルは、すっかり元の『もふもふネズミ』サイズに戻り、口調もいつもの幼児モードに引っ張られていた。
「大丈夫か、ファル? やっぱり無理してたんじゃ……」
――へいき! あのね、ぼくにいいかんがえがあるの!
ファルが玉のハッチをパカッと開け、ちょこんと頭と短い両手を出して『えっへん!』と胸を張った。
すると、龍玉全体がふわりと宙に浮き上がり、俺の肩の高さでピタリと静止したのだ。
――ぼく、おっきくならなくても、このまま魔法でぷかぷか飛べるの!
ここからちっちゃいブレスをペッて吐いて、エルヴァンをまもってあげる!
だから、おヒゲのはんざいしゃは、シリウスに運んでもらえばいいんだよ!
「おおっ、なるほど! 幼児モードに戻っちゃったけど、すごく頼もしいじゃないか!」
エルヴァンがポンと手を打って喜んでいると、岩陰で見ていたAランク冒険者たちが再びヒソヒソとざわめき始めた。
(……おい、見たかよ。あの絶望的に恐ろしかった巨大竜が、空飛ぶネズミ玉になっちまったぞ……)
(それどころか、あの男、あんな神獣相手にまるで子供をあやすみたいに喋ってやがる……。頭のネジがどうにかなってんのか……!?)
そんなギャラリーの視線に気づくこともなく、エルヴァンは手早く羊皮紙にガストン宛ての手紙『ボルグの捕縛について』をしたため、シリウスの首に括り付けた。そして背中には、簀巻きのボルグをしっかりと固定する。
「シリウス、悪いけどこいつをガストンさんのところまで届けてくれるか? それが終わったら、宿で休んでていいから」
『任せてよ、エルヴァン! でも、おじさんをポイッと届けたら、すぐ戻ってくるからね!』
シリウスは自信満々にブルルッと鼻を鳴らす。
「すぐ戻るって……迷宮の奥深くで、俺たちとまたはぐれずに合流できるのか?」
『当然だよ! エルヴァンとファルお爺ちゃんの魔力なんて、どんなに遠くても僕の鼻ならすぐ辿れるもん。それに――』
シリウスは俺の頬に鼻先をすり寄せ、念話で優しく語りかけてきた。
『僕たちの『相棒契約』は、どれだけ離れていても有効だからね。何かあったら、いつでも念話で会話できるよ。絶対に一人じゃないから、安心して』
「……ああ。ありがとう、シリウス。道中気をつけてな」
俺が首筋を撫でてやると、シリウスは青い炎を蹄に纏わせ、背中のボルグをガタガタと揺らしながら、地上へ向かって猛スピードで駆け出していった。
その光景を最後まで見届けていたAランク冒険者たちは、顔を見合わせてゴクリと息を呑んだ。
(おい……あの黒馬、青い炎を纏わなかったか……?)
(あ、ああ。間違いない、伝承にある悪魔馬『ナイトメア』だ。それをただの運び屋に使うなんて……)
(……絶対に、あいつにだけは逆らうなよ。俺たちも、下手に手出しせず影からあいつのサポートに回ろう。足手まといにだけはならないようにな……)
彼らは激しくコクコクと頷き合った。
「よし。それじゃあ俺たちも、迷宮の奥へ急ぐか」
――うんっ! ぼくがぜーったいに、まもってあげるからね!
俺は、周囲から極限の畏怖を集めていることなど欠片も知る由もなく、プカプカと浮かぶ砲台モードのファルと共に、スタンピードの発生源へと足を踏み入れるのだった。
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