第23話:Aランク冒険者への道と妨害
極上のカニ鍋の宴から一夜明けた翌朝。
冒険者ギルドを訪れた俺は、いつもよりさらに親しげな笑顔を向けてくれるセリアに案内され、またしても二階の特別応接室へと通されていた。
「エルヴァン。お前に折り入って話がある」
執務机に座るギルドマスターのガストンが、真剣な面持ちで口を開いた。
「単刀直入に言おう。お前を『Aランク冒険者』に推薦したい」
「ええっ!?先日Bランクに特例昇格したばっかりですよ!?」
俺が素っ頓狂な声を上げると、ガストンは苦笑しながら腕を組んだ。
「Bランクの枠じゃあ、お前とあの規格外の従魔たちを縛っておくには窮屈すぎる。それに、Aランクになれば冒険者として莫大な恩恵があるんだ」
ガストンの説明によると、Aランクの特権は主に三つ。
一つ目は、国境や各都市の関所をフリーパスで通行できること。
二つ目は、都市内に自分名義の『家』や『土地』を無条件で購入し、独自のギルドを設立できる権利が得られること。
そして三つ目が――国家の存亡に関わる『S級クエスト』への参加資格だ。
自分の家、それに自分のギルドか……
魔物を道具としか見ない今のテイマーギルドに代わり、人間と魔物が対等に心で繋がり、双方にとって過ごしやすい、新しい居場所を作る。それは、俺にとって非常に魅力的な提案だった。
「……分かりました。その話、お受けします。でも、Aランクへの昇格って、確かすごく厳しい条件がありましたよね?」
「ええ。通常は、複数のBランク冒険者がパーティーを組み、Aランクの魔物を討伐した実績が必要です」
横からセリアが書類をまとめながら補足してくれた。
「ですが、エルヴァン様は岩殻竜と水晶巨蟹』というAランクの強敵を、実質単独で二体も討伐しています。
冒険者ギルドマスターであるガストン様の推薦状があれば、条件は完全にクリアです! 王都への申請手続きは、私が責任を持って急ぎ進めておきますね」
「ありがとう、セリア。頼りにしてるよ」
「っ……コホン!エルヴァン様、今は仕事中ですので……」
一瞬だけ頬を赤くしたが、すぐにキリッとした表情に戻るセリア。仕事とプライベートは別にする、実に彼女らしい。
その様子にガストンが「やれやれ」と肩をすくめ、再び鋭い眼光を俺に向けた。
「さて。王都の許可が下りるまでは『暫定A級』という扱いになるが……ここからが本題だ。エルヴァン、さっそくお前に、S級クエストに参加してほしい」
「S級……。何か、とんでもないことが起きてるんですか?」
「ああ。ゴルドランの中心にある大迷宮の深部から、異常な高濃度の『魔素』が検出された。……これは、魔物が無限に湧き出し、地上へと溢れ出す【スタンピード(大暴走)】の明確な前触れだ」
スタンピード。もし迷宮都市でそれが起きれば、大勢の死傷者が出る。
「すでにギルドが抱える信頼できるAランクパーティーをいくつか調査に向かわせているが、最悪の事態に備えて万全を期したい。お前と、あのナイトメアの力で、異常発生の原因解明と魔物の駆除を頼めないか」
「……分かりました。この街と、俺たちの帰る場所を守るためなら、やらない理由はありません」
俺が即答すると、ガストンは安堵したように深く頷いた。
◇ ◇ ◇
迷宮の第20階付近
スタンピードの兆候のせいか、道中の魔物の数は異常に多かったが、シリウスの蹴りで蹴散らしながら、俺たちは順調に深部へと進んでいた。
やがて、少し開けた岩場の広場に差し掛かった時のことだ。
――ピキィィィィィンッ!!
突如、周囲の空間が不自然に歪み、見えない『壁』のようなものが広場全体をドーム状に覆い尽くした。
「結界魔法……!? 魔物の罠か!?」
俺が警戒して身構えた直後。岩場の陰から、派手なローブを着た一人の男が、にちゃりとした笑みを浮かべながら姿を現した。
「フフフ……罠に嵌まったな、底辺テイマーの小僧」
「あんたは……」
俺はその男の顔を見て、眉をひそめた。
豪華な身なりに、傲慢に歪んだ顔。俺を「無能」と見下し、テイマーギルドから追放した張本人――ギルドマスターのボルグだった。
「どうしてあんたがこんな所に? まさか、迷宮の異常はお前の仕業か?」
「ハッ、何の話だ!私がここへ来たのは、貴様を始末し、その強力な悪魔馬と収納の魔導具を私の正当な所有物とするためだ!」
ボルグは狂気に満ちた目でシリウスを見つめ、高らかに宣言した。
「貴様のカラクリはとうに見破っている!心で通じ合っているなどと笑わせるな!
貴様は強力な『洗脳の魔導具』を使って、無理やり魔物たちを従わせているだけだろう!」
「……は?」
「シラを切っても無駄だ! だが、それもここまでだ。私が今発動させたこの『魔力阻害の結界石』は、空間内のあらゆる魔導具の機能を完全に停止させる! さあ、洗脳が解け、自我を取り戻した魔物たちに八つ裂きにされるがいい!!」
ボルグは両手を広げ、狂ったように高笑いをした。
……が。
『エルヴァン。あのおじさん、さっきから一人で何を言ってるの? 頭おかしいの?』
「うーん、俺にもよく分からない……」
シリウスは呆れたようにブルルッと鼻を鳴らし、俺にすり寄ってくる。
そもそも、俺たちは魔導具など使っていないし、洗脳などしていない。魂で結ばれた絶対の相棒契約なのだ。ボルグの結界石など、俺たちには何の意味もな――。
ピキッ……パリンッ!!
「えっ」
その時。俺の胸元から、嫌な音が響いた。
見下ろすと、ファルが収まっていた『龍玉』がミシミシと音を立てている……魔力阻害の影響を受け、ファルの体が大きくなり、龍玉がファル自らの体で崩壊しようとしている。
――あうぅ……ぼくの、おうちが、こわれちゃったの……。
割れた玉の中から、幼児化していたファルの悲しげな声が響き……直後。
圧縮されていた凄まじい質量と、神獣としての莫大な魔力が、爆発をした。
カッ――――!!!
目も眩むような純白の閃光。
広場を覆っていたボルグの結界など紙くずのように吹き飛び、迷宮の岩盤がメシリと悲鳴を上げて砕け散る。
天を衝くほどの巨大でしなやかな胴体。真珠のように輝く白く神々しい毛並みと、全てを見透かすような黄金の双眸。
『……我の安眠を妨げ、愛し子たちに牙を剥いた愚か者よ』
地響きのように重く、絶対的な威厳を持ったファルの姿。
黄金の瞳でゆっくりとボルグを見下ろすと、そのあまりの神々しさと圧倒的な『格の違い』に、周囲の空気が凍りついた。
「ヒッ……!? あ、ああっ……!? りゅ、竜……!? な、なぜ、神獣が……!?」
先ほどまで高笑いしていたボルグは、顔面を蒼白にし、腰を抜かして地面にへたり込んだ。ガチガチと歯の根が合わず、股間からは無様なシミが広がっている。
「自分が招いた結果だぞ?……ご愁傷様だな、ボルグ」
俺は冷や汗を流しながら、自業自得で最強の地雷を踏み抜いてしまった愚かな元上司に、ただ同情の視線を向けることしかできなかった。
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