第18話:食材探しと、運搬方法
ファルの放った純白のブレスによって、小山ほどもあったロック・ドラゴンは跡形もなく消滅し、大地には巨大なクレーターだけが残された。
「……やりすぎだろ。これじゃあ、討伐した証拠の部位(素材)が残ってないじゃないか」
――あうぅ……ごめんなさぁい。ぼく、てかげんできなくって……。
すっかり元の『もふもふネズミ』のようなサイズに幼児化して龍玉に戻ったファルが、申し訳なさそうに短い手足を縮こまらせる。
俺とシリウスでクレーターの底を探し回ると、奇跡的に、ロック・ドラゴンの心臓部にあったであろう『魔石』と『角の欠片』だけが、高熱でガラス状になって転がっていた。
「よし、とりあえずこれを討伐の証明として持ち帰ろう」
俺は熱を持った角の欠片を麻袋にしまい、シリウスの背中を撫でた。
「しかし、厄介な依頼は片付いたけど……ロランさんたちへの美味しい手土産が手に入らなかったな。これじゃあ、宿に帰ってまたご馳走になるだけになっちゃう」
『うーん。この辺り、岩ばっかりで美味しそうな魔物なんていなかったしね』
俺たちが困っていると、魔力切れでぐったりしていたはずのファルが、急にハッチからピョコンと顔を出した。鼻をフンスフンスと鳴らしている。
――あっち! あっちの岩山の裏から、すっごくジューシーで美味しい匂いがするのー!
「本当か!? よし、帰るついでだ。ちょっと寄ってみよう」
俺たちはファルの案内に従い、岩山の裏手へと回り込んだ。
するとそこには、馬よりもさらに大きな体躯を持つ、岩のようにゴツゴツとした羽毛に覆われた二足歩行の巨大な鳥の魔物がいた。
「なんだあれ? ロック・バードの一種か?」
――あれ、お肉がすっごく引き締まってて、焼くとぷりっぷりで美味しいんだよー! じゅるり。
『よーし、任せてよ! 今日の夕飯のためだ!』
ファルのよだれを見たシリウスが、青い炎を散らして駆け出す。
巨大な鳥の魔物は鋭い風の刃を飛ばして抵抗しようとしたが、シリウスの圧倒的なスピードの敵ではない。あっという間に背後に回り込んだシリウスの蹴りが決まり、見事、夕飯の食材をゲットしたのだった。
「よし、大収穫だ! ……って、これどうやって街まで運ぼう。シリウスの背中に乗せたら潰れちゃうくらいデカいぞ」
俺が巨大な鳥の死骸を前に途方に暮れていると、シリウスが名案を思いついたようにブルルッと鼻を鳴らした。
『ねえエルヴァン。その大きな鳥、ファルお爺ちゃんの入ってる龍玉に押し込んじゃえばいいんじゃない?』
「え? 龍玉に?」
『うん! あの玉、ファルお爺ちゃんの大きな体を手のひらサイズにしてるんだから、他のものも入れたら小さくなるんじゃないかな!』
なるほど、天才か。
俺は龍玉のハッチを開け、巨大な鳥のくちばしをそこに突っ込んでみた。
すると――シュルンッ!
まるで吸い込まれるように、巨大な鳥が玉の中へ吸い込まれ、一瞬にしてミニチュアサイズになってファルの足元にゴロンと転がったのだ。
――むぎゅっ!? お、おっきな鳥がふってきたの! ぼくのスペースがせまくなっちゃうー!
「おおっ! マジか、まるでアイテムボックスじゃないか!」
文句を言うファルには悪いが、これならどんな巨大な獲物でも楽に持ち帰ることができる。俺たちはホクホク顔で、ゴルドランへの帰路についた。
◇ ◇ ◇
迷宮都市ゴルドランの冒険者ギルド。
二階の特別応接室に通された俺は、ギルドマスターのガストンと、専属受付嬢のセリアさんの前で、麻袋からガラス状になった『角の欠片』を取り出した。
「討伐、完了しました。これ、ロック・ドラゴンの角の欠片です」
「……は?」
ガストンは角の欠片を手に取り、ポカンと口を開けた。
「おい、エルヴァン。この欠片……凄まじい高熱と魔力の奔流を浴びて、完全に変質してるぞ。あの巨大で硬牢なロック・ドラゴンが、装甲はおろか骨すら残さずに『消滅』したとでも言うのか……?」
「ええっと……まあ、そんな感じです。あはは……」
俺が愛想笑いを浮かべて誤魔化そうとすると、ガストンの視線が、スッと俺の胸元に吸い寄せられた。
龍玉の中で、早くお肉が食べたくて「あむあむ」と短い手足をバタつかせている幼児竜、ファル。
「…………」
ガストンは、額に滝のような冷や汗を流し、深々とため息をついた。
伝説のナイトメアの蹴りでさえ砕けなかった装甲。それを一撃で消し飛ばすような規格外の『何か』が、俺の胸元にいる。この賢明なギルドマスターは、またしてもそれに気づいてしまったのだろう。
「……セリア。この角をAランク討伐の証明として受理しろ。それと、俺の胃薬を持ってきてくれ」
「は、はい! ただいま!」
見なかったことにする。ガストンの大人の対応に、俺は心の中で深く感謝した。
「それと、セリアさん。もう一つお願いがあるんですが」
「なんでしょうか、エルヴァン様?」
「帰りがけに、夕飯用の食材として大きな鳥の魔物を狩ってきたんです。解体して肉だけ持ち帰りたいんですが、ギルドの解体場を借りられませんか?」
俺がそう言って、ギルド裏手の解体場へ案内してもらう。
広い石造りの解体場で、俺は懐から龍玉を取り出し、ハッチを開けて玉を逆さに振った。
ポンッ!という音と共に、元の巨大なサイズに戻った鳥の魔物が、ズシンッと床に転がり出た。
「ひっ!」
突如現れた巨大な魔物の死骸に、セリアさんが短い悲鳴を上げて目を見開いた。
「えっ……エ、エルヴァン様! これ、『暴風の岩鳥』じゃないですか!?」
「ゲイル・ロックバード?」
「はい! この辺りの空の生態系の頂点に君臨する、Bランクの討伐対象です! 風の刃を飛ばしてくるので、並の冒険者じゃ手も足も出ない厄介な魔物なんですよ!?」
なんと。ただの美味しそうなデカい鳥だと思っていたら、Bランクの討伐依頼に載っている賞金首だったらしい。
見学に来ていたガストンは、胃の辺りを押さえながら、力なく「……それもまとめて精算してやれ。俺はもう驚かん」と手を振った。
解体を終え、俺たちの目の前には小山のような最高級の鳥肉のブロックが積み上げられた。
「すげえ量だな。これもまた龍玉に入れて持ち帰ろう」
――わあぁっ! お肉のやま! ……あむっ。おいしい! でもせまい!
玉の中に次々と肉を放り込むと、ファルは文句を言いつつも、ちゃっかり生肉を味見している。
『あはは! ファルお爺ちゃんは便利な倉庫だね!』
――むきーっ! ぼくは『幸運の白竜』なんだぞー! そうこじゃないやい!
ぷんすかと怒るファルの言葉に、俺は思わず笑ってしまった。ちなみに魔導具である冷蔵庫も大変高価な品物である。
「ああ、間違いない。今日こんなに良い食材が手に入ったのも、ファルのおかげだ。さすがは本物の幸運の白竜だな!」
俺が笑って玉越しに頭を撫でると、ファルは「えへへ〜」と満更でもなさそうに目を細めた。
「よーし、最高の食材も手に入ったことだし、今日は俺が腕によりをかけて、ゲイル・ロックバードの極上唐揚げを作ってやる! ロランさんたちも喜んでくれるぞ!」
俺たちは満面の笑みで、待つ人がいる温かい帰る場所――『陽だまりのしっぽ亭』へと、小走りで家路を急ぐのだった。
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読んでいただきありがとうございます。
面白いと思って書いてはいるのですが、反応がないと不安になったりします。メンタル劇弱なので…
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