第16話:秘密保持と、専属受付嬢
ギルドマスター・ガストンの鋭い眼光と追及。
だが、その威圧感の中には、ただ新人をいびろうとするような悪意は感じなかった。むしろ、この迷宮都市ゴルドランの冒険者たちを預かる責任者として、不正や危険分子を見逃さないという『真っ当な義務感』からくるものだと感じた。
(……この人は、信用できそうだ)
そう判断した俺は、小さく息を吐いてからガストンに問い返した。
「一つ、確認させてください。ギルドは、所属する冒険者をちゃんと守ってくれるんですか?」
「どういう意味だ?」
「昨日、受付で俺がBランクの討伐報酬を受け取った時、周りにいた冒険者たちに思い切り金額を知られました。事実、昨日の夜、その報奨金狙いの強盗数人に裏路地で襲われたんです」
「なっ……!?」
ガストンが目を見開く。俺は淡々と続けた。
「返り討ちにしたので無事でしたが……もし俺がギルドに自分の手の内や秘密を明かしたとして、それがまた漏れたら、今度はもっと面倒な連中に目をつけられる危険があります。ギルドには、冒険者の秘密を守る義務はないんですか?」
「…………っ!!」
ガストンはギリッと奥歯を噛み締め、立ち上がると、俺に向かって深く、深々と頭を下げた。
「……すまなかった。報酬の受け渡しで周囲に騒がせたのも、お前を危険な目に遭わせたのも、すべてギルドの管理不足だ。昨日対応した受付嬢は、責任を取らせて別の街の支部へ左遷する」
「えっ、いや、そこまでしてもらわなくて大丈夫です!」
さすがに申し訳なくなって俺は慌てて手を振った。
「彼女にも生活があるでしょうし、いきなり左遷は可哀想です。ただ、お願いがあります。約束と秘密を絶対に守れる、口の堅い受付嬢を俺の『専属』にしてください。それが守れるなら、俺の秘密をお教えします」
「……お前、甘いな。だが、そういうお人好しは嫌いじゃない」
ガストンは呆れたように笑うと、少し思案してから部屋の呼び鈴を鳴らした。
数分後、コンコンと控えめなノックと共に、一人の女性が応接室に入ってきた。
「お呼びですか、マスター」
現れたのは、艶やかな亜麻色のロングヘアを持つ、とても可愛らしい顔立ちの女性だった。だが、特徴的なのはその『背の高さ』だ。スラッとしたモデルのような体型で、身長は俺と同じか、下手すると少し高いかもしれない。
「彼女はセリア。俺がこのギルドで最も信頼しているスタッフの一人だ。今日から、彼女をお前の専属担当にする」
「初めまして、セリアです。未熟者ですが、精一杯サポートさせていただきます」
「あ、エルヴァンです。よろしくお願いします」
セリアさんが丁寧にお辞儀をする。真面目で誠実そうな人柄が伝わってきた。
ガストンは再び俺に向き直った。
「改めて謝罪する。ギルドには本来、冒険者の個人的な秘密を外部に漏らさないという厳しい守秘義務が存在している。今後、このような情報漏洩は絶対に起こさせないと約束しよう」
「分かりました。俺は、ガストンさんとセリアさんを信用します」
俺が頷いた時、懐の龍玉の中からファルの呆れたような念話が響いた。
――エルヴァン、ほんとにおひとよしだなー。こういうときは、『秘密保持契約魔法』くらいしてもらうべきなんだぞ?
(秘密保持契約魔法?)
――うん。ひみつをやぶった人に、きょうせいてきにばっそくをあたえる魔法のけいやく。王家が使うやつなんて、やぶったら命をとられちゃうくらいこわーいばっそくがあるんだから!
なるほど、そんな便利でもあり、恐ろしい魔法契約があるのか。
だが、そこまで縛り付ける必要はないだろう。俺にはシリウスもファルもいる。最悪、約束が破られて居心地が悪くなったら、別の街や国へ移動してしまえばいいだけの話だ。
「さて、それじゃあ俺の秘密ですが……」
俺は姿勢を正した。とはいえ、ファルが伝説の『幸運の白竜』であることまで話す気はない。宝探しを生業とするトレジャーハンターや権力者に狙われるのは御免だからだ。
「ギルドには『黒馬』と登録しましたが、俺の相棒はただの馬じゃありません。あいつは――ナイトメアです。少し特殊な個体で炎と瞳が青いですが」
「……ナイトメア、だと!?」
ガストンとセリアさんが同時に息を呑んだ。
「なるほど……伝説の悪魔馬の蹴りなら、あのタイラント・ボアが無傷で即死したのも完全に納得だ。しかし、あんな恐ろしい魔物をどうやってテイムしたんだ?」
「何もしていません。俺とあいつは『心』で繋がっているんです。主従ではなく、対等な相棒として」
俺の言葉に、ガストンは絶句した。しかし、俺の目を見て嘘ではないと悟ったのか、大きく息を吐き出して頷いた。
「わかった。ギルドマスターとして、俺はお前を信用する」
そう言って、ガストンはふと、俺の胸元の龍玉に視線を落とした。
玉の中で「あむあむ」と干し肉をかじっている、ハムスターサイズのもふもふな白竜。
「…………あっ」
瞬間、ガストンの目が限界まで見開かれた。
歴戦の猛者であるガストンには、ただのトカゲではない何か――ファルから漏れ出る『神獣』としての途方もない格や、幸運の気配のようなものを察知したのかもしれない。
「マスター……?」
「……いや、なんでもない。俺の気のせいだ。世の中には、知らないほうがいい秘密もあるからな」
ガストンは額に浮かんだ冷や汗を拭い、誤魔化すように咳払いをした。
「エルヴァン。お前の実力と、抱えている従魔の規格外さはよくわかった。その証として、お前の冒険者ランクを、本日から特例で『Bランク』に昇格させる」
「えっ、FからいきなりBですか!?」
「タイラント・ボアの単独討伐実績があるんだ、当然の措置だ。……それに、だ」
ガストンは机の上に両手を組み、真剣な表情で俺を見据えた。
「実は、お前に相談がある。少し厄介なモンスターの討伐を、Bランク冒険者として……いや、お前と『青炎のナイトメア』に、お願いしたいんだ」
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読んでいただきありがとうございます。
面白いと思って書いてはいるのですが、反応がないと不安になったりします。メンタル劇弱なので…
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