第15話:ギルドマスターの呼び出し
迷宮都市ゴルドランの冒険者ギルドは、朝から多くの冒険者たちでごった返していた。
ロランさんに、宿代も食事代も無料にしてくれると言われたが、それに甘えっぱなしというわけにもいかない。今日も手頃な依頼を受けて、何か美味しい食材でも狩ってくるか……。
そう思いながらクエストボードへ向かおうとした俺の前に、昨日の受付嬢が小走りで駆け寄ってきた。
「あっ、エルヴァン様! お待ちしておりました!」
「様はやめてくれって……。今日は何か依頼を受けようかと思って」
「ありがとうございます!実は本日は依頼を受けていただく前に、どうしてもとお伝えしなければならないことがありまして……」
受付嬢は周囲の冒険者たちの視線を気にするように声を潜め、俺の耳元で囁いた。
「ギルドマスターが、あなたをお呼びです。……二階の、特別応接室へ」
ギルドマスター。
この巨大な迷宮都市の冒険者たちを束ねる、トップに立つ人物だ。俺のような駆け出しのFランクが呼ばれるような相手ではない。
周囲の冒険者たちが、ひそひそと囁き合っているのが聞こえた。
「おい、あの馬とトカゲの兄ちゃん、ギルマスに呼ばれたぞ」
「ほら見ろ。昨日のタイラント・ボアの討伐、やっぱり不正か死体泥棒だったんだよ。ギルマスに絞られて、違約金払えなくて迷宮送りだな」
なるほど、そういうことか。
駆け出しのFランクが、Bランクの凶悪な魔物を単独(正確には従魔とだが)で無傷で討伐したとなれば、ギルド側が疑いを持つのも無理はない。
「……わかった。案内してくれ。シリウスは外で待っててくれるか?」
『えー? 僕も一緒に行って、エルヴァンを疑う悪い奴を蹴り飛ばしてあげようか?』
「お前がそれをやったら建物が吹き飛ぶ。少しだけの辛抱だ」
俺はシリウスをギルド前の魔物待機所に繋ぎ、ファルの入った龍玉だけを懐に忍ばせて、受付嬢の後についてギルドの二階へと上がった。
重厚なオーク材の扉の前で、受付嬢がノックをする。
「ギルドマスター。エルヴァン様をお連れしました」
「……入れ」
扉の奥から響いたのは、腹の底に響くような野太く、威圧感のある声だった。
部屋の中央にある大きな執務机。そこに、まるで熊のような体躯をした初老の巨漢が深く腰掛けていた。顔には大きな切り傷があり、歴戦の猛者であったことを雄弁に物語っている。
そして机の上には、昨日俺が提出した『タイラント・ボアの牙』が無造作に置かれていた。
「よく来たな、新人。俺がこのゴルドラン支部を任されているギルドマスター、ガストンだ」
「Fランクテイマーの、エルヴァンです」
俺が名乗った瞬間、ガストンは鋭い眼光で俺を睨みつけ、部屋の空気がビリッと震えるほどの強烈な『威圧』を放ってきた。
並の冒険者なら、これだけで膝から崩れ落ち、息ができなくなるほどの殺気だ。
だが――俺は、まったく何も感じなかった。
当然だ。俺は常に、伝説のナイトメアや、神獣たる白竜の途方もないオーラを間近で浴びているのだ。人間の放つ威圧など、そよ風にすら感じない。
「…………ほう」
俺が平然と立ったまま瞬き一つしないのを見て、ガストンは僅かに眉を動かし、威圧をスッと解いた。
「驚いたな。ただのテイマーかと思っていたが……俺の気を当てられて、顔色一つ変えねえとは」
「それで、俺に何の用ですか? 不正を疑っているなら、あの牙は本物だと昨日の鑑定で出たはずですが」
俺が単刀直入に切り出すと、ガストンは腕を組み、机の上の牙を顎でしゃくった。
「ああ、本物だ。傷一つない、見事な一撃で仕留められた極上品だ。だからこそ、俺はあんたを呼んだ」
ガストンは身を乗り出し、探るような目で俺を見た。
「あの暴君猪は、熟練のBランクパーティーが六人がかりで挑み、死者を出しながらようやく倒せる化物だ。それを……昨日登録したばかりのFランクが、馬とトカゲ一匹で無傷で倒して帰ってきた」
「…………」
「受付から聞いたぜ。あんたが使役してるのは、ただの黒馬だってな。
ふざけるなよ?ただの馬がタイラント・ボアを倒せるわけがねえ。死体泥棒か、高位の魔導具を使った密猟か……
それとも、あんたの連れている従魔が、ギルドに報告できないような『厄介な代物』なのか。正直に吐いてもらおうか」
鋭い追及。
ギルドマスターの目は誤魔化せない。シリウスがただの馬ではないと、完全に疑いを持っている。
――エルヴァン、こいつ、こわいお顔でエルヴァンをいじめてるの!ぼくがちょっとだけ、おどかしてやろうか?
懐の龍玉の中で、ファルが物騒な念話を飛ばしてくる。
ここで白竜が飛び出したら、それこそ街がひっくり返る大騒ぎになってしまう。
俺はファルを念話でなだめながら、ガストンに話し始めた。
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読んでいただきありがとうございます。
面白いと思って書いてはいるのですが、反応がないと不安になったりします。メンタル劇弱なので…
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