表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/41

第14話:ファルの伝説

 翌朝。『陽だまりのしっぽ』亭の一階にある小さな食堂には、温かいスープと焼きたてのパンの匂いが漂っていた。


「エルヴァンさん、シリウスさん、ファルさん。おはようございます!」


「おはよう、ルカ君。……えっと、さん付けはやめてくれないか? なんかむず痒いからさ」


「ふふっ、エルヴァンさんは照れ屋さんですね」

 すっかり顔色が良くなり、元気に厨房に立つロランさんが朗らかに笑う。

 彼らが作ってくれた朝食をいただきながら、俺は足元でくつろぐシリウスの首筋を撫でた。


「しかし、シリウスは最近大活躍だな。野犬の群れも、昨日のタイラント・ボアも一撃だったし、ロランさんの悪夢まで払ってくれたし」


「うんっ! シリウス、すっごく強くて優しくて、格好いい!」

 俺とルカ君にベタ褒めされ、シリウスは『えっへん!』と鼻息を荒くして胸を張った。


『僕にかかればこれくらい当然だよ! エルヴァンのためなら、これからもドカーンと大活躍してあげるからね!』

「ああ、頼りにしてるよ、相棒」

 俺が笑ってシリウスの鼻先を撫でていると、シリウスはチラリと隣を見た。

 そこでは、龍玉のハッチから身を乗り出したファルが、短い両手で抱え込んだパンを「あむあむ」と幸せそうに頬張っていた。


『それにひきかえ……ファルお爺ちゃんは、玉の中で寝て、食べて、また寝てるだけだよね』


 ――むぐっ!?

『な、なにもしてないわけじゃないの! ぼ、ぼくは、ただここにいるだけで、エルヴァンたちはいーっぱい恩恵をうけてるんだからね!』


「恩恵? 世界樹の葉っぱをくれたことか?」


『それもあるけど、ちがうの! ぼくはね、むかしから『幸運の白竜』ってよばれてるんだよ! ぼくと一緒にいる人には、次から次へとはっぴーなことがおこるの!』


 短い手足をブンブンと振り回し、一生懸命に自分の凄さをアピールするファル。だが、その姿は完全に「パンを食べてご機嫌なハムスター」である。


「へーー。そうなのか。すごいなー」

『ふーん。じゃあ、今夜の夕飯のお肉が大きくなったりするの?』


 ――むきーっ! ふたりとも、ぜったい信じてないお顔なの!


 俺とシリウスが話半分に適当な相槌を打っていると、朝食の片付けをしていたロランさんが、ハッとしたように手を止めた。


「幸運のホワイトドラゴン……。ファル様、もしかして……伝説に語られる『万象に福をもたらす神獣』のことですか?」


 ――えっ? うんっ! たしか、そんなふうに呼ばれていた事もあるよ!!


 ファルがコクコクと頷くと、ロランさんは信じられないものを見るように目を見開いた。


「ロランさん、何か知ってるんですか?」

「ええ……。子供の頃、祖父から聞いたことがあります。この世界には、ただそこに存在するだけで周囲の『負』を払い、『正』の縁を引き寄せる特別な白竜がいると。その竜が歩む道には奇跡が満ち、共に歩む者はどれほど困難な状況でも必ず最善の未来へ導かれる……。その竜こそが、伝説の『幸運のホワイトドラゴン』なのだと」

 ロランさんの語る壮大な伝説に、食堂がシンと静まり返った。


「その白竜の名は、幸運を司る神獣。……まさか、それがファル様の本当の……」

 ロランさんとルカ君が、畏敬の念を込めて龍玉を見つめる。


 当のファルは『えっへん! ぼく、すごいの!』とふんぞり返っているが、見た目が幼児なので威厳は皆無だ。


「……幸運を司る、神獣」

 俺はポツリと呟いた。


 考えてみれば、迷宮都市へ向かう道中でファルに出会い、仲間になってくれた。そしてこの広いゴルドランの街で、ロランさんたちのような優しい家族の営む『陽だまりのしっぽ亭』にたどり着けた。


「……そっか。俺たちがこの街でこんなに温かい宿に出会えたのも、ファルが一緒にいてくれたからなのかもしれないな。お前が、俺たちを良い『縁』に導いてくれたんだな」


 ――えっ?


 俺が優しく頭を撫でると、ファルは少し照れくさそうに目を丸くした。


『ち、ちがうよ! エルヴァンが、ぼくたちに美味しいご飯と、優しい言葉をくれたから……だから、神様がエルヴァンにご褒美をくれたんだよ!』


「ははっ、そうか。でも、ありがとうな、ファル」

 俺が笑うと、隣で聞いていたシリウスも『まぁ、ファルお爺ちゃんもたまには役に立つってことにしてあげるよ』と優しく鼻を鳴らした。


「さてと! 美味しい朝ご飯も食べたし、伝説のホワイトドラゴンもついてるんだ。今日もさっそく、冒険者ギルドに行って新しい依頼を探してこようと思う。しっかり稼がないとな!」


「はい! いってらっしゃいませ、エルヴァンさん!」


 ロランさんとルカ君に見送られ、俺たちは元気よく宿を飛び出した。


 足取りも軽く、俺たちは迷宮都市ゴルドランの『冒険者ギルド』へと向かって歩き出した。


 ――この後、ギルドマスターから直々に呼び出しを受け、面倒な事態に巻き込まれることになるとは、この時の俺は知る由もなかった。

◆◆◆◇◇◇◆◆◆


 読んでいただきありがとうございます。


 面白いと思って書いてはいるのですが、反応がないと不安になったりします。メンタル劇弱なので…

 少しでも面白かったと思っていただけたら、ブックマークや評価を頂けると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ