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おかしな目

作者: 鮭皮 茶漬

 おかしな目にあった。朝起きた時に、枕元にある眼鏡が妙に気になったが、今思うと何かの予兆だったのかも知れない。

 普段通りに登校し、授業を受けて家に帰る。これまで何十回と繰り返してきた、平凡な一日になるハズだった。昼間はトラブルが起きることもなく、何気ない日常の一ページを消化していた。

 放課後のことである。ホームルームを終えると、同級生達は足早に教室を出て行く。私は席についたまま、ひとり教室に残っていた。部活動に参加しているわけでもないし、居残りで何かすると言うわけでもなかった。ただ、人の波が得意ではなかったので、ある程度人が出払った後にのそのそと帰るようにしている。これも普段通りのこと。なんらおかしなことはなかった。

 異変が起こったのはそれからだった。そろそろ帰ろうと思い、椅子から立ち上がろうとした時、突然の目眩が私を襲った。目の焦点が合わず、バランスが取れない。今の状態では、まっすぐ歩くこともできないだろう。

 たまらず私は椅子に座った。眼鏡を外し、眉間に手を当てる。疲れているか、眼鏡の度が合わなくなっているのかもしれない。次の休みにでも、視力検査を受けるべきだろうか。冷静さを欠いたまま思考を巡らせていたが、しばらくすると目眩はぱたりと治った。

 教室に長居する理由もないので、さっさと帰ることにする。眼鏡をかけるとまた目眩を起こしそうだったので、眼鏡は制服のポケットに入れておくことにした。

 私は普段眼鏡をかけて生活しているが、裸眼では何も見えないわけではない。かなり視界がボヤけてしまうが、物の位置などはだいたい把握できる。それに慣れ親しんだ校舎だ。注意して進めば大丈夫だろうと、たかを括っていた。

 教室を出て廊下を進む。二階の教室なので、廊下を突き当たりまで歩き階段を降りてまっすぐ進むと生徒玄関がある。階段にさえ気を付けていれば、特に困難もないだろう。今思うと、この時の私は楽観的だったのだろう。

 注意深く、一歩ずつ階段を降りる。一度足を踏み外せば、たちまち転げ落ちてしまうだろう。

 ふと下を見ると、階段の踊り場に見知った顔がある。私の友人だった。友人は言葉を発さず、こちらに手招きしている。踊り場の窓から夕陽が差し込み、友人の顔に影がかかっていた。薄ら笑いを浮かべた友人の表情に違和感を覚えつつも、私はゆっくりと階段を降りる。

 踊り場に足を踏みいれた所で、ハッとする。私は何故、友人の表情がはっきりと見えているのだろうか。恐怖と困惑が混ざった眼差しで、友人を見る。次の瞬間、薄ら笑いを浮かべていた友人の口角が高く上がった。

 私は咄嗟に踵を返し、脇目も振らずに階段を駆け上がる。重く、不気味な足音が背後から迫って来る。

 もう少しで上がりきるといったところで、制服の裾を引っ張られた。抵抗できないまま、背中から転げ落ちる。身体に強い衝撃が走り、私は意識を失った。

 目を覚ますと、私は保健室のベッドの上にいた。そばにいた先生の話を聞くに、階段で大きな物音がして、駆けつけた先生が踊り場で倒れている私を見つけた。目立った外傷は無かったが、ポケットに入れていた眼鏡は、残念ながら割れてしまったようだ。

 先生に見せられた眼鏡は、フレームが曲がりレンズが割れている。もはや、眼鏡としての役割を果たすことはできない代物だった。

 身体は問題なく動くし、痛みなども感じ無いので帰ることにする。先生に礼を言い保健室を出ようとした時、ふと入り口にある姿見鏡が目に入った。

 まさかと思い鏡を覗き込んで拍子抜けした。なんらおかしな事はない。眼鏡を外した私の姿が映っているのみだ。

 顔にも傷は付いていない。そのことを確認して、私は保健室を後にした。

 おかしな目にあった。そう思い返す私の瞳には、いつもの風景が妙にはっきりと見えた。

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