表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ライラ・ライブラの若さの秘訣  作者: えとう えと
一章 入学と審査の開始
6/7

五話 第二王子からの招待


 第二王子ルーファス様の誘い。

 これに拒否権はなかった。

 しかし、そうか。それじゃあ仕方ないわね。


「不敬は働かないようにお気をつけてくださいね」

「へ、変なことはしないわよ!」

「不敬を働かないようにと言っただけですが……」


 そう、変なことはしない。

 あわよくば……などとは思っていないのだ。

 『叔母様、くれぐれも年ごろの男子とお近づきに……なんてことは考えないようにしてくださいね』と学園に入る前に言われた言葉が耳元でささやかれるように再生される。


「ん?」


 と、思ったら実際にアリアが口に両手を添えて耳元でささやいていた。






 ◆


「ルーファス様、こちら『至高の七十七』ライラ・ライブラ叔母様です」


 アリアが生徒会室だと言い案内した部屋では一人の少年が待っていた。

 アリアの紹介によって、私は彼の前に立った。


「初めまして。王位継承権第二位ルーファス・サイン・アスクレーです」

「『至高の七十七』ライラ・ライブラ、です。お会いできて光栄です」


 柔和な笑みを浮かべた少年の手を私は握り返した。

 流石王族の血統と言うべきか、端正な顔立ちだ。

 

「はは、そんなに硬くならなくても良いですよ。今は学園の生徒同士、気楽にいきましょう。僕のことはルーファスとでも」


 年下に気を使わせてしまった。


「わかりました。ルーファス様。では、私への敬語も不要です。今は十五歳の一年生のライラ・ライブラとして接していただければ」

「そうだね。そうするよ。ライラさん」


 どこか取り繕った笑みが、自然なモノへと変わった気がした。

 こんな人が学園にいるなんて女子生徒たちは気が気でないだろう。

 そりゃあ、講義室で隣の方から噂が聞こえてくるわけだ。


 それから私たちはあたりさわりのない会話をした。

 生徒としての話、そして『至高』についても興味があるのか色々なことを訊かれた。

 そして短い間ではあるものの人通り会話をしたあと彼は私を呼び止めた。


「ところで、ライラさん」


 不意に彼は思い出したように口を開いた。


「なんでしょうか?」

「いや、なに、単なる世間話だけどね。近頃、学園の生徒の間ではとある噂が広まっているようで……」


 夜空に浮かぶ月のような金の切りそろえられた髪を揺らして彼はこちらを見た。


「どうにも、出ると言うんだよ」

「なにが、でしょうか」

「幽霊」


 しなやかな指で押さえた口元に薄い笑みを浮かべてそう言った。





 ◆


「殿下も、御戯れが過ぎますね」

「そっそそ、そうね」


 幽霊?馬鹿馬鹿しい。

 そんなものいるわけがない。

 全く、ルーファス様もまだまだ学生の域を出ないと言うわけだ。


「ところで」

「ひぃ……こほん。どうしたの?」

「いえ。大したことではないのですが。このまま私について来るのであれば覚悟してくださいね」

「へ?」


 アリアの不穏な言葉に私の理解は追いつかなかった。


「かわいい」

「この子、アリアさんの妹さん?」

「ちいさ~い」


 縮んだ私の身体では頭一つ分は高いだろう女子生徒たちに囲まれもみくちゃにされる。

 頭を撫でられ後ろから腕を回され、そしてほっぺを引っ張られる。痛い(いはい)

 そんな状態を受けながら暫くして息も絶え絶えになりながら、やっとその場を脱することに成功した。


「はあ、はあ……なんだったの……今の」

「私の同級生です。此処は二年棟ですので特に小さい叔母様が通れば彼女らの餌食になってしまいます」

「先に言ってよ」

「忠告はしましたよ」


 そんなことをアリアは言うが、具体的に説明してくれなければ分からない。

 いや、彼女の様子を見るにわざとだった可能性も十分にあるが。


「はあ、まあいいわ。もみくちゃにはなったけれど間取りは把握できたし」

「間取り、ですか」


 息を整えて声を発した私にアリアは疑問を呈した。

 そう言えば言っていなかったなと思い出す。


「ルーファス様が言ってたでしょう、幽霊が出ると」

「まさか、今夜にでも忍び込むつもりですか?」


 ビンゴとジェスチャーをした。

 流石アリアだ。私と違って頭の回転が良い。






 ◆


「何も貴方までついてくることはなかったのよ」


 日が沈み、静けさを取り戻した校舎の廊下を私は歩く。

 きょろきょろとあたりを見渡しつつ掛けた言葉はアリアへのものだった。


「いえ、そのように怯えながら進む叔母様のことを見てはいられません」

「びっ、ビビっていないから!」


 あれ?今暗がりで何か動かなかった?


「ネズミですね」

「そ、そうだよね」


 アリアのメイドのリサさんが素早く動いて捕獲したソレを見せた。

 リサさんが窓からネズミを逃すのを見ながら、アリアに来てもらってよかったと思いなおした。

 正確にはメイドのリサさんにではあるが。

 

「それにしてもこのように怯えてらっしゃるのに叔母様はどうして夜の校舎なんかに?今向かっているのも昼間のルーファス様の言う噂の幽霊の出ると言う場所ですよね?」

「貴方も分かっているでしょう?」


 とぼけたように疑問を口に出したアリアに私はそう言った。


「まあ、ルーファス様のおっしゃった噂が存在していないことくらいは」


 内心分かっているじゃないかとため息をつく。

 彼女の言ったように昼間に聞いたルーファス様の噂と言うのはこの学園に存在していないものだった。

 私も情報通と言うわけではないから、交友関係の多いと言うルームメイト兼審査官のイルゼにそんな噂は流行っていないかと確認してみればそんなものはないと言う。

 当然、諜報に長けたルーファス様が流れてもいない噂が生徒間で流行っていると言う間違った情報を持っているはずがない。


「ルーファス様の言うところの幽霊は彼の手勢のものでしょうね。彼の護衛を主とした部隊」


 それを敢えて幽霊と称して私に存在を教えた。

 それが意味するところは。


「大方、魔術的攻撃手段への課題の抽出と……」

「大本命としての、『至高』をその目で見たいと言う欲求に端を発している可能性が高いですね」

 

 これだから王族と言うのは。

 いくら顔が良くても、こういうことを平気でやってのける。

 私は余興をするために学園に入ったわけではないのだが。

 しかし、まあ……。ルーファス様が見たいなら仕方ないわね!

 と言うか、普通に断れないのでここに来た次第であった。


 まあ、なんにせよ幽霊とやらの存在を明かさなければいけない。

 私は、杖を地面に突き立てた。


「“探せ”」


 簡単な魔術だ。

 効果範囲は校舎内だけに絞れば大した労力を必要とせずに発動できる。


「……見つけた」


 閉じた瞼の裏に五つの気配を映し出す。

 思ったよりも少ない。

 本気でやりあう気はない様だ。


「さあ、さっさと終わらせるわよ。“撃て”」


 先ほどと同じように魔術を発動させる。

 『至高』の杖に光が集まり、射出される。

 光はするりと伸びて枝分かれでもするように、五つに割れる。

 光は、最初の魔術で割り出した座標へと伸びていく。

 同時にそれを察した気配が動くも、光の筋は追尾する。


 とは言え、相手もルーファス様の手勢のものである。

 魔術の追尾ごときで落とされることはない。

 私の視界の外で、光の筋を躱し続ける。

 壁を蹴り、天井を蹴り、魔術を避ける。

 人影を負って屈折する魔術は尚も迫り切れない。


 流石にうまい。

 恐らく剣だろう。獲物で直下を防ぎ身体を捻り魔術を躱した。

 ただ、こちらだって仕留めきれるだけの魔術を発動している。

 それぞれに五つに分かれていた光の筋は拡散するように更に枝分かれを開始する。

 蜘蛛の糸でも張るかのように魔術は空間を駆け回る。

 それらすべてを潜るように避ける人影は、僅かにその腕に攻撃を受ける。

 しかし、最終的には障害物へ魔術を衝突させての打ち消しによって、攻撃の波涛潜り抜けるに至った。 

 そして、枝分かれしたすべてが躱されるか、打ち落とされるかしたのを感じ取って同時に五つの気配がこの場を脱したのがわかった。


 案外あっけない決着である。 

 

「流石ですね」

「これくらい誰でもできるわよ」


 謙遜でも何でもなく私はそう言う。

 最低ランクの『白羊』の魔術師でもこれくらいは出来るだろう。

 

「そう言えば、『至高術』はお使いにならないのですね」

「流石にね」


 『至高術』はその名の通り『至高』の魔術師だけが扱う魔術技法だ。

 強力な力である一方で魔力を喰うことや発動までの準備が面倒なので態々この程度で使う必要性は感じられなかった。

 ただ、それを理解しているであろうアリアがそう言うのは、恐らくルーファス様が『至高術』を求めているからだろう。


 そんな風に思っていると暗闇で何かが動いた。


「ひぃ」

「ネズミですね」


 ビビっているわけではないが、ビビっているわけではないのだが、胸を撫でおろした。

 と言うか、校舎にネズミ多くない?






 ◆


「流石『至高』と言ったところかな」


 第二王子にして学園生徒会長を務めるルーファスはそんな言葉を呟いた。

 自身が仕向けたこともあり意図を読み取ったライラ・ライブラが校舎内で行ったことの報告を受けての言葉だった。


「通常の魔術で彼らを相手するとはね」


 あくまで様子見だった。

 故に少数である僅か五人を選抜して送ってみたのだが結果は負傷を負っての逃走。

 隠密に優れたものたちであったのにも関わらず、それを容易く察知されたことも特筆すべき点だ。


「これは、いつか『至高術』を使ってくれる日が楽しみだね。しかし、それもこれも君の働きにかかっているわけだ。頼むよ」


 その声は誰にささやかれたのか。

 しかし、ルーファスが語り掛けた暗闇の中には笑みを浮かべる人物が居た。

 その人物を見るルーファスの長い睫毛から覗く瞳は兎を狩る狩人の物のようにも思えた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ