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ライラ・ライブラの若さの秘訣  作者: えとう えと
一章 入学と審査の開始
2/7

一話 報告と催促


 姪のアリア・ライブラに助けを求めた私は無事、ライラ・ライブラであると言う事の証明に成功した。

 後に思えば、最初から『至高』の杖を見せていればよかったが、過ぎたことは仕方ない。

 良い方向に物事が進んだことを喜ぼう。


「ところでアリア、姉さんたちは?」

「母様ですか?叔母様の葬式の準備に大忙しですよ」

「私死んでるの?」

「ええ」


 随分と冷たい肯定の声に少し傷つく。


「ああ、でもそうなると叔母様(推定)の骨は別人ですか。叔母様が消息を絶って家に骨が届いてから母様は他人の骨に頬ずりをしていたわけですね」

「冗談でしょ?」

「冗談です」


 私の七個放れた姉、カミラ・ライブラはほんわかとした雰囲気を纏う女性で、感情も豊かだ。

 しかし、その娘である彼女は表情に乏しかった。

 そんな彼女が(真顔で)冗談を言うなんて珍しい。

 

「母様は今も叔母様の捜索に奔走しています。使いの者を使わせているので、少しすれば帰ってくるでしょう」

「姉さんにも苦労を掛けたわね」


 屋敷の通路を歩きながら見ながらそう言った。


「それにしても叔母様。その恰好はどうなさるつもりですか」

「恰好?」


 アリアにそう言われて自分の身体を見下ろした。

 貧相な身体だ。

 いや、そうではないか。

 縮む前の身体にあった服をここに来るまでずっと着ている。

 故にサイズは致命的にあっていない。


 魔術師然とした立派なローブも今の私では、魔術師の仮装をした子供だ。


「服を揃える余裕もなかったからね。大して上等なものでもないけど入手経路を考えると市場には流せないし」

「よくここまでたどり着けましたね」

「魔術師ごっこをしてる子供に見られたってやりようはあるんだよ」


 苦労は多かったが舐められるなら舐められるのを利用してやればいい。


「ないのならすぐに用意します」


 そんなアリアの一声で私は衣裳部屋に案内された。

 そこにあったのはアリアが着ていたであろう衣装の数々だった。

 メイドがそばに控えて私のローブを回収した。


 その中から適当にアリアが見繕ってくれる。

 余程古い服はないのだろう。

 それでも簡単に服の丈を合わせるだけで、今の私の身体に合う出来るのは流石アリアである。

 彼女は色々と控えめなのが功を奏した。

 本人は気にしているため、「グッジョブ」と親指を立てたりはしないが。


「結構様になりましたね」


 着付けが終わって、鏡に写る自分を見ればどこぞの令嬢のようだった。

 これを見て「さらわれそう」と口に出す私は外見相応の年齢ではないと実感させる。

 アリアが私の感想を聞いてジト目を向けるが、若いころの私は中々イケていたのだなとも思った。

 若いと言っても幼いが勝つ年ごろではあるが。


「……そうですか。では、下に行きましょうか」


 着付けを手伝ってくれたメイドとは他のメイドが来て、アリアは何か報告を受けると口を開いた。

 それは姉、カミラ・ライブラの帰還の知らせのようだった。


 私たちはメイドを引き連れて大広間に移動した。

 報告を受けただけあって程なくして待ち人は来た。

 姉さんは血相を変えて、扉をあけ放ち飛び込んできた。


「ライラちゃ~ぁああああ…………あ?ん?」


 両手を広げて、私に抱き着こうとして言葉を詰まらせた。

 姉は「遠近法……?」と謎の言葉を残して固まった。





 ◆


「なるほどね。ライラちゃん小さくなっちゃったんだ」


 姉さんは私の話をすんなり信じてそんなことを呟いた。

 現在私は姉さんの膝の上で撫でられながらアリアにジト目で見られてた。

 羨ましいのだろうか。まだまだ子供だな。


「アリアちゃんも大きくなっちゃったからなんだかこうして頭を撫でてあげるのも久しぶりねぇ」


 アリアももう十六歳だ。

 少し小柄で外見は十四くらいだが、会うたびに背丈が高くなる彼女を見ると時間を感じる。

 一緒に過ごすよりも、久しぶりにあう親戚の方が時代の流れを感じるのだと二十七年も生きていれば強く感じた。


「ところで、ライラちゃん」

「ん?」


 数十年ぶりに姉に頭を撫でられて年甲斐もなく姪の前でだらけていた私に声が掛けられる。

 二十七歳の姿でこんなことをしていれば目も当てられないが、今は許してほしい。


「ライラちゃんは、小さくなっちゃったわけだけど。これからどうするの?」

「それなんだけどまだ何も考えてないのよね。まず、『至高』の地位をどの程度活用できるかによって左右される部分は大きいから」


 『至高』とは世界に現在八十二人──ゆくゆくは上限の百人まで増えると言われている──存在していると言う魔術師の総称であり、王国でも価値が認められている。

 それだけに、私は今まで『至高』と言う身分にすがって生きて来た。

 身体が小さくなったとて『至高』の証明は出来るから、身分の剥奪には至らないだろう。

 しかし、ライラ・ライブラの今までの活動と継続したことが出来るとも限らない。

 基本私は王命を受けた任務をこなして飯を食べていたが、仕事内容は無論外見込みで決められている。

 今回の調査隊の任務で言えば私の素性が割れていないこともあったが、例えば今の小さな身体では任命されることはないだろう。

 実力以前に、目立てば元も子もない。


「取りあえず、ここに来る道中でまとめてた報告書はアリアに送ってもらったから、あとは上の指示次第ね」


 王国側がどう出るか。

 『至高』たる私を手放すことはないだろう。

 だが、それでも扱いが変わる可能性は十分にある。

 その時、今まで私を邪魔に思っていた人たちが黙っていない場合もある。

 貴族に爵位があるように、『至高』にも位は存在していて、それが変わるようなことがあれば面倒が起こるだろう。


 そんなことを思いつつも姉さんの「いつまでも居てくれていいんだからね」と言う言葉に甘えて館に滞在させてもらうことにした。

 彼女の場合、年単位で世話をしてくれそうだが、流石に小さくなっても私は二十七歳、出来るだけ早く食い扶持を見つけたいところだ。

 そして数日後、私のもとに一つの知らせが入った。


「『至高の七十七』ライラ・ライブラに召喚命令です」


 王国印のついた文書をアリアが目を通してそう言った。

 宛先はここの家主マテオ・リア・ライブラに向けたもので、私がいの一番に見ることは出来なかった。

 それを代理として姉さんが開き、横から奪ったアリアが声に出した。





 ◆


 私が召喚されるまで直接王国側へのコンタクトを取らなかったのは、単身『至高』の杖だけを持って入場するには面倒ごとが発生する可能性を危惧してのことだった。

 まず私であると言う証明は『至高』の杖であれば可能である。

 ただ、それをすれば王国での私の価値は変動する。

 『至高』の証明は自身の存在を周知することに他ならない。

 調査隊の件でも選考理由として存在していた匿名性を殺すことに変わらない。

 同時に、『理の象徴』の存在をほのめかす悪手でもあった。


 『理の象徴』は人知の及ばない存在である。

 それが、移動するだけで国家の方針は容易に変わるだろう。

 私が、少女の姿になったことが知られれば、そこから一つの可能性として『理の象徴』の存在は浮かんでくるだろう。

 『理の象徴』の力に若返りがあるとは知られていない。

 しかし、私の存在から調査隊が暴かれ、そして騎士団の派遣の全貌が公になれば他国との軋轢も生まれることは確実だ。


 深く考えればもっとあるだろうが、それは私の仕事ではない。

 それでも、浅知恵でも「面倒だ」と言う事くらい分かった。


 そしてそんな私は満を持して王国側に召集されることとなった。


「まさか。報告が本当だとは」


 ライブラ家の力の支援を受けて馬車を要ししてもらった私を出迎えたのは、中年の男だった。

 色気もへったくれもない男は布を解いた『至高』の杖を見分してそんな声を洩らした。


「王室お抱えの軍事顧問殿でも予想できなかったかしら」


 軍事顧問、ケイレブ・ロンのこんな顔は見たことがない。


「俺も、世迷言に付き合う気はなかったんだが。『至高の七十七』ともあろうアンタがそんな姿になったとありゃ信じることしかできないか」


 頭を押さえる彼は花の王宮勤めの生活を送っているようには見えない。

 そんな風に思っているふと何かを思い出したように言った。


「全滅……調査隊はお前以外生き残りはいないってのは確かなのか?」

「ええ。『理の象徴』が何かをしていたかは見ていないけれど、目を覚ました時には森林は焼けて真っ黒だったわよ」


 「当然死体も魔術で確認したけど、その場で全滅ね」と続ければ、ケイレブはついぞ黙りこくった。

 死体がない人もいた。

 だけど、調査隊に配布された認証のための魔術の掛けられた金属製のタグは五十二枚きっかりあった。


「そうか。アシェルも……」

「アシェル?」


 特別思い入れがあったのだろうか。

 そう首を傾げて見せれば彼はトボトボと話した。


「なに。少し、教官時代に教えてたんだ。そして、今回の調査隊に俺が押した。ほら、今回の隊長を務めた男だ。わかるだろう?」


 そう言われて私は騎士風の男を思い出した。

 皆の先導を切って、支持を出していた男だ。


「ならせめてこれを」


 私は袋を取り出すとジャラリと音を鳴らした。

 調査隊の識別タグだ。

 しかし、ケイレブは首を振る。


「それは出来ない。今回の調査隊は公に出来ない。特に、アシェルにはすでに騎士としての身分はない。王命であるのは秘匿されるべきである事態だ。故に」

「口外したとしてもそもそも彼自身が勝手に龍下森林に侵入し、国境沿いで武装していたってことになるのね」

「そうだ」


 それでも、戦って死んだことを遺族に伝えることも出来ないだろう。

 龍下森林に赴くことも問題になりえるが、龍の壁を突破するには腕の断つ魔術師の協力が必要になる。

 彼の一人のために戦争の火種を作ることはしないだろう。

 

「まあ、過ぎたことだ。それより、『理の象徴』、その詳細を聞きたい」


 私情はここまでとでも言いたいように、『理の象徴』の詳細を聞いた。


「『象徴』は『理の象徴』に限らず情報が少ない。報告書には人型の少女のような姿と書かれていたが、もっと詳しく知りたい」

「もっとね」


 正直、報告書の詳細は少し端折った部分もあった。

 『至高』の立場にすがれなかった場合に、王国が喉から手の出るほど欲している情報を握ることは一つのカードとなりえる。

 私との面会を王国側は急ぐだろうと言う目論見だった。


「容姿で言えば、金の髪に赤い瞳だったわ。十二歳くらいの少女で、全裸だったわね」

「全裸……」


 おじさんが呟く言葉にしては些か不健全な言葉を復唱する。


「まるで神話画のような光景だったわ」


 あの時の光景は浮世離れしたものだった。

 

「だが、何故『理の象徴』だとわかった?」


 そこに断定するまでの経緯が分からないのだろう。

 ケイレブはそう訊いた


「まず、今回の異変は『象徴』によるものだってのは、魔術的な異変の感知の不可から来るものからの断定って言うのは報告書に書いたわよね」


 私が確認するように言うと彼も頷く。


「魔術的な観測が無意味になる存在なんて『象徴』くらいしか存在しないのよ。それに、王国の国境付近とは言え、見ることの出来る『象徴』なんて『理の象徴』くらいしかいないでしょ」

「ずさんな推理だが、実際そうだな。過去の記録を考えれば『理の象徴』だろう。発生分布も一番近い」


 酷評気味な男の声に眉を寄せつつも肯定の言葉をもらう。

 あれに遭遇したからこそ言えるが、あれが『象徴』でなければ正気を保てない。

 世界の摂理たる『象徴』以外にあんな存在がいるとは思いたくないのだ。


 しかし、事実が何であれ、報告書込みで伝えられることは伝えただろうか。

 そろそろ本題に入りたい。


「で、上からはどんな指示が出てるのか訊かせてくれない?」

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