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ライラ・ライブラの若さの秘訣  作者: えとう えと
一章 入学と審査の開始
1/7

プロローグ


 『象徴』と呼ばれる七つの存在があった。

 人なのか、自然なのか、ものなのか。

 人々は、『象徴』を口にし、別のことを言う。


 ただ、私が目にした『理の象徴』は人の形をしていた。


 王国東部、龍下森林にてそれと出会った。

 かつての伝承で龍が天に住み着いたと呼ばれるその地では、『理の象徴』が統べていた。


 そこでは、魔物たちの不審な動きが活発化していた。

 それ故に、王国は調査を命じた。

 王命によって森林の調査隊に編成された私は、多くの仲間と共にそこへ赴いた。


 『至高の七十七』として調査隊の魔術師としての杖を取った。


「何か妙ですね」

「そりゃ異変だ。妙な事態になってなきゃ、俺たちが駆り出された意味がない」


 調査隊には、様々な人材が集められた。

 生態系に詳しいと言う青年が森の異変に眉をひそめて、力自慢の大男がそれに言葉を返した。

 しかし、そうではないと青年は言う。


「いえ、異変として報告されていた魔物の凶暴化が見られないんですよ。近隣の集落、そして幾度にもわたる騎士団の出動による情報です。すべてに共通していたはずのこれがないのは些か不気味ですよ」


 王国が重い腰を上げるに至るまでの、経緯は彼の語った通りだった。

 最初に異変を訴えたのは森林からほど近い集落であった。

 彼らは、魔物の活発化の被害を負い、自衛に徹していた。

 当然その程度では、国は動くことはなかったが辺境伯領を侵したことで騎士が派遣され、それでも対応しきれない事態についに国が騎士団の遠征に踏み切った。

 だが、幾度かの偵察に伴い龍下森林奥地に原因があるだろうことが分かったが、作戦遂行には魔術師の力が必要と判断された。

 しかし、頼みの綱の魔術師団を国境付近の龍下森林に派遣することは条約違反になりえた。

 そもそも、騎士団の派遣もグレーゾーン。これ以上は更なる問題を生む可能性があった。


 そこで、徴収されたのは『至高の七十七』ライラ・ライブラこと私だ。

 弱冠十六歳にして『至高』の末席に名を連ね、現在二十七歳の私に白羽の矢が立った。

 『至高』の魔術師も魔術師団同様に、国境付近への進行は軍事的行為とみなされかねない。

 しかし、私の名前はごく一部にしか露出しておらず『至高』でありながら、匿名性が高いために身分を隠し調査隊へと編成されていた。


「まあ、何でもいいさ。そこの姉ちゃん、今回の魔術師だろ?アンタは何か気付いたことないのか?」


 青年の話に大柄の男は興味を無くしてこちらに話しかけて来た。


「魔物の行動と言う意味では、そこの人と同意見だけど。魔術師としての見解なら特に何も、と答えるしかないわ」


 魔物の行動には青年と同じように思うところはあった。

 しかし、魔術師的な要素から見ての異変は存在していなかった。

 故に、不気味だ。

 この状況下で魔術的な要素に異変がないと言うことはあり得べからざることであった。

 ある種、これが異常と言えただろう。


「ただ、少し不安にもなるな。魔術師団所属でも何でもない魔術師の姉ちゃんの言葉だ」


 胡散臭げなものでも見るような目を男はこちらに向けた。

 ただ、表向き肩書を持たない私に向ける視線としては真っ当なものだった。

 国が動く事態だ。脅威度は正確に測ることはできないが最悪私に命を預ける事態も予想できるとなれば、不安も募るだろう。

 しかし私が何も言わないでいると、青年が口を開いた。


「貴方、今は作戦中ですよ。無駄なわだかまりが出来るようなことは──」

「わかってるよ、坊主。いくら無名でも実力があるから王命でここにいることくらい。軽口くらいでカッカすんなよ」


 男はそう言ってそっぽを向いた。

 青年はその男の行動に対して何かを口に出そうとして前方から声が向けられた。


「ここからは龍の壁だ!魔術師の諸君!力を貸してくれ!」


 総勢五十三名の調査隊を統括する男の声だった。

 騎士の風貌の彼は目の前に聳え立つ龍の壁を見た。

 龍が統べた時に作られたと言う不可視の結解。

 目に見えず、しかしそこを通過したものは『龍の呪い』を受けて死に至る。


 結解に沿って石碑が置かれ目印代わりになった場所で私を含めた魔術師の面々は顔を合わせた。


「自己紹介はいい。結解の一時解除のローテーションだけ決める。使用魔術の発動時間だけ共有してくれ」


 一人の老練の魔術師が先導して場を仕切った。

 彼は魔術師の最高ランクである『黄道』の紋章を付けていた。

 故に文句も出なかった。


 そして迅速に魔術行使の順番を決めた私たちは龍の壁に穴をあけた。

 そこを調査隊が通っていくのを見た。


「私が、最後でよかったのですか?ご老人」


 少々時間が掛かるが故に私は少し口を開いた。

 魔術行使のローテーションは、腕に覚えがある魔術師でも数秒程度しか維持できない龍の壁に開ける穴を持続的に負担がかからないように決められたものだった。

 そして、順番が進むごとに実力者になっていく。

 そんな中で私は最後尾に決まっていた。

 順当にいけばこの老人に任される役目であるだけに疑問が湧いたのだった。


「ふん。その黒い杖。それは『至高』のものだろう。それとも、この老人にお前の素晴らしさでも語らせて悦に浸りたいか?娘」

「いえ」


 見る者が見れば『至高』の杖は判別がつく。

 杖を覆う布が解れて見えていたとはいえ、それをこれ見よがしに見せておいて、なぜなどと老人に聞くのは失礼にあたる。

 そんなことに遅れて気付いた。


「まあいい。『至高』に選ばれなったジジイよりも、今回の作戦の肝はお前になるだろう。精々、頑張ってくれ」


 老人はそう言って役回りを変わった。

 そして数秒後最後の役回りが私に回って来た。

 同時に、穴を維持できるうちに私も龍の壁を越えた。


 越えて……。


「は?」


 穴を超えた先で調査隊の背中を見た。

 周囲を警戒して、報告をしあう姿だ。

 ここに来るまでに近くにいた青年と男もいた。

 魔術師の面々も居たし、老人も魔術を使い周囲の警戒をしていた。


 そして私は一度瞬きをした。

 瞬きをしたら、視界は一転していた。


 森林は炎に包まれていた。

 調査隊の皆は倒れていて、一つの人影があった。

 一瞬のうちに、世界は変わっていた。

 赤い世界で少女を見る。


 いつかどこかの聖堂で見た神話画の登場人物のようだった。

 およそ人間離れしていた少女はこちらに手を向けていた。


 向けていたのだ。

 向けたのではない。

 知覚出来たのは少女の手が私の頭を掴んだ後。


「───」


 ソレが何かを発した後、意識は途絶えていた。





「ん、んん」


 居心地の悪さを感じて意識が覚醒する。

 身体に力が入らない。

 でも、何とか立ち上がろうとして違和感を覚える。

 そして何気なく視界に入れた自分の腕を見て声を洩らした。


「なによ、これ」


 幼い子供の手。

 そして低い視界で、灰のように黒色に変わった森林を見た。

 

 


 ◆


「で、恐らくその少女は『理の象徴』で、それと対峙した結果……叔母様は若返ってしまったと」


 私の目の前に座るのは十四そこらの外見の少女。

 少女の名前は、アリア・ライブラ。私の姪である。

 彼女は半ば呆れたような表情を作って私を見た。


 ジト目がちの瞳にはきっと彼女よりも更に幼い少女が写っているのがわかった。

 それは紛れもなく私の、ライラ・ライブラの今の姿であった。


「本気?」


 私の話を聞いて尚も少女は疑いの目を向ける。


「貴方が消息不明になった叔母様、ライラ・ライブラの情報を持っているって言ってここまで来たから話を聞いたけれど」

「それは、そうとでも言わなきゃ会えなかったから」


 意識が覚醒してから私は自分の現状を把握した。

 子供の姿になっていたこと、そして調査隊の面々には生き残りはいないと言う事。

 そして、保護してくれそうな人物を考えた時、該当したのが姪であるアリアだった。


 しかし、アリアも貴族だ。

 身元不詳の小娘がそう簡単に会える存在ではない。

 そこに体よく私の捜索願と情報提供を求める知らせを見たため問い合わせをした。

 通常であれば、使いの者に対応させるのが常であったので、直接アリアに対面できたことはラッキーであった。


「じゃあ、分かったわ。私とアリアにしか分からない秘密を言うわ。そうすれば、信じてくれる?」

「まあ、ええ」


 不承不承と言った様子でアリアは頷いた。

 魔術なんて神秘があっても余程信じられない事態に納得したくないと言った感じか。

 しかし、信じてもらえるならば過去の秘密でも明かそう。


「じゃあ、そうだなぁ。昔、私がアリアのお世話をしてた時、よく私のまねをしてたなぁ」

「その程度誰にでもあるでしょう」

「そう言えば、アリアはそんな済ました顔してるけど、キノコが嫌いだから食べるとき顔がクシャってなる」

「好き嫌いくらい誰にでもありますし。大体、少しキノコが苦手ではありますがその程度の情報は叔母さまでなくとも知りえることは出来ます」

「じゃあ、アリアの腰の左あたりにホクロがあること」

「だからその程度誰にも……って、はぁ!?」

 

 やっと表情を動かしたアリアは目を見開いた。


「まだ小さいときに、お世話してたから覚えてたんだよね」

「は?いや、でも。……ちょっと、席を外します」


 私の付け加えた言葉を聞いていたのだろうか。

 それよりも何か動揺したように部屋を出て言った。

 そしてしばらく彼女は帰って来た。


「ど、何処で知ったんですか!?わ、私はまだ人に見られるようなことはしていないのに!」

「いやだから、世話をしたときに……ん、あ、そう言えば」


 やはり聞いていなかったかと、口を開いた時私は一つのことを思い出した。

 それは私の装備一式の中にあった黒い杖であった。

 布でまかれたその杖を見せる。

 布を解けば漆黒の杖が露になる。


「『至高』の杖。これなら証明になるわよね。この杖は使用者以外には持つことが出来ない。『至高の七十七』のライラ・ライブラ唯一の証明よ」


 『至高』の代名詞たる漆黒の杖は私を証明してくれるものだった。

 そして、アリアも良く知っている。

 動揺の色を驚愕へと塗り替えた。


「ま、まさか。本当に叔母様?」


 表情に乏しいアリアが百面相するのを珍しく思いながら、自身の証明がなされたことに胸を降ろした。

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