立ち往生の主は
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目的地までは徒歩で3日の所だ。道中に魔物が出てくるような危険な場所はないし、何も問題ない。いや、問題はあるか。ここは辺境伯領だからな。当然だけど、辺境なんだから、他国とは隣接している。他国からの盗賊なんかが逃げ込んできたりもする。だから、割と危険なんだけど、そんな心配をしていたら話にもならないからな。危険は付き物。村に居ても襲われるときは襲われるのだ。運が悪かった。これで全てが済まされる。だから道中に襲われたら、運が悪かったと足掻くしかない訳だな。
「そんな運が悪いなんて、俺は嫌だったんだが……」
見ればそこには車輪の外れた馬車が1台、無事な馬車が2台止まっている。これは、あれだよな。完全にあれだよな。待ち伏せって奴だ。これは声をかけられて、修理の手伝いをさせると見せかけて後ろからバッサリといくやつなんだよ。俺、よく見た光景だ。漫画では、これにお貴族様の馬車が通りかかる時にばったりと出くわすんだ。そして、救出劇からの恋愛に発展するパターンだな。
後ろを見る。前を見る。馬車なんて走っていない。……お貴族様フラグは立たなかったか。立ったら立ったで面倒なんだけど、そこには援軍が居る訳で。今回は俺一人しか居ない。これでどうしろと? 言っては何だが、刃物を持っていても2人までならなんとかすることが出来るが、3人は厳しいぞ? 一応だが、武術の心得はあるので格闘になれば問題ないんだよ。3対1にならなければ。2人ならなんとかできると思うぞ? 特殊な加護が無ければだけど。
これでも前世は合気道をやっており、なんだかんだと四段まではいけたんだよ。そこからが才能の限界だったわけだが。四段止まりなんだよな。推薦されなかったし。これ以上は無理だって言われたんだよな。師範から。なんでも小手先に頼るようでは駄目らしい。ある程度の器用さがあれば、四段まではなんとかなるんだが、そこからはある種の才能が必要らしい。それでも2人相手くらいならなんとかなるんだよ。……相手が馬鹿でかい剣を持っていたら流石にどうにも出来ないが。
近づくのが正解だとは思わない。ここは離れて様子を見る方が賢い選択だろう。周囲には、4人は居るな。それだけの相手をさせられるのは流石に不味い。
「あ! 丁度いい所に! きみきみ! ちょっと手伝っておくれよ!」
……先手を取られたか。不利なのは仕方がない。何とか切り抜ける方法を探さないと。
「ちょっと待っててください。今から行きます」
後ろの幌馬車には、人が居ないと思う。荷物はマジックバッグのみだ。後ろからの襲撃は最低限で済むな。と言う事は前からか。正面には4人の大人の男性が作業をしている。……本気で直してないか?
「すまないね。ちょっと車輪が外れてしまって。予備の部品なんて持っていないんだよ。ガロールまで行ければ、なんとかなるんだけど、ここで立ち往生してしまって。馬車を捨てるのも馬鹿らしいから、なんとかならないかって思っていたんだけど、何とかできないかな? ちょっと力を貸して欲しいんだ」
「……馬車がガロールまで行ければ良いんですよね?」
「そうなんだよ! そしたら向こうで修理でも幾らでも出来るからさ!」
「それならガロールまで乗せていってくれないですか? 丁度冒険者になりにガロールまで行く所だったんです」
「何とか出来るなら良いよ! こう見えても商人だ。約束は守るよ」
「……では、馬車からマジックバッグを全部積みかえてください。俺の加護はストレージなので、馬車ごと収納します」
「お? おお! そんな手が! 解った。じゃあ荷物を積みかえよう。さあ作業だ。仕事だよ」
離れて様子を見る。……フラグとか言っているからこうなる。普通に善良な商人じゃないか。警戒して損をしたとは思わないけど。普通にあの場所で立ち往生していたら賊か何かと勘違いするだろうよ。近づかないのが正解だと考えるだろう? まあ、ここは平原地帯、逃げる場所も隠れる場所も無いんだが。
「荷物は全部降ろしたよ。馬も馬車から外したし、収納してくれるかい?」
「ええ、任せてください」
馬車を一気に飲み込む。……これがマジックバッグとストレージの違いだ。マジックバッグの入り口は大きさが決まっている。だから口広の物が大きいものに対応しているんだけど、こんな馬車を放り込めるようなマジックバッグは余り置いていない。その点ストレージは入り口の大きさを調整できる。ただのマジックバッグと同じにされたら困るんだよ。臨機応変に使い分けることが出来るストレージの方がマジックバッグよりも優れているのだ。……まあ、それだけなのかと言われたら、ちょっと違うんだけどさ。
「綺麗に収まったね。ストレージを使い込んでいるんだね」
「まあ、マジックバッグが手元に無かったら、便利ですからね。これでも修練しました」
そう。普通は入り口を作って飲み込むんだけど、ストレージを使い慣れると物を移動させずに飲み込むように放り込むことが出来る。そして、それから更に工夫を重ねることにより、対象物を一瞬で転移させることが出来るのだ。これがマジックバッグとの大きな違いなんだよ。入れ方にも複数あるんだ。これだけでもかなり有益なんだけどな。特に俺みたいな冒険者志望の人間には。まあ、そもそもストレージを修練するってなんだよって思われるかもしれないけどな。笑いたい奴は笑えばいいさ。地味な成果だと笑えばいい。笑えない使い方だって出来るって事を証明してやらないといけないからな。
「それじゃあ馬車に乗り込んでくれよ。まあ、乗り心地が良いとは言えないけどね」
「そうですね。これだけのマジックバッグがあるんですから。結構大商いなんですね?」
「これでも小規模なんだよ。零細まではいかないけど、利益が出る程度にはちゃんと商人をやれているし、僕だって人を雇っている身だからね。今回みたいに馬車を捨てるなんて事になったら、大損だったんだよ。それでも利益は出るけど、新しい馬車を作るにも費用がかかるし、その分商売も縮小しないといけないからね。今回は助かったよ。僕たち4人も何もできないで居たからね。ストレージも役に立つことがあるんだねえ」
「まあ、普通はマジックバッグで良いですからね。でも、今回みたいなことがあったら、口がもの凄く広いマジックバッグを持っておいた方が良いでしょうね。馬車も運べますし」
「違いない。っと、僕はエレン。エニュール商会の商会長だ。君は?」
「俺はレイウード。これから冒険者になる予定だ」
「冒険者かあ。僕も始めは憧れたよ。冒険譚がどうしても忘れられなくてさ」
そんなこんなとエレンさんと話をしていると、直ぐに出発した。少しでも早くガロールに着いてくれれば有難いからな。歩いて行くのと馬車での移動って余り変わらないんだけどな? 大体あと2日って所なんだけど、そもそも馬車ってそこまでの速度が出る訳では無いから。中継地点の村にはどうしても寄る必要がある。なので、早いか遅いかの違いでしかないんだけど、少しでも早く着く方が、俺にとっても有難かったからな。
そんな訳で無事に出発できたわけなんだけど……。今度もまた馬車が2台止まっている。……本気か? 今度こそ本気だよな? ここまで来てフラグじゃないですとかいうか普通? なんでこんなことになっているのかは知らない。運が悪いにも程があるだろう。2回とも商人でしたって事は殆どない筈なんだよな。それに、エレンさんの顔が一気に強張ったのを横目に見たからな。これは今度こそあれに違いない。




