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Destiny  作者: 暁 桃李
1/1

友明

 1

 ”ここはどこなんだろう”

頭に流れてくる映像に中学校の制服を着た俺がいたから、これが夢なんだと言う事がわかった。

 入学式の帰りだろう。父さんの運転する車の後部座席に真新しいブレザーを着ている青年がいる。

まだ幼い妹は助手席に座る母さんの膝で大人しく寝ていた。

 車のデジタル時計は12時近くを指している、これから俺の入学祝いで外食をするんだ。

新しい学校、新しい友達、初めての制服……何もかもが新鮮で、嬉しくて、この日の俺は前にいる父さんにずっと話しかけていた。父さんも、母さんも、微笑みながら話を聞いてくれていた。

 そして、話題は妹のことになった。

こっくりと船を漕ぐ妹を愛おしそうな目で見ながら、父さんが俺に言った。

『俺はお前達を守るから、友明はちゃんと葵のこと守ってやるんだぞ』

その言葉に、「わかってるって」、と苦笑いした。

 これが、父さんとした最後の会話だった。

 信号を右に曲がった時、まるで狙いすましたかのように一台の軽トラックが突っ込んできた。




 ”頼む、夢なら覚めてくれ”




「父さん!母さん!」

 驚いて布団から跳ね起きた。衝撃で枕が吹っ飛び、目覚まし時計に命中した。

どうやら車同士の衝突音はジリリと鳴るベルの音だったらしい。

 それにしても、なんて嫌な目覚め方だ。顔を赤くしながら目覚まし時計を拾いに行った。

28歳にもなる大人が、両親の夢で飛び起きるなんて少し恥ずかしい。

「お兄ちゃん、ご飯できてるよー!」

1階から葵の声がした。

 その時初めて大量に汗をかいている事に気づいた。



 2

 朝はご飯に味噌汁、それに卵焼き。これ北条家のお決まり。

葵と向かい合って黙々とご飯を食べていると、壁の4月の日めくりカレンダーが前日のままになっていた。

「カレンダー、四日のままだけど」

 今思えば、随分遠回しの言い方だったと思う。

「あ、本当だ」

立ち上がってめくりに行くと、五の字に大きく赤丸がしてあって小さく命日と書いてあるページになった。

「そっか…今年もこの日が来たね」

俺はお茶を啜りながらしみじみと言う葵を見ていた。相変わらず強い子だなと思う。

「今日学校早退しようと思うんだけど、何時に待ち合わせする?」

「え、お前今日補習があるんじゃないの?」

「何で知ってるの!?」

「予定帳に書いてあったから」

胸ポケットから黒い手帳を取り出た

「ちょ、なんで見てるのよ!」

「こーゆうのは保護者に見せるものだぞ」

「小学生の連絡帳とは違うんだから!」

「そーなのか……それにしても凄いよな、いままでずっと気がつかなかったのか?」

ふて腐れた葵は応答してくれない。

「もーいいよ、午後に一人で行くから」

「補習は午後の授業が終わってからだろ」

「あーあ、せっかくサボれると思ったのに……」

「いや、サボったらダメだろ。じゃあ六時ぐらいにバス停で会おっか」

「わかった」

と言って、葵は笑った。

 葵は普通の子と少し違う。十五年前の今日、交通事故で右目を損傷していた。

そのため、家にいる時以外は使い捨ての眼帯をしている。

 瞼から縦に約一cmの白い線が入っているから目が開かない。

 まあ、俺としてはいつもウインクしてるみたいで可愛いと思うんだけど…。

「なあ、葵」

「なに?」

「そのー…ずっと言おうと思ってたんだけど」

「だから何?」

「…家には金がないわけじゃないんだし、そんな安っぽい眼帯じゃなくてもいいんじゃないのか?」

「いきなり何かと思ったらそんなことか。

別にいいよ、使いやすいし」

「けど地味じゃないか。もっとこう……海賊みたいなアイパッチとか!」

「嫌だよ、逆に変でしょ」

「それじゃなくてもさ、もっと丈夫なやつ」

「本当、気にしないで」

「けどさ、やっぱ十五年目ってことでそれなりにオシャレを……」

「いや、わざわざ眼帯にこだわらなくてもよくない?」

「そうか……じゃあせめて兄ちゃんがレースを付けてあげよう!」

「絶対やだ、だってお兄ちゃん裁縫下手だもん」

「そんなに遠慮しなくてもいいんだぞ?

  いまこそ俺の神手の才能を見せ…」

「はいはい、もう時間!早く食べて会社行かないと遅刻だよ」

「やばい!もうそんな時間か!?葵も早く支度して」

「もう出来てる」

「いつの間に!」

「話してる間、早くしなきゃ先行っちゃうよ?」

「ちょっと待てって!」




 


 明日は会話の間の情景描写から。

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