第8話 スタート
第8話 スタート
『エリザベス!!!!!はなせ!はなせーーー!!!』
燃えさかる炎へ向かうエリザベスを追いかけようと走るロバートを他の騎士達が止めに入っていた。
この場に居るものでこの炎を消す力があるものはいなかった。そして、エリザベスの火魔法は強力でこの魔法を消すにはそれ相応の魔法で対処する必要があった。
ロバートは悔しさで唇を噛みしめていた。愛しい人を助けることの出来ない無力さに膝をつき、呆然と座り込んでいた。
1時間程で王城から消火の部隊がきた。
『炎の中に飛び込み、自害したんだってなー、この目で拝みたかったなー』
『ウォーターボール!!!』
ニヤニヤと笑いながらヘンリー王子が魔法を放つ。
『死体を探せ!!!』
『はっ!!』
ヘンリー王子の魔法は水魔法で王族は人並み以上の魔力があり、エリザベスの火魔法はみるみると消えていった。不思議なことにその炎は周りに燃え移ることはなかった。
ロバートはヘンリー王子を睨みつけ、急いで遺体を探しに向かった。
『ヘンリー王子!!ありました!!』
『おお!見つけたか!』
その声を聞き、ロバートや他の騎士たちも近づく。そこには焼けて白骨化した死体の側に昨日まで着ていたドレスの焼けた端切れが落ちていた。
『はは、ははは、、ようやく死んだか!急ぎ報告に参るぞ!』
風のように去っていた後、ロバートは死体の側へ歩いていく。
『ドレスは俺が売ったはず…』
王子が持って帰った端切れの他に少し残っているドレスの端切れを手に取り、まだエリザベスが生きているのではないかと布をきつく握りしめていた。
ー1時間前ー
『ファイヤー…ぉ-、ファイヤーぅぉ-…、ファイヤーぅぉ-るー…』
エリザベスは建物が燃えないように炎の壁を作り燃えているように見せていた。
『ご機嫌よう』
毅然として炎の中に入るエリザベスは熱さを堪えながら見えない所までいくと声を押し殺し熱さに悶えていた。
『ほぉっほぉっほぉっ、まだ休む暇はないですぞ。』
『はいっ!』
ここからが時間との勝負だった。建物を焼けたように見せかけ、使えそうなものはエリザベスのインベントリへ、腐敗していた死体の方々に手を合わせ白骨するぐらい燃やす、そして最後に自分の死体を用意する事。
『なんで、売ったはずの私のドレスがあるの?』
『盗んだ』
スラジイの家にいた男の人の一人のジョンさんという人が話してくれた。王城の側の街から盗みの噂はよく聞いたものだけど犯人は捕まったことがないし、証拠もなくスラム街の人たちを捕まえることが出来なかった。能力とかではなくなんでも盗める本物の怪盗がいるらしい。怪盗…会ってみたいものだ。
私も能力を使ったがジョンさんの隠蔽のスキルが凄かった。ジョンさんが思う通りに姿・形を変形することができる。あたりが瞬く間に火事が起きた惨状に変わっていった。
この作戦に大事なのは一時的にエリザベスが死んだと思わせること、スラム街にスパイを侵入させないこと。駐在所でドレスを脱いだ姿はロバートはじめ他の騎士たちが知っているし、しっかり調べればドレスが盗まれたことなどもわかるだろう。死んだままになると今後の王位継承問題に参加できなくなる。
ドレスの端をそっと置き少し燃やした後、ロトさんの移動の能力を使って4人はその場から消えていった。
『ここは森?』
王都から少し離れたところにシャード森林がある。ロトさんの力によって、街の40人程のメンバーがこちらに移動していた。木が切られたあとがあり、一軒の小屋だけが建っている状況だった。
『今連れてきたメンバーはこの街の復興を願う者たちです。あとの奴らは居ても足手まといになるので置いてきましたわい。そしてここは魔物も出ますからの。』
『スラジイ、この選択は間違ってないんだよね?』
『あくまでもわしの力は予言なだけ、自分自身を信じなさい。』
小屋に入ると、アン達と銀髪の男性が一人いた。
『お姉ちゃん!ドレークさんに聞いたけど大丈夫だった??』
『うん、大丈夫だよ!』
ここまで順調すぎるぐらい進んでいる。このスラム街の皆さんは本当チートだらけで助かる。自分だけの力ではこうも上手く行くわけがなかった。ただ、なぜ断罪を受けた際にこの街の事を提案したのか。他にも方法はいくらでもあるはずなのに、昔遊んだゲームの内容・読んでいた漫画の物語なのか、保家とく子自身がやるべきことがわかっているように足が勝手に動いていた。
ここにいるメンバーには素性が知られてしまっているため、改めてここにいる皆にこれからのスラム街ビフォーアフター計画の説明をすることにした。そして、各自の能力でどれだけの事が出来るのかを確認する。
『ドレークだ。俺の能力は製造。小さいものなら作ることが出来るよ。』
銀髪の30代ぐらいのドレークさんは、目の前の木材を手に取り、木材を可愛い木彫りのウサギへと変えた。
『うわーー!!!!ドレークおじさん、こんなことできたの?』
子供たちは目を輝かせ、他の物を作れるか頼むくらい大喜びしている。
『最近出来るようになったんだよ』
やはり、能力の開花はアンとの関わりに影響しているようだった。
『釘とかは作れる?』
『おお!鉄とか銅とか材料があれば出来ると思うぞ。』
家の建設は出来そうだが材料の問題が出てきた。
『ジョン…隠蔽。色々隠せる。』
『先ほどはありがとうございました。』
日本語覚えたての外国人のようなしゃべり方で綺麗な白髪の男性である。クーデレタイプなのか。
『ロトです。スキルは移動です。行ったことのある場所であれば移動することが出来ます。』
ロトさんは黄色の髪に黒いメッシュが入った優しそうな女性の方だ。
それにしても瞬間移動。とても憧れるスキルである。昔見ていた漫画のマネをして人差し指と中指をおでこに付けて念じていた。
『エ、エリザベスさん?』
『わっすいません!』
思わずポーズを無意識にとっている自分に赤面した。
『ほぉっほぉっ!わしはスラジイと呼ばれておる。スキルは予知じゃ。』
未来が見えるなんてチートはせこすぎる気がするが、今は自分のスキルだけじゃ心配なので本当に神様には感謝しかない。
『改めまして、エリザベスです。スキルは火魔法・インベントリです。
これから、街の復興についてご説明します。
まず、目標はスラム街の衣食住が整う事、住に関して現在の状況では家の壁はかろうじてあるが
所々隙間があったり、壊れていたりしています。早急の立て直し。
次に食ですが、現在2日に1回の配給のみですが、自給自足を目標とします。
最後に衣ですが、自分たちで作れる能力があればいいですが、
まず布や糸を買うとこから進めないといけませんのでここに関しては
購入するためのお金を稼ぐこと。この3つを雪が降るまでに行っていきます。』
『建築・農業・お金稼ぎってことか…やること多すぎない?しかも雪が降るまでって』
ドレークさんがいうのも無理はない、いくらすごいチートがあろうと残り3か月で全てを解決するのはむずかしい。
『期限に関しては王命でして誠に申し訳ありません。』
エリザベスと王妃の問題にここの人達を巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないと思っている。
『農業ってお野菜とか育てるんでしょ。楽しそう。』
『新しい家だってもう寒くなくなるな!』
『秘密基地つくりたい』
『いいねー!』
重い空気の中、アンが笑顔で微笑んでくれた。
それにつられてランカ達も楽しそうに未来に期待を持ってくれている。
『んー、まーやれるだけやってみるか!』
『そうですね。』
『うん。』
ドレークさん達も子供達のやる気に促され、一緒に頑張ってくれるといってくれた。
嬉しさのあまり涙が出そうになった。
『…ありがとうございますっ!!!』