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転生しない  作者: めれ
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第6話 炊き出し


第6話 炊き出し



 アンはカッコいいチョップを決めてくれた少年たちを連れてきてくれた。また怒られるんじゃないかと3人ともおどおどした様子を見せている。


『呼び出してごめんね、怒るわけじゃなくて話がしたかったの』

スラム街で生き抜いてきた少年達は少しくもりががった瞳をしている。この世界の汚い部分・差別や区別をその身で痛感してきたのだろう。純真無垢な小学生とは全然違うのである。目の前の16歳の知らない女の人を品定めするように話を聞いてくれようとしている。


『予言します!今日、配給で配られる食事はいつもより豪勢になります!そして、明日必ず新しいスラム街の住人と怪しい見回りの人間がきます!』

少年達はポカーンと口が開いてこちらを見ている。

我ながら過去の自分とは到底思えない姿を人様にしていると思うが、それもエリザベスの社交性があるから成り立つわけでエリザベスの魂がどこかにいってることをいい事に色々とやりすぎだと思う。反省はしている。たぶん。


『なんだよ、それ!』


『君たちとは同盟を結びたいと思っている。これもここにいるアンを守るためなのだよ。』

なぜ、この腐敗している街から臭いがしないのか?それはアンの能力に違いない。その能力はつい先ほど覚醒した。”浄化”の能力は魔物が蔓延るこの世界で必要な力になるであろう。アンがいなくなればこのスラム街は悪臭が漂い、国の汚点となることで即刻燃やされ、空き地となっていただろう。そうなれば住人達はどうなるのだろう。考えただけでもひどい展開になりそうだ。


『そこの君、井戸から水を汲んできて』


『…はい』

3人の中では物静かそうな少年である。

すぐに水を持ってきてくれたが、その水は泥水で飲める状態にない。


『アン、祈ってみて』


『えっうん……』

アンが祈りを捧げると水に光が集まり、みるみる綺麗な水になっていく。


『うわ……』

皆の前で木の桶のまま、水を飲む。その水はミネラルウォーターのようにとても澄んだ味がした。


『うまい!』

まるでCMのように飲んでみせると、美味しそうに飲む姿に4人ともゴクリと唾を飲む。


『俺も!』


『僕も!』

食べ物や飲み物に飢えているこの街では水はとても貴重である。


『このままだとアンは明日来る怪しい奴らに王宮に連れて行かれてしまうかもしれないなー。どうだろう?私に協力をしてくれないかい?』

明日来るスパイたちは私の動向を探る、又は殺す人間である。だが、アンの存在が公になればその者たちも恐らく王妃様に報告しかねないであろう。いずれ来るその時の為にちびっこ騎士たちであるがアンを守る存在がいることはとても心強い。


『アンを守るのはわかった。ただ、まだお前も信用したわけじゃない!予言の能力かなんだか知らねーけど、まずはそれが当たってからだ!』

予言の能力なんてものがあればほしいくらいだ。火が使えるだけと物をしまうだけの能力だっていったら手のひらをかえされそうだ。


『わかった!今日中に返事がほしい、もうひとつ予言をしよう。今日の配給は……煮込みハンバーグだ!!』

4人のよだれをすする音が聞こえた。

配給の時間まで3人組は作戦会議をするといい、家から出て行った。


『私のお祈りがみんなに知られたら、もうここにはいられなくなるの?』


『アンの能力は色んな人の助けになる能力なんだ。ただ、その能力は自分が誰かの為に使いたいと思う時に使えばいいと思うよ。』

能力が目覚めたからと言って聖女が国の為に働くものって誰が決めたのだろう。当たり前。常識。それでアンの人生が人形みたいに生きなきゃいけない人生になるくらいなら、そうしない国を私が作ればいいと思う。


『うん!!』

アンは微笑んでいた。



ーーーカンカンカン、カンカンカンーーー


 お昼の配給の時間がきた。スラム街の配膳は2日に一回でお昼の一回のみということらしい。

死なない程度の食事だけ提供してくれているようだ。ホームレスより優しい。

鐘の音と共に家から配給場所までゆっくりと皆歩いていく。

その光景を見て、改めてここに住んでる人の衣食住をすべて通常な生活水準に上げることが私に課せられたミッションである事を痛感する。


『私たちも行こ!』

アンが気持ちで重くなっている私の足を手を引いて連れ出してくれた。

ここに来てから人なんていないんじゃないかと思うくらい静かな街が食事に向かう嬉しさからなのか話し声が聞こえてくる。


『今日の配給すごいうまそうな匂いするな』


『エリザベス様がここにいらしたからか?』


『この街を変えるっていってたけど、どうするんだろうな』


『無理だ、ここにはやる気ない人間しかいないんだからな』

一度心が折れた人間が一からやり直すためにどれだけの時間がかかるのかは心の折れたことのある人間にしかわからない。私がこの人たちの太陽となり、導いていかなければならないのである。


『この匂いが?』


『食べたことないからわかんない。』


『初めて食べる。』


『見えるか?』


『煮込みハンバーグ』


『マジで!!あのおばさんスゲー!』

前の方でさっきの3人組が騒いでいた。



『おっおばさん!…』

ここに来る前は社会人でおばさんなのかもしれない、それでも25歳であるが。16歳の綺麗な容姿の貴族令嬢のはひどいんじゃないかと考えながら、今の恰好をみて仕方ないと我に返った。


『ランカ達ったら。』

アンは手を口に当てて笑いを堪えている。

私の番になり、使い古された木の器とスプーンをもらう。煮込みハンバーグをよそってくれているのはロバートだった。インベントリの能力でロバートのポケットにこっそり明後日の配給のお金と布に書いた次のメニューが入るか試してみる。相手の持っているポケットやカバンなどの容量がわかれば譲渡出来るかもしれないと思ったからだ。ダメ元でなんでもやってみる。後でインベントリを確認してみよう。


『…はい』

他の騎士たちは私に気づいてない様子だが、ロバートだけは私だとわかっているようだった。

こんな汚くなった服や頭、体をみて憐れんで見ているようだった。

今度、手紙でも書こうかな。


『美味い!』


『なんだこれは!』


『こんな美味いものをくださるなんて!』


『エリザベス様が来ていただいたおかげだ。』

食べている人の中から喜びの声が溢れていた、中にはなにも言わず黙々と食べるだけの人もいたが、美味しい食べ物はみんなを笑顔にする力がある。


アンは初めて食べる料理にまるで宝石を見るように目をキラキラさせながらみている。


『おあがりよ!』


『うん!!』

一口食べてからアンの顔がにっこり笑って、そのまま無心で食べ続けていた。

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