第4話 聖女との出会い
第4話 聖女との出会い
ロバートは下着姿のエリザベスにお説教をしようとしていたが、時間がないこと・当面の資金が必要なのだという事を伝えるとおつかいを了承してくれた。恐らく、私が逃亡するものだと思っているのかもしれない。それは私にとって好都合である。逃亡したと思わせることが出来れば当面の作業も支障なく行えるかもしれない。ロバートに脱いだドレスやアクセサリー、靴などを渡し売ってもらったお金で買い物を頼む。
ロバートがおつかいに向かう前に駐在所の布団をグルグル巻きにさせられ、チェーンや鍵までかけられ、他の騎士たちには何やら忠告していた。
まるでロールキャベツのような塊が駐在所でブツブツと独り言を呟くという異様な光景に周りの騎士たちはドン引きしていた。
まず、これからエリザベスの活動する拠点を探すこと、刺客が来たときに逃げれる隠れ家を探すこと、協力者を募ること。
あいさつ回りのおかげで人がいない家は確認済みである。一旦そこを拠点にして、協力者を募ることにしよう。
『………あれ、布団に黒いしみ……』
布団に巻かれ暖かい状況がとても心地よく、何か狙ってくる刺客がいても騎士の方々がいる状況のほんの少しの安心感からか涙がこぼれてきた。布団には化粧のシミが所々付いてしまった。
早く帰りたい。転生なんていらないんだよ。
物語は読む分・見る分には楽しいのであって、実際に主人公なり、悪役だったりとなった所でとてつもなく大変な苦労、困難にぶち当たる。
私はクラスの隅に静かに読書をするような、図書委員に抜擢されるような物静かな女の子だ。
会社でいるかいないかも忘れられる事務員だ。
そんな人間が急に物語に入り、ヒーロー・ヒロインぶるなんて難しい話なのだ。今になってやっと副作用が出てきた気分である。
これが現実に起こるということは強靭なメンタルで立ち向かっていかなければならないのだ。
――アホになれ!バカになれ!能天気になれ!世の漫画の主人公達のようにすがすがしく、凛々しく、逞しく!
呪文のように何度も唱える。泣きながら。
そして、歌うことにした。大きな声で高らかとエリザベスリサイタルを。
『なんの騒ぎかと思ったら、エリザベスの歌!?布団に包ませておかしくなっちまったか?』
ロバートが帰ってきて、ロールキャベツの封印が解かれた。
『うわっ!!どうしたんだよ!!あいつら、まさか……』
泣いて化粧がグチャグチャになったエリザベスの顔を見てロバートは驚いていた、どうやら残っていた騎士たちに襲われたと勘違いしたらしい。事情を説明して、ロバートだけには今後の進行について話すことにした。
『これから、騎士側にもスラム街の人間側にも私を殺そうとする刺客がやってくるわ、なので私は逃げるんじゃなくてこのスラム街で身を隠す事にする。私もスラム街の人間になりきるの、もしこれからロバートが私に気付いたとしても知らないふりをしてほしい。』
『……国外に逃げるんじゃないのか?』
『私は戦うわ!!ロバート応援しててね!』
『……わかった。』
そこから駐在所の二階でロバートの買ってきてもらったもの、余ったお金などをインベントリにいれ、着替えをし、建物の裏の窓から飛び降りて空き家に向かった。
空き家に着き、所持品の点検をすることにした。ロバートに買ってきてもらったものはスラム街の人と同じような衣服、数日分の食糧、護身用のナイフ、魔石、衣服は新品過ぎるので空き家の暖炉のススを使って汚す、そして、自身の髪や体にも塗りたくった。鏡もないので出来栄えを確認できないのが残念である。ほぼ、ホームレス状態に近い装いになったのではないかと思う。
『あなたは誰?』
入ってくる足音が全く聞こえなかった。振り返ると小学生ぐらいの女の子が立っていた。
『………』
一旦ここはあえて無口でいく。ただ、今後の情報が必要なので、
目の前にいるこの子にスラムの内部事情を色々聞けるいいチャンスだ。慎重にいこう。
『私はアン』
ベットの方へ女の子が歩いていくとそこには腐敗した死体があった。その死体へ祈りを捧げている。
窓からの光がより一層光輝き、腐敗していた死体が浄化され骨だけになっていた。
『あれ、いつもはこんなことはないのに』
死体の手には神アテネ様のペンダントがあった。その裏には”E”のイニシャルが書かれてある。
『……ありがとう。』
と小さな声で囁き、光が消えていくまで見送りながら祈りを捧げた。
心なしかどこにいるかわからないが本物のエリザベスが微笑んでいる気がした。
『………スベアです!!好みのタイプはジョニー・デップ よろしくおなしゃす!!』
これがこの世界での私の汚点であり、敗因になるかもしれない。