第20話 人類皆姉弟
第20話 人類皆姉弟
森へ帰ると夜遅くなのにも関わらず、みんなが起きて待っててくれた。
『ただいまー!』
『お姉ちゃん…ぉかえりなさぃ……ふわぁ~…』
目をこすりながらあくびをするアンもまた可愛い。
『……あの子、アンリの事あいつって……』
小学生には眠い時間にも関わらず、いつも陽気なキリトが暗い顔つきで先ほどの少年について考えているようだった。たしかにあの子を見ただけで私も妙な胸騒ぎを覚えた。近づいてはいけないと。
『ご無事で何よりです、エリザベス様。少しよろしいですかな』
皆は私たちの無事を確認して家の中へ入って行ったが、私とアンとスラジイは焚火の炎の前で少し話すことにした。
『アンリは…そのコルトという少年を自分の弟と重ね合わせているのかもしれませんなー…』
『弟?』
スラジイはアンリの弟について話してくれた。アンリと弟のオルトは幼い頃は男爵家の家柄で十流貴族達の嫌がらせで家が没落し、二人はスラム街に行きついたそうだ。幼いアンリとオルトはスラム街での生活を戸惑いながら過ごし、二人で支えあいながら暮らしていたが弟のオルトは病を患ってしまった。アンリは城下の色んな人に助けを求めたが助けてくれる人はひとりも居なかった。スラム街の人間というだけでお金があったとしても治療はもちろん、薬すらもらうことが出来ないのだ。そして、オルトは亡くなってしまった。
『アンリは自分を責めているのです。無力な自分を…
スラム街が復興することをアンリは望んでいるのです。オルトの二の舞にならないようにと。』
『そうだったのね…』
アンは序盤で限界が来て、私の肩で眠ってしまっていた。アンの髪をなでながら先ほどの少年の事を考える。彼の名前はコルトという名前だった。アンリは自分の弟オルトと少年を重ね合わせているのだろう。あの少年は間違いなくキャサリン妃のスパイだろう。アンリにとってのどのような展開が幸せなのだろうか。
月を見上げると今日は満月だった。
ーーーーー王城にてーーーーー
ヒュー―――――――………バンバン!!!
『あっちはスラム街の方………花火……』
メアリーは窓から外を眺めていた。
『ん、うん……メアリー起きていたのか?』
『ヘンリー様、あれ。』
ヘンリーはベットから起き上がり、窓からメアリーの指の刺す方に目を向けると空には花のように光り輝く炎が空を彩っていた。
『あの炎……まさか、あの女生きているのか!』
メアリーを置き去りにしてヘンリーは急いで部屋を出た。
『あの女も……』
ーーーーーーーーーー
翌朝、キリトはいつも通りに戻っていた。ただ、少しだけ昨日の事を経て大人になったような気がする。
『よし、これでスラム街の呪いについては当面心配はないでしょう。これからはスラム街の資金作りについて進めていこう!』
インベントリから出した所持品は護身用のナイフ、後は王城の謁見の廊下でちょろまかした展示品の壺と絵画数点のみ、所持金は買い物でほとんど使ってしまったし、魔石も私の魔力だけを急いで込めていたので昨日の花火ですべて弾けて割れてしまった。
『売る商品を作りたくても魔石がないと無理じゃないのかい?』
ドレークさんの意見はもっともだ。王城の骨董品を売ったとて、盗んだものなので足が付きそうで怖い。
魔石を買うお金がないのだ。
『なら、魔物を倒せばいいんじゃない?』
全員で頭を悩ましているとシンに巻きついているヒトラが話し出した。
『この子の浄化の力でこの辺りは魔物がいないだけでもう少し奥に行けば、何匹かいるわよ。まっ私よりは全然弱っちい奴よ。』
『本当!!その案のっ…』
『エリザベス様!!その魔物のこと本当に信用して良いのですか?』
私が言いきる前に話を遮り、男の人が話した。ただ、この男性の事をどうしても思い出せない。というか、ここにいる何名かの人たちと会ったり、話したりした記憶がないのだ。
『なぁ~に!この男!感じ悪い!私が聖なる存在ってきづかないわけ?シン、やっつけていい!?』
シンがヒトラをなだめてくれていた。
記憶にない相手から声を掛けられた時の対処法
①時間を稼ぐ
②名前を呼ばない会話をするようにする
③名前を呼ぶとき、社長・先生・先輩・お兄さん・お姉さん・兄貴・姉貴
ただ、ここは異世界なので③は殆ど使えない。
『おまえら 任せときな』
体からオーラのように炎を出しながら誰かわからない人たちを思い出そうと必死でテンパりながら平然を装っていた。




