第19話 夜空に舞う炎
第19話 夜空に舞う炎
スラジイは私がスラム街に来てからの事を事細かく説明してくれた。
スラム街からシェードの森まで50名ほど移動してこちらにやって来た事、森の湖でヒュドラと対峙し仲間になったこと、呪いにかかっていたエドが浄化の力によって救う事が出来た事、スラム街の方にアンリさんという仲間を残して通信スキルを使って毎日スラム街の状況を報告してくれていること、そしてそのアンリを含め残っているスラム街の住人達が徐々に呪いにかけられ始めていること。どれもエリザベスさんの記憶を開けた時に見た記憶と一致していた。
『わしのスキルもすべてを見通す事は出来ないのです。力及ばず申し訳ない。』
『スラジイが謝ることなんてないよ!悪いのは王妃のスパイ達だし、本当私のせいで巻き込んで……ごめんなさい。』
『一つだけ見えたことがあります。今のまま進んでしまうのはエリザベス様のお命にかかわります。作戦を進めるのなら更に念入りにお考え下され。』
私の考えている作戦はスラム街の皆が口にするものの中に魔石の力を入れ、呪いを解呪するという方法だ。ただ、配給は2日に1回なのでさすがに1日で死んでしまうような呪いだった場合、鍋だけでは意味がないので井戸の中にも魔石を投げ込むというものだ。
この内容だけでは私が死んでしまうということらしい。
『インベントリ オープン』
残っている魔石を取り出し、魔石全てに私の魔力を込めていく。
『お姉ちゃん、こんなにいっぱいどうするの?』
『一つだけ見せてあげるね!』
とっておきの作戦を見せてあげると皆は初めて見るそれに魅了されていた。
メンバーはエリザベス、キリト、ロト、ジョン。
作戦は井戸の隠蔽工作をすませ、魔石を入れる。吸音で騎士団のメンバーが来ている逆側へ逃げる、その隙に鍋を駐在所に置く、ロトさんのところにみんなが集まり移動で帰るという計画だ。
ロトさんが帰ってくる前に残りのメンバーで準備を済ませる。
【聞こえるかい?団長が交代していなくなった。スラムの街の皆はエリザベスの事を知らないかと尋問されて、知らないと正直に答えても暴力を振るわれた。今日はこれですんだが……次はどうなるかわからない。出来るだけ早めに頼むよ……ん?独り言話してた!うん行こ。】
アンリさん定期連絡が入り、早速出陣の合図がきた。最後に会話していたのは誰だろう。少し寒気がした。
『ただいまー』
『おっ!噂をすればなんとやら!ちょっと頼みがあるの!』
『へ?』
ロトさんへ重要な任務を託し、4人はスラム街に向った。
ロトさんは身を隠せそうなスラム街の草むらの場所に移動した。
今は深夜なので駐在所の明かり以外は月明かりの光で街の様子が見えるぐらいで視界は悪い。数日離れただけだというのにスラム街はゴミ捨て場のような匂いが充満していた。城下町の方と比べ道には雑草が生えていたり、苔やカビが生えそうな家が建っているような場所だ、今まで悪臭がしないのが不思議なくらいだった。恐らく、アンの浄化の力で匂いも抑えられていたのだろう。
『それでは作戦通りに!ロトさん、頼んだわよ!』
『えっ!!わ、わかりました。』
ジョンさんは井戸に魔石を入れ行き、私とキリトは駐在所に向かい借りた鍋を返しに向かう。
井戸に魔石を投げ入れると音がして誰かに気づかれてしまったり、魔石が壊れてしまったりしてしまうかもしれないので出来るだけ静かに入れてもらうようにお願いした。
ヒュー―――――――………バンバン!!!
始まった。ロトさんには駐在所の反対側で花火を鳴らしてもらった。
魔石に私の魔力で花火をイメージして力をこめておおよそ50発、ロバートに買ってもらった魔石はこれで在庫がなくなった。
『いやー、スッゲー綺麗!!!』
『見てる暇はないわよ、急いで向かいましょ!
さあ…始まりだ』
キリトの吸音のスキルは音や話し声を拾うことが出来るそうだ。森でもキリトの吸音のおかげで魔物を避けて湖までたどり着くことが出来た。さすがに湖の中で寝ていたヒトラには気づくことは出来なかったがスキルレベルが上がったことで聞こえる範囲が広がったそうだ。
『駐在所の建物の裏まで来れたわね』
『花火の音で結構な人数が起きてきている。駐在所には誰もいない。』
いつもはおちゃらけているキリトも重要な任務にとても緊張しているようで顔をこわばらせていた。
今がチャンスだ。2人は急いで鍋を駐在所に入れ、任務は完了。後はロトさんの所までもどるだけだ。
『あれは……私の手紙?』
駐在所のテーブルの上にはロールキャベツおばけでエリザベスリサイタルを開くまえにロバートに頼んでお使いの品を書いた紙だった。私の事をとても心配してくれているのだと思うと涙が零れそうになった。
『待って、誰か来る!』
『えっ!』
急いで誰もいない2階に向かい、2人で窓から外をのぞき込む。
『あの火はおとりかな?お目当ては反対の駐在所かなー♪』
背はランカ達と同じくらいで服はスラム街の人達のようにボロボロ。髪は黒髪に紫のメッシュがかかった少年が駐在所の前で立っていた。私はなぜか急に手が震え、冷や汗が流れ、鳥肌が立ち始める。
『姉ちゃん?』
キリトが私の顔色を見て心配してくれているが、それに答えることは出来なかった。
『1階には誰もいないなぁー…ぅぅん』
少年が何かを探している間も花火は間隔をあけてなっていた。時には近くで時には遠くでその度に歓声が聞こえてくる。
『キリト、1階にいる子が2階に上がってきたら窓から逃げよう。』
『ぅ、うん。』
キリトに確認しなくても花火の音の合間にゆっくりと歩く音がする。そして、その音は近づいてきて階段の方から聞こえてきた。ミシっ…ミシっ……ミシっ………
『コルト―!コルトー!』
遠くから女の人の声が聞こえた。
『チッまたあいつか……』
階段から降りていき、駐在所の外へ少年は出ていった。
『アンリお姉ちゃん、どうしたの?』
『コルト、どこ行ってたの?空に綺麗な火の玉がお花みたいでとっても綺麗なのよ!見に行こ!』
『うん!』
二人は手をつなぎ、中央の井戸の広場の方に向かった。
私とキリトは無意識のうちに止めていた息をやっと吐きだし、急いでロトさんの花火の音の方に向かった。
ロトさんの役割は駐在所の騎士たちに捕まることなく花火を間隔をあけて打ち上げてもらうものだった。
2回目の花火が上がった時点でジョンさんとロトさんが合流した合図で後は騎士達が来る音がする度、移動を繰り返し、30秒間隔で花火を打ち上げるというものだった。
『キリト、さっきの少年の方向と騎士たちは避けてロトさんの所へ案内して!』
『わかってる!音が多すぎて、頭の中がグチャグチャだ!』
花火は静かな夜に皆の心を魅了していた。そして、スラム街に打ちあがった花火は他の城下街や王城の人の目にも映り、翌日以降のフラン王国の話題の中心となることになる。
『あそこ!』
キリトが指を刺した先に花火を打ち上げる直前のロトさんとジョンさんがいた。
『エリザベス様!これでちょうど最後です!』
『ありがとう!最後は盛大に行きましょう!!』
最後の魔石に私がさらに魔力を込め、打ち上げる。
ヒュー―――――――………バンバン!!!
花火は赤・青・黄色・緑・白と先ほどまで単色の花火とは違い色鮮やかにそして大きく綺麗に夜の空に咲き誇りそして消えていった。
『さあ、帰るわよ!』
『了解しました。』
4人は遠くから歓声が聞こえるスラム街から去って行った。
最後に花火を放った場所まで走ってきたロバートはその場所で”はあはあ”と息を上げながら空を見るように仰向けで寝転ぶ。
『エリザベス……』
消えかかる花火を眺めながら届かぬ手を空に向けていた。




