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3.シューデン王国王子目線

「取り逃した、だと!?」


 自国を守ろうと、周囲五カ国語を操り、恐るべき外交手腕を発揮する者が、女性で、尚且つ王子の婚約者という身分だと知った時から、私にとってミリュー王国は侵略しがいのある土地ではなくなった。



「シューデン王国には、我が国から最優先で水を輸出いたします。料金は、我が国を属国とするよりも割安で周辺諸国との軋轢も生まれません。なお、周辺諸国に同様の交渉を行なっており、了承を得ています」


 そんな衝撃的な文面から始まる手紙を受け取り、手を回していた作戦を慌てて引っ込めたのは記憶に新しい。彼女は、ミリュー王国を破滅させようとしている我が国の行動に確実に気づいていたのだろう。

 実際、それ以降の交渉で彼女が上げる提案はすべて魅力的なものだった。


 彼女が、ほしい。


 そう思い始めたのは、いつ頃からだったか。きっと、周辺五カ国を交えた国交の親交を祝うパーティーの場だ。



 美しく、凛としている……しかし、可憐で愛らしく、手折ってしまいたくなる花のような彼女。


 隣にいる王子の暗殺計画を考えたことは、何度もある。彼女を手に入れられるのなら、と彼女の望まない戦争を仕掛けようと父上に嘆願したこともある。


 きっと周辺諸国も彼女の魅力と手腕にやられてしまったのだろう。


 先代の頃から計画をあたためていたはずのボレアース王国だって、手を引いた。


 そんな彼女から手紙が来なくなり、彼女が王子の婚約者でなくなったと知った。チャンスだ。そう思い、ミリュー王国侵攻を父上に奏上すると、父上も“彼女がいないのならば”と同意してくれた。


 そうして、我が国は隣国ミリュー王国の一部を手に入れたのだった。しかし、そこに彼女はいなかった。独立した領地として、自領の守りを強化し、フェイジョア女公爵として、配偶者と共に並び立っていたのだった。



「ツリアーヌ・フェイジョア公爵」


「まぁ、ごきげんよう? シューデン王国第一王子ミカルド様」


 私の彼女を渇望する視線に気付いたのであろう。横に男が現れた。


「あら、あなた。ちょうどよかったわ。ミカルド様、ご紹介いたします。わたくしの夫、ヤリアントですわ」


「ヤリアント・フェイジョアと申します」


 そうにこやかに挨拶するあいつは、表情なんて読めなかった。しかし、横にいる彼女を大切にしている様子は、態度にありありと現れていた。


「そうですわ! 我が公爵領をミリュー王国として独立させ、混乱に陥って難民となっているミリュー人を受け入れたいと考えておりまして。あと、」


 表情をパッと明るくした彼女は、私に政治交渉を始めた。彼女の願いならなんだって叶えてあげたい、私のそんな気持ちを感じ取っているのか無茶な難題を次々とふっかけてくる。


「……父上には、私からうまく頼んでおこう」


「ありがとうございます! ミカルド様!」


 満面の笑みで私の手を握る彼女と、嫉妬を浮かべた彼女の配偶者。そんな配偶者の姿に優越感を覚え、私は帰国した。父上に叱られることを覚悟の上で。


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