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よ ―サゲ、もういっちょ―

 「夢売り」、如何だったでしょ。

 話が長げぇ割に深みがない、展開が読めた……うーん、皆さん手厳しい。ですが、仰ることごもっとも。

 さてこっからは、も少し違うサゲをご用意しました。今度こそ皆さんのお気に召すといいんですが……。



 署内の一角。喫煙室で、鼻から勢いよく煙を噴出する刑事さんの姿がありました。そうです、佐藤の取り調べを担当している刑事さんの一人です。


(薬物使用形跡無し。アルコールも検出されず。このままだと、()()精神鑑定に持ち込まれちまう)


 あの後、佐藤に対する薬物検査が行われましたが、結果は一切の反応なし。売人との接触なども調査中ですが、恐らく証拠は出ないでしょう。実はこういった事件、何年かに一回全国で起きておりまして、刑事さん達はそのことをご存じって訳です。

 ある日突然仲の良かった知人を襲い、いざ捕まると「悪夢が」だのなんだのと呟くだけで、真面に話も出来ない犯人。刑事なんて仕事をしてりゃあ、そんな事件に出くわすこともあるってもんですが、そんな中にも時折、犯人が「ばく」とやらにえらく執心してる件が混じってる。事件が起きた時期も、現場も、犯人同士の交流も、共通していることは何一つないのにです。

 そんなもんですから、警察では、「ばく」ってのは検査キットに引っかからない新手の薬物の隠語だと考えてるんですな。この刑事さんもその一人です。

 今も組織犯罪対策第一課の刑事さんやら厚労省の麻薬取締部の職員さんやらが一所懸命調査しているのでしょうが、結果は捗々しくないようです。


「ったく、どいつも何やってんだか……」


 自分の事を棚に上げ、いらいらと煙草を揉み消す刑事さん。吸殻を灰皿に投げ入れ、喫煙室を後にします。厳しい表情で廊下を歩いてますと、


「あの、具合でも悪いんですか。眉間の皺が凄いことになってますよ」


 ふと顔を上げると、可愛らしい女性警察官が、心配そうに刑事さんの顔を覗き込んでます。


「や、山本さん! ……ごほん。だ、大丈夫だ」


 交通課の新人、山本さんに声を掛けられた刑事さんは、真っ赤な顔でぶんぶんと首を振ります。さっきまでの不機嫌はすぽーんとどっかに行っちまった様子です。

 実は刑事さん、一回りは年下の山本さんにぞっこんです。無理もありません。整った小さい顔、ぴちぴちのお肌、すらっと長い手足、仕事は真面目で誰にでも優しい、とくりゃあ、この刑事さんだけじゃなく、署内の男どもはみーんな山本さんに目をハートにしております。

 こちらの刑事さんは、以前に起きたちょっとした事件のお陰で、山本さんとはそれなりに話をする仲ではあります。とは言え、刑事課と交通課となれば交流が多い訳じゃあありませんから、このチャンスは逃せません。片頬に苦み走った笑みを浮かべ、


「ふっ、心配してくれてありがとう。最近、ちょっと疲れ気味でね」

「そうなんですか、大変ですね。お大事になさってください」

「ちょ、ちょー! あ、あの」


 爽やかに立ち去ろうとする山本さんを、慌てて引き留める刑事さん。引き留めたはいいですが、後が続きません。山本さんも怪訝そうです。こういう時はまず、当たり障りのない話題がよろしい。聞き込みのテクニックの応用です。


「その、山本さんはいつも元気そうだから、秘訣を教えて貰いたいなと思ってさ」

「ああ、そう言う事ですか。けど、特別なことは何もしてないです。強いて言えば、食事と睡眠に気を使ってる位で」

「あ……そうなの……」


 玉砕です。

 刑事さん、よっぽどがっかりして見えたんでしょう。山本さんは思いの外親身になってくれます。


「私、ペットを飼ってるので、それが癒しになってるのかも……けど、男性だとペットは難しいですかね」

「そりゃ確かに、俺には無理だね……」


 山本さんはアパート暮らしだって聞いてます。刑事さんのように男性独身寮暮らしだと、ペットを飼うなんて夢また夢でしょう。

 そんなことよりも。


「私が言うのもなんですけど、食事と睡眠はちゃんとした方がいいですよ。寝起きが全然違いますから」

「分かっちゃいるんだけど、中々ね。枕が合わないんだか、このところ、毎日夢見も悪いし」


 おや?

 ……なにやら、きな臭い。


「毎日それじゃあ辛いですね。夢見が悪いって、例えば?」

「内容は覚えてないけど、兎に角気味の悪い夢ばっかりなんだよ。良い枕でも買ってみようかな。んん、ごほん……その、山本さんさえよければ、今度の公休にでも枕選びに付き合ってくれないかなー、なーんて……はは……あの、聞いてる……?」


 おやおや?

 さて、皆さんは既にお気付きでしょう。どっかで聞いた事がある話に似ちゃあいませんか。

 何事か考え込み、刑事さんの誘いを華麗にスルーする山本さん。やがて、しょんぼりと肩を落とす刑事さんににっこりと微笑んで提案しました。



「……あの、もし良かったらなんですけど、私にその夢を売ってくれませんか?」

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