2.美味しい吸血コウモリをどうぞ
「ほへー・・・。」
犬耳の生えた謎の少女がうろちょろするのを無視して俺は早速、調理に取り掛かった。
まずはこのコウモリを捌くところからか・・・。
俺は腰に下げていた短剣を手に取ると、「ごめんな、俺の相棒!」と心の中で言った後、コウモリに刃を入れた。
この短剣、戦闘で使うには重すぎるが包丁として使うにはいい代物だ。
コウモリの羽が邪魔だったので先にコウモリの羽を切り落とす。
ちなみにまな板はというと、さっき大きな木片を見つけたのでそれを短剣—もとい、ナイフで綺麗に加工した。
ストンッとナイフがまな板に当たる音がして、意外にもあっさりと羽はまな板に落ちる。
骨が細いからか、この短剣の切れ味がいいのもあるだろうな。
そうして左右の羽を切り落としたら今度は胴体へ。
頭を切り落とし、腹の下の方からナイフを入れ、腹に一筋の切れ込みを入れる。
その切れ込みから手を突っ込み、内臓を全てかきとる。
この作業は魚で経験済みとは言え、コウモリだとやっぱり精神的にキツイな・・・。
綺麗に内臓をかきだせたら、綺麗な水につけて身をよく洗う。
身をよく洗ってもアンモニア臭は取れない・・・。コウモリ特有の匂いなのか?
肉の臭み消しといえば酒につけたり、スパイスを混ぜたり、・・・長ネギなんてのはこんなところにはないよな。
「!そうだ、薬草!」
「ん?」
そう言えば俺はゲームで薬草を集めるクエストの真っ最中だったじゃないか!
あの薬草を使えば・・・!
俺はまたインベントリを開き、持ち物の中から薬草をいくつか取り出した。
香りを嗅いでみるとスパイスのような刺激臭がする。
これならいけるかもしれない・・・!
あとはこれを鍋で煮て—・・・。
「鍋がないっっ!!」
「なべ?」
俺としたことが!
包丁やまな板はなんとかなったものの鍋がない!!器は木をくりぬけばなんとかなるかもしれないが鍋だけは・・・。
「なべってなんだ?」
頭を抱えて悩む俺の背中にぴょんっと飛びついて少女はあどけない顔で質問をした。
「あー・・・さっきの肉を美味しくするのに必要なんだ。硬くて、肉が入りそうで、火に強くて・・・。」
「それならあるぞ!」
「え。」
少女はそう言うと、最初に俺を襲ってきたルフの死骸に近づき、その上クチバシをもぎ取った。
「ほら!これならどうだ?」
笑顔で嬉しそうに笑う彼女の手はルフの血でどろどろだった・・・。
「これって・・・ルフのクチバシを鍋代わりにしろってことか!?」
なるほど確かに、ルフのクチバシは火程度では全く溶けないだろうし、この薄さなら熱は通すはず・・・。
形も、ルフの上クチバシはインコのように丸みを帯びつつ長く伸びていて、何かを入れる“器”としての機能も果たしそうではあるが・・・。
他に鍋になりそうなものを必死で考えてみるが何も思いつかない。
もうルフのクチバシを使うしかないのか・・・!?
俺は仕方なく少女から巨大でずっしりとしたルフの上クチバシを受け取ると、ゴクリと息を飲みながら裏返して余計な肉片や汚れなどを綺麗にしていった。
「・・・ふう。」
「ピカピカ!!」
腕で額の汗を拭う俺の後ろで少女は興奮気味に飛び跳ねた。
目の前にあるルフの上クチバシは努力の甲斐あって鍋に使えるくらいには綺麗になった。
深さもちょうどいいし、これならコウモリの肉を煮るくらいなら大丈夫だろう。
「さて、それじゃあお次は・・・。」
少しでも臭みが取れないかと綺麗な水に浸けておいたコウモリの肉を取る。
・・・やはり水に浸けたくらいじゃ匂いは取れないか。
まな板の上にコウモリの肉を置くと、短剣で一口大に切っていく。
クチバシに水を入れ、それを火にかける。
即席コンロは、大きめの石を使いクチバシが地面から浮くように設置し、中には枯芝、ついでに落ちていた松ぼっくりも入れて、あとは俺のもともと持っていた短剣の能力—剣に炎を纏わせる能力を使い、火をつけた。
水が沸騰してきたら、先ほどのコウモリの肉を薬草と共に煮込んでいく。
薬草はかなりパンチの効いた胡椒のような香りをしていて、これなら肉の匂いもなんとかなりそうだと思った。
「肉と薬草だけじゃな・・・。他にも何か入れたいな。」
俺は自身のインベントリを開き、再度何か使えそうなものはないか確認する。
・・・相変わらずごちゃごちゃで何がどこにあるかわかりずらい。
これはいずれなんとかしないとな・・・。
「おっ、これは使えそうだ!」
インベントリを眺めていると、手持ちに味噌があることに気付いた。
覚えてないがこれも以前何かのクエストの報酬で手に入れたものだろう。
他にも何かないかと探していると、自覚はなかったがどうやら俺の手持ちには割と食料が豊富だったようだ。
乾燥したパン、魚、野草などなど、調味料に至っては塩と砂糖も揃っていた。
・・・このゲームは俺に料理をさせたがっているのか?
ふと横を見ると、少女が盛大によだれを垂らしながらこちらを見ているのに気付き、俺は慌てて料理に戻った。
とりあえず味噌が見つかったので、クチバシ鍋に味噌を適量入れ、そのまま煮立たせる。
「・・・よし。完成だ!」
吸血コウモリと薬草の味噌汁。
温かな湯気からはあのコウモリの臭みもなくなっていて、味噌の香りと胡椒のようなスパイシーな香りが漂っていた。
薬草からだろうか。微かにハーブのような香りもしてとても美味そうだ。
俺が木をくり抜いて作った椀に味噌汁を注ぐと、少女は俺の腕にしがみついてぴょんぴょんと跳ねた。
「おい!そんなに跳ねると注げないだろ!」
「もういいだろ!クレ!!」
そう言うと少女は俺から強引に味噌汁を奪い取った。
「熱いから気を付けろよ!」
俺の注意も聞こえてるのか聞こえてないのか、少女は味噌汁を眺めながら目をキラキラさせていた。
そして口を付ける。
「・・・・・・・!!」
「・・・ど、どうだ?」
少女は俺の問いには答えず、ただただ味噌汁にがっつく。
う、美味いってことでいいのか?
俺もおずおずと味噌汁を口にしてみる。
「う・・・美味い!」
これは美味いぞ!きちんと味噌の味が効いていて、且つ薬草が胡椒と薬味、両方の役割を果たしていて、それが非常にマッチしている。
「はぐはぐ・・・。」
「おっと悪い。肉はこれを使って食べてくれ。」
椀に口を付けて肉を食べにくそうにしている少女に竹串—ならぬ、ただ短剣で鋭くしただけの棒を渡した。
・・・そのうちスプーンとかも見つけないとな。
少女は俺から串を受け取るとコウモリの肉にさしてぱくっと口に放り込んだ。
「~~~~~~~~!!!!」
相変わらず無言で感想は聞けそうにないので俺も少女に続いて肉を食ってみた。
「これ・・・鶏肉だ!」
コウモリなんて食べたことがないから想像がつかなかったが、触感と味は完全に鶏肉のそれだ。
しかもその肉と一緒に煮た薬草のスパイスのおかげでまるで胡椒をかけたような味わいが口に広がる。
肉もパサついていないし、どちらかというとしっとりとしていて、まるで鳥ハムのようだ・・・!
少女を見ると、尾をパタパタと地面に叩きつけながら一心不乱に味噌汁を飲んでいる。
どうやら気に入ったみたいだな。
そうして俺たちは巨大なクチバシ鍋いっぱいに作った味噌汁を一気に平らげた。
「ふぅ・・・。ご馳走様でした。」
美味かった・・・。夢とは思えないほどリアルな味だった・・・。
最近は仕事も忙しくて自炊もあまり出来ていなかったから忘れていた感覚。自分のとはいえ手作りの飯はやっぱり美味い。
俺が満腹の腹をさすりながら浸っていると、。ふいに少女の視線に気が付いた。
「・・・どうした?」
「ごちそうさま、ってなんだ?」
「ああ、ご馳走様っていうのは・・・、まぁ美味いもんを食った後に言う言葉みたいなもんだ。」
そう言うと少女は「なるほど!」と犬耳をピンと立たせると、
「ごちそうさまでした、ごちそうさまでした!」
と何回も言った。
「はは、言うのは一回だけでいいんだよ。」
「ソウか!じゃあ次からはそうする!」
そう言って笑顔で尻尾を振った。
その笑顔に少し顔が熱くなったのはおそらく気のせいだろう。
・・・そう言えばコウモリの調理に必死で後回しになっていたがこの子は一体・・・?
歳は俺より明らかに下・・・。10代後半か、20歳くらいか?
む、胸はなかなかだな・・・。
・・・ん?っていうか今「次は」って言ったか?
「き、君は一体何者なんだ・・・?」
「レオはレオだ!ここで生まれて今まで育ってきた。でもこんなにソソルモノは今まで食ったことがない!」
「うわっ!!」
そういうと、少女—レオは俺に飛び掛かり、頬をペロリと舐めてきた。
「お、おい!何して・・・!」
「オマエ、これからもレオにソソルモノくれ。そうすればオマエ狙うもの達から守ってやる。」
そ、ソソルモノって美味いものってことでいいんだよな!?
「で、でもここは俺の夢で・・・」
「でないとオマエ、今ここで食う!」
レオの目がギラリと光った。
「わ、わかりました!やらせていただきます!!」
「それでいい!」
そうしてまたぺろぺろと俺の頬をなめる。
・・・こ、この子にはこれから女性のマナーとかも教えていかないと・・・!!
—こうして、未来の俺の奥さんである少女レオとの旅は始まったのだった。
俺はこの時、まだ自分は疲れてただ夢を見ているだけなのだと信じていた。―




