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1.ようこそゼルベストの世界へ



真っ暗な闇が広がる。


ここは・・・どこだ・・・?ああ俺、帰りの電車で眠っちまったんだっけ。


じゃあこれは夢か。


すると真っ暗な空間に突然、まばゆい光が広がる。


うおっ、まぶし・・・。


光は暗闇を飲み込み、あっという間に俺の周りを白一色にしてしまった。


反射的に瞑った目をゆっくり開くと、俺の前には見慣れた入力画面が出現していた。


これは・・・ゼルベストのログイン画面か?


そう思った瞬間には既に入力画面には俺のパスワードが勝手に入力されていき、剣を持った主人公の男が「ゼルベストの世界へようこそ。」と腰に手を当て、隣で可愛いヒロインが「一緒に楽しみましょうね。」と微笑んだ。


夢の中でもゼルベストか・・・。知らないうちにかなりハマってたんだな。


そんなことを考えながら、俺の視界はまた徐々に暗くなっていった。




「ん・・・んん?」


次に視界が明るくなった時、俺は神秘的な雰囲気の森の中に一人、立っていた。


空気は少し涼しく、それでいてとても澄んでいて心地良い。

こんな場所に来たのは何年ぶりだろうか。

最近は会社と家との往復ばかりで、休日も寝て過ごすことが多かったからこんな空気を吸ったのは初めてのようにすら感じる。


・・・といってもこれは夢の中なんだったな。


それにしてもリアルな夢だ。下を向けば自分の足と両の手が視界に入る。


着ている服も、持っている装備もまんま俺がプレイしていたゼルのゲームだ。


腰には俺の相棒の短剣までしっかり鎮座している。


俺の想像力はすごいな。ここまでリアルにあのゲームを再現できるなんて。


拳を握り、自分の想像力に感動していると、後方の空から獣の鳴く声が聞こえた。


「!!」


そのけたたましい声に驚いて振り返ると、上空には何体もの巨大な怪鳥がぐるぐると円を描くように飛びまわっていた。


—あれはまさか・・・ルフ!?


—ルフ。俺が元々やっていたゼルのゲームの実装されている中で最深部にあたる139階層にしか存在しない怪鳥。


純白の翼からは白い羽が雪のようにいくつも地上に降り注ぎ、獲物を逃がさんとするように鋭く尖ったクチバシは太陽の光に照らされて輝きを放っていた。

「ルフがここにるってことは、ここは139階層なのか・・・。」


ルフは相変わらず群れを成して俺の上空を飛び回っている。

これは想像するまでもなく、俺を狙ってきている。


しかし俺が実際にやっていたゲームのアバターと全く同じ装備で、全く同じ階層にいるということはレベルも同じはず。


ならばルフなど恐れるに足らん!


俺は腰に下げていた己の相棒—短剣に手を触れ、臨戦態勢になった。


こちらの殺気を感じ取ったのか、途端にルフは俺を目掛けてその鋭いクチバシごと突っ込んできた。


「はっっ!」


タイミングを合わせて攻撃を避ける。

—が、しかし体に違和感を感じた。


いや、違和感を感じたというよりも、“違和感が何もなかったこと”に違和感を覚えた。


いつも通勤でしかろくに動かしていない現実の身体。感覚はそれとまるで同じだったのだ。


「夢・・・だからか?」


身体は重く、思うように動かない。

ならばと思い短剣を手にすると、あまりの重さに愕然とした。


装備も場所もゲームと同じなのに俺自身の能力が現実世界と全く変わっていない・・・!

こんな悪夢あってたまるか!


地面に激突したルフの一体は、既にその巨体を起こし、こちらに近づいてきていた。

残りのルフもどんどんこちらに向かって来ている。


「ひ、ひい・・・!」

ずしんずしんと地面が揺れるような音を立てながら、ルフは完全に尻もちをついてビビりまくっている俺をロックオンした模様。


目と鼻の先まで近づいてくると、ルフはけたたましい声で泣き叫んだ。


開いた口からは唾液が飛び散り、大きな舌が顔をのぞかせる。


こんなの、ゲームではなかった演出だ・・・!


恐怖に支配され、耳を塞ぎながら「もうだめだ!」と強く目を瞑る。


—真っ暗闇。


俺はあのルフ達に食われたのだろうか?

でもこれは夢。


死んだら起きるだけ。

そうしたらまた会社に通うなんてことない日々が始まるんだ。


—ああ、まだ目覚めたくないな・・・。


「ギャァァァァァ!!」


「!?」


ルフの凄まじい叫び声に俺はただ目を瞑っていただけだったということに気づかされる。


目の前で舞い散る大量のルフの羽の先、倒れてぴくぴくと痙攣しているルフの上には一人の少女が—。


「あ・・・あ・・・。」


「・・・オマエ、ダイジョブか。」


背中まで伸びた長く美しい白銀の髪。頭の左右からは大きな犬の耳が垂れ下がり、同様に腰辺りからもふさふさな尾が生えていた。

服も髪もボロボロだが、その声は凛としていて美しい。


—この階層の魔獣か?しかしこんな魔獣は見たことがない・・・。新種?


目の前の出来事に必死に思考を巡らせていると、少女は犬のように四足でこちらに近づいてきた。


「うっ・・・!」


少女は俺に近づくと、無遠慮に俺の首筋に顔を近づけ、くんくんと鼻を動かす。

リアルでもこんな経験はないから自然と顔が熱くなるのも仕方ない。


少女はしばらく俺の匂いを嗅いでいると、急に目をキラキラと輝かせ、しっぽで地面を叩き出した。


「オマエ、イイ匂いがする!それくれ!!」


「うわっ、ちょ!!」


そう言って少女はいきなり俺に飛び掛かってきた。

鎧の中やら服の中やら、靴の中まで彼女にされるがままだ。

ぱ、パンツの中はやめてくれ・・・!


しばらく俺をもみくちゃにした後、少女は大きなたれ耳をさらに垂れ下げて、しゅんと俯いた。


「・・・オカシイ。匂いはするのに何もない・・・。レオの鼻、間違った・・・?」


匂いはするのに何もない・・・?もしかして・・・。


俺はそれに心当たりがあった。


このゲーム、ゼルベストは画面左上に表示されているインベントリ欄をタップすることで自身の持ち物を確認することができた。


ここでも同じく俺のインベントリを開ければ何かわかるかもしれない。


何しろこの階層に来るまでに素材という素材はほぼ全て回収済みだからな。


「えーと、・・・。」


「・・・?何してる?」


インベントリ・・・インベントリ・・・!


俺の今見ている視界にはゲームの画面のようなメニュー欄もインベントリ欄もない。

何か手で合図でもすればいいのだろうか。

俺は必至に宙を指でなぞる。


しかしインベントリ欄は一向に姿を見せてはくれない。


どうしたらインベントリが開くんだ・・・!?


「い、インベントリ!・・・うわっ!」


どうしたらいいのかわからなくなって、最終的には叫んでみた。

すると急に目の前に“インベントリ”と書かれたホログラムのようなものが現れた。


「なるほど・・・。声に出せばよかったのか。」


俺はさっそく出現した自身の持ち物を確認する。


持ち物は色々なものでごった返していたが、その中でも特に肉食獣が好みそうで、且つ匂いの強いアイテムを探した。


「!これか!」


俺はインベントリの中でとある肉を見つけた。


—吸血コウモリの肉。


確かこれは少し前にここより上の階層で受けたクエスト『吸血コウモリの大量発生!』で捕まえたものの余りだ。


特に使い道もないのに、多くとりすぎたのを忘れて放置していた・・・。

インベントリの吸血コウモリを指で触れると、途端にドサッと音を立てて数匹の吸血コウモリが俺の膝の上に落ちた。


「くっっさ!!」


膝の上のコウモリの死骸からは腐った匂いはしないものの、強いアンモニア臭がしてとても嗅げたものではなかった。


「くんくん。」


少女はそのコウモリに鼻を近づけると「これだ!」としっぽと耳を跳ねさせた。ついでによだれも垂れている。


「それくれ!!」


「わっ!!待て待て!!」


コウモリに飛びついてきた彼女をなんとかコウモリから引き離す。


「なんでだ!!助けてやったのだからそれくらいいいだろう!!」


「いでっっ!!」


少女は俺の腕に思いっきり噛みついてきた。


いくら相手が魔獣だからって、こんな可愛らしい見た目の女の子にくっさいコウモリの死骸なんか渡せない!!


しかもおそらくこの子はこれにそのままかぶりつく気なんだろう・・・。


いくら夢であってもそんな絵面は俺が許せないっ・・・!


少女は依然として俺の腕に牙を立ててくる。


「渡せ!!」


「い、痛い痛い!!お、俺が!!もっと美味しくしてやっから!!」


「・・・美味しく?」


少女はやっと俺の腕から口を離した。


おもわず言ってしまった・・・。


リアルでは確かに料理も好きでするにはするが、それもこの世界でどこまで通用するか・・・。



—かくして、俺は人生で初めて吸血コウモリを調理することとなった。


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