デニスの来訪
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──デニスの来訪
アーデルハイドはまた馬車を壊滅させた。
今回は最大規模の傭兵団が護衛についていたにもかかわらず、傭兵は全滅し、馬車も全滅した。商人たちは皆殺しとなり、亡者たちの隊列が長くなる。エレオノーラの鎖に繋がれる亡者たちの数が増え続ける。
そこで影から唸り声がする。
「そうか。デニスが来るか」
度重なる損害を受けて、デニスがサルディス王国にやってくる。
デニスは殺す。デニスを殺し、ダリューゲ商会を破滅させる。
アーデルハイドはデニスを殺す計画を立て始める。
ダリューゲ商会に乗り込み、中にいる商人たちもろとも殺す。
それがいい。そうするべきだ。
ダリューゲ商会はバッセヴィッツ家に富をもたらす忌まわしき連中だ。死んで当然の連中だ。死ぬべき連中だ。殺さなければならない連中だ。
「そうだろう、母様?」
アーデルハイドは右目の眼帯を押し上げ、右目を開く。
母エレオノーラは何も言わず、アーデルハイドを抱きしめした。最近ではいつもこうだ。昔のように叫んだりしない。ただただ、アーデルハイドを抱きしめる。そして、待っている。復讐が成し遂げられるのを。
『アアアデエエ……』
「ああ。母様、これが地獄に続く道だろうと私は進み続けよう」
アーデルハイドは深夜の港でそう誓った。
一方、その頃デニスは船に乗ってサルディス王国を目指していた。
サルディス王国の問題を解決するためだ。
サルディス王国からの商品の輸入が滞っている。既に経営は赤字だ。それも彼自身も借りた金で商会を経営しているのだから、この赤字は取り立てられる。そうなれば商会の破滅であり、自身の破滅だ。
「全く、どういうことだ。このままでは……」
問題は王都の商品がサルディス王国の港湾都市に届かないということだった。どういうわけか積み荷は途中で山賊に襲われ、港湾都市まで届かないのだ。それもダリューゲ商会の商品だけが。他の商会の積み荷は届き、今も海を渡ってニーベルング帝国に送られている。ダリューゲ商会の積み荷だけ。それだけが届かない。
排外主義者の仕業かとも考えたが、他の外国の商会の馬車が襲われたという話は聞かない。相手はダリューゲ商会だけをピンポイントで襲撃している。
確かにダリューゲ商会はあくどい手段で富を築いてきた。高利貸しまがいのことをし、貧しい貴族や美術館、商人たちから貴重な、サルディス王国の国宝とでもいうべきものを巻き上げては、帝国に暮らすバッセヴィッツ家に収め、富を得ていた。
そして、バッセヴィッツ家から融資を受け、それを元手にまた金を貸す。
その繰り返しでのし上がってきた。同じような伯爵家から公爵家に格が上がったバッセヴィッツ家との相性はよく、ダリューゲ商会は大きな融資を何度も受けていた。
だが、今回の事態だ。
バッセヴィッツ家は苛立ちを露わにしている。特に当主であるフリードリヒの怒りは凄まじく、ダリューゲ商会が次の月までに商品を収めなければ、デニスを厳しく罰すると宣言していた。大手とは言え、一介の商人に過ぎないデニスにとって、公爵家の権力というものは恐ろしいものだ。
何としても商品を運ばなければという焦りがデニスの中にはあった。
船は海を越え、灯台の明かりに誘導されてサルディス王国の港湾都市に入港する。帰りはこの船の船倉を商品で一杯にして帰国しようとデニスは考えていた。
バッセヴィッツ家は大きな取引相手だ。失いたくはない。彼らも自分たちも富むことこそ素晴らしいことだ。デニスはそう思っていた。バッセヴィッツ家の機嫌を取るためならば、彼らの靴を舐めてもいいとすら思っていた。
「いらっしゃいませ、大旦那様」
「出迎えご苦労。だが、相変わらず上手くいっていないようだな。今回もまた積み荷は届かなかったと聞いているぞ。どういうことだ? 誰の責任だ?」
「そ、それは……。まずは商会の建物に。そこでお話しましょう」
「いいや。その前に責任を明らかにしろ。お前か? お前の仕業か?」
「い、いえ! 決して私では!」
「無能が! では、誰の責任か言ってみろ!」
「わ、分かりません! 分からないのです! 護衛はしっかりと付けました! 積み荷はちゃんとここに届くはずだったのです! それがどういうわけか……」
「能無しめ! 貴様のような人間がいるからこそ、私の商会が腐るのだ! 反省しろ! そこでな!」
デニスはそう言ってダリューゲ商会の商人を海に突き落とした。
商人は溺れながら助けを求め、船からロープが垂らされる。
「どいつもこいつもことの重要性を分かっていない。腐っている。無能で、愚かで、愚図ののろまだ。このまま商品が全く帝国に届かなければ私が罰されるのだぞ。この私が。たった一代でダリューゲ商会を大商会にした、この私が罰されるのだぞ!」
デニスはいらいらしながら、別の商人の案内でサルディス王国におけるダリューゲ商会の商館を目指す。馬車が迎えに来て、デニスを乗せると商館に向けて進んでいった。
アーデルハイドはその様子を見ていた。
「あいつもまたクズか。バッセヴィッツ家に関わるものたちにまともな人間はいない。奴らに与するものたちは皆死ぬべきだ」
アーデルハイドはそう言って一時宿に帰還しようとした。
「アーデ!」
そこでフェルディナントの声がする。
「ディーノ……。もう会わないはずだぞ」
「今日はお偉いさんが来るんだ。俺みたいな丁稚は商館の外にいろって。今から君と話せないかな。少しでいいんだ」
「無理だ」
アーデルハイドはにべもなくそう返す。
「……アーデは俺のことが嫌いなのかい?」
「そうではない! そうではないからこそ、傍にいてほしくない……。私とともにいるものは全員が不幸になる。私は呪われている。私は呪いのために行動している。そんな私と一緒に行動していたら、お前まで不幸になってしまう」
自分の呪いのことをベルゼブブ以外の存在に話したのは初めてのことだった。
「俺は君が呪われていようと気にしないよ」
「お前は呪いの力を侮っている! これは死に至る呪いだ! 多少の不幸ならば受けれてくれるものもいるだろう。だが、これは死に至る苦しみを帯びた呪いだ。いずれ、呪いは私の手にも負えなくなるなだろう。そうなったとき、誰も近くにいてほしくない。私は私ひとりでこの呪いに決着をつける」
バッセヴィッツ家の人間を皆殺しにして。
「……俺じゃ、役に立てないかい?」
「全く役に立たない。論外だ。害悪ですらある。今すぐに私の傍から立ち去れ。最後の警告だ。これ以上、近くにいるようならばそれこそ本当にお前を呪ってしまうぞ。これは脅しでも冗談でもない」
アーデルハイドは力強くそう警告した。
「残念だよ、アーデ」
「……私もだ、ディーノ」
そして、フェルディナントは立ち去っていった。
「お前のいる場所を私は奪おうとしている。それなのに慈悲など乞えようものだろうか。私は冷酷な復讐者であり続けなければならない。自らのために、バッセヴィッツ家とそれに与するものたち以外の人間のために」
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