追撃戦
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──追撃戦
帝都から逃げようとする貴族たち。
それを追撃するためにアーデルハイドたちが馬で駆け抜ける。
帝国貴族とはそれすなわちフリードリヒの権力を支えてきたものども。そのような連中にかける慈悲など持ち合わせていない。
馬車で帝都から逃げようとする貴族たちをアーデルハイドが強襲する。
右目の眼帯を上げて、右目を開き、その視線だけで貴族たちを死に至らしめる。馬車の中に籠り切っている貴族には“亡者喰らいの大剣”を突き立てる。
“亡者喰らいの大剣”から解き放たれた亡者が貴族たちを生きたまま貪る。
そうやって次から次に貴族の馬車が襲われ、帝国貴族が殺されて行く。
虐殺は何時間にも及んで続いたが、流石のアーデルハイドも何千という帝国貴族全てを殺し尽くすことはできなかった。一部の帝国貴族は逃げ去り、逃げた先の新帝都で皇帝ヴィルヘルムによる新政権樹立に貢献することになる。
「殺しきれませんでしたね」
「仕方ない。あれだけ必死こいて逃げられたら、こちらとしても取る手段はない」
アーデルハイドが右目の眼帯を下ろし、右目を閉じてそういうのに、ベルゼブブが肩をすくめてそう言った。
「だが、奴らも恐怖を覚えたはずだぞ。お前を相手に戦争をしようという奴らもこれで少しは慎重になるだろう」
ベルゼブブの言ったように帝国貴族は今回のことに恐怖を覚えた。
貴族たちはアーデルハイドがフリードリヒの身内である可能性があるという情報を手に入れると、フリードリヒの執務室に押しかけた。
「どういうことなのです、バッセヴィッツ公爵閣下! 聞けば街道で我々帝国貴族たちを殺しまわったのはあなたの娘だという情報を手に入れていますよ!」
煩わしい奴めとフリードリヒは内心で罵る。
「私の娘はアマーリエとゾフィーだけだ。ひとりは呪い子で追放した。その時に野垂れ死んだだろう。我々が話し合うべきはそのようなことではなく、もっと必要なことだと思うが? この新帝都にて我々はヴィルヘルム陛下にお仕えする新政権を樹立しなければならないのだ」
「あなたの娘がそれを妨害したのだろう! 野垂れ死んでなどいない! 生きていて、我々を攻撃してきた! それが事実だ! どう責任を取られるおつもりか!」
「責任など! くだらない。私の娘は繰り返すがアマーリエとゾフィーだけだ。これ以上くだらないことで騒ぐならば……帝国親衛騎士団!」
黒い甲冑の帝国親衛騎士団が入ってきてフリードリヒに被害を訴えに来た貴族たちを取り囲む。取り囲まれた貴族たちは困惑し、周囲を見渡す。
「残らず牢に放り込め」
「畏まりました、閣下」
帝国親衛騎士団は再建された。かつてほどの規模はないが、フリードリヒに忠実な戦力として再建されたのだ。
「なんたる横暴か! 貴公、皇帝にでもなったつもりか!」
「私は皇帝陛下から実務の補佐を任されている。私の職務は皇帝陛下の職務。それを邪魔するお前たちは大逆人だ」
「ふざけるな! このような横暴を!」
「黙れ。連れていけ」
帝国親衛騎士団の騎士たちに貴族たちは連れていかれた。
「お、お父様……?」
「どうした、アマーリエ。ヴィルヘルム陛下の傍にいなければだめではないか」
「し、しかし、今回の急な遷都の影響で多くの貴族が犠牲になったと……。それもあのアーデが、呪い子が殺したという噂が」
次にフリードリヒの執務室にやってきたのは、他でもないアマーリエだった。
「お前が気にする問題ではない」
「本当にアーデが生きていますの? あの子は野垂れ死んだと……」
「お前はヴィルヘルム陛下の傍にいて、陛下のお心の疲れを癒して差し上げなさい」
「で、ですが……」
「くどいぞ、アマーリエ」
「は、はい!」
アマーリエは飛ぶようにして逃げていった。
「私は公爵家という立場を手にし、娘を皇后にし、絶対的な権力を手に入れたはずだ。なのに、なのになぜ私に歯向かうものたちが増えていくのだ。どうしてだ! どうしてだ! どうして、どいつこいつも私に歯向かう!」
フリードリヒが怒りを爆発させる。
「ふわあ。それはあなたが無能だからでは?」
「ベ、ベルフェゴール様……!」
「無能は困りますよ、無能は。そろそろ払ってもらいたいですね、対価。あなたの無能のせいでそれが滞っているとすれば、取り立てにはちょっと荒っぽい手段を使わざるを得ませんよ?」
フリードリヒは自分の影の中で何かが蠢いているのを感じ悲鳴を上げそうになった。
「い、生贄はお捧げします! 大逆罪で捕えた貴族たちを生贄に!」
「ふわあ。ダメです。それでは満足できません。ちゃんとあなたの娘を生贄に捧げてもらわなければ、ベルちゃんは困りますよ」
ベルフェゴールが大きく欠伸をしてそういう。
「しかし、まあ、契約履行期間の延長程度にはしてあげていいでしょう。せいぜい残酷な方法で生贄を捧げてください。楽しみにしていますよ。それでは、さようなら、哀れな人間さん」
ベルフェゴールはそう言って暗闇の中に消えていった。
「い、生贄を捧げなければ……! 生贄を! 生贄を!」
フリードリヒが狂ったように叫ぶ。
「帝国親衛騎士団!」
「はい、閣下!」
「拘束した貴族たちを処刑せよ。生きたまま焼くのだ。いいな? 火あぶりにせよ」
「裁判はまだですが」
「裁判など必要ない! あいつらは大逆人だ! 大逆人に裁判など不要!」
「畏まりました、閣下」
それから貴族たち十数名がひとりずつ火あぶりにされる。
彼らはフリードリヒに呪詛の言葉を吐きながら、ひとりひとり火であぶられ、熱に焼かれ、苦しみ悶えながら死んでいく。
だが、これは契約の対価にはならない。
対価を支払うまでの期間を延長するだけのものでしかない。
しかし、フリードリヒはもはや分からなかった。
どうすればアーデルハイドを生贄に捧げることができるのか。第1帝国親衛騎士団、第2帝国親衛騎士団、第3帝国親衛騎士団。揃って全てが壊滅した。残されたのは本当に内部を押さえつけるための役割しかもたない戦力。
これでどうやって3つの帝国親衛騎士団を壊滅させたアーデルハイドを捕える?
そんなことができるのか?
いや、やらなければならない。そうしなければ生贄になるのはフリードリヒ自身だ。
ああ。まだアマーリエがいる。アマーリエが子供さえ産めば、帝国との血筋は繋がったままだ。アマーリエを生贄に捧げ、ベルフェゴールに赦しを乞うことができる。
「私はなんとしても生き延びてやるからな……。実の娘を生贄に捧げようと、どうしようと私は生き延びて権力を手に入れる。私の繁栄はまだ始まったばかりなのだ。それを邪魔させてなるものか。アーデルハイド、アーデルハイド。あの娘に死を!」
その頃アーデルハイドは丘の上から新帝都を見下ろしていた。
「ベルフェゴールが楽しそうなパーティーしてるな」
「ベルフェゴール?」
「気にすんな。俺様の友達だ」
ベルゼブブはそう言いアーデルハイドの方を向く。
「さあ、追撃戦はまだ続いているぞ。獲物に食らいつけ。亡者どもに喰らい殺させろ。それこそが俺様の求めるものだ」
「はい、ベルゼブブ様」
そして、ベルゼブブとアーデルハイドのふたりは新帝都に向かう。
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