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のしかかる呪いの重さ

……………………


 ──のしかかる呪いの重さ



 アーデルハイドとベルゼブブは帝都に戻ってきた。


 城門を潜ろうとしたところで、衛兵に呼び止められた。


「待て。そこのもの」


 アーデルハイドたちが振り返る。


「貴様ら、手配書にあった顔だな? 名前は?」


「アーデルハイド・マイヤー」


「アーデルハイド……。ほう、手配書の通りだな」


 衛兵たちがマスケットを構える。


「残念だが、ここを通すわけにはいかん。貴様らを逮捕する」


「やってみろ」


 アーデルハイドは何もない空間から“亡者喰らいの大剣”を引き抜いた。


「剣を抜いたぞ!」


「ど、どこからあんな剣を……!?」


「構うな! 撃て、撃て!」


 衛兵たちはマスケットを構え、射撃を開始する。


 アーデルハイドはそれらの攻撃を亡者たちに防がせると、亡者たちを解き放ち、衛兵たちを襲わせた。城門の警備に当たっていた1個分隊12名の衛兵が一瞬で壊滅する。


「銃声がしたぞ!」


「手配書にあった女だ!」


 衛兵が次々に押し寄せてくる。どうやらフリードリヒはこのような日に備えて、衛兵の数を増強しておいたようである。


「生け捕りにすれば金貨200枚だ! 捕まえるぞ!」


「やっちまえ!」


 欲深い衛兵たちが襲い掛かってくる。


「喰らえ、喰らえ、喰らい殺せ」


 アーデルハイドはそれに対して“亡者喰らいの大剣”を振るう。


 亡者たちが衛兵を八つ裂きにし、喰い千切り、喰い殺していく。


「な、なんだこいつ!」


「何が起きてる!?」


 衛兵は混乱しつつも次々に集まってくる。瞬く間に200名近い衛兵の壁ができた。


「マスケット、構え!」


 指揮官の号令で衛兵たちがマスケットを構える。


「撃て!」


 一斉に轟音が響き、銃弾が発射される。


 だが、やはりアーデルハイドの亡者の壁を突破するには至らなかった。


「母様、たっぷりと喰らわせてくれ」


 アーデルハイドが“亡者喰らいの大剣”を振るい、亡者たちが獲物に喰らいつく。


 衛兵たちの隊列は瞬く間に地獄絵図と化し、血と肉だけが散らばる。


「ひ、怯むな! 増援が来た! 構え!」


 指揮官はそれでもマスケットによる射撃を命じる。


 増援が加わり、弾幕を濃厚さを増す。だが、無意味。


「死に絶えろ」


 アーデルハイドが再び“亡者喰らいの大剣”を振るったとき、衛兵たちは完全に全滅した。ひとりして残ることはなかった。ただ、真っ赤な血が地面にぶちまけられたように広がっている。


「くうっ……」


 そこでアーデルハイドが呻く。


「呪いが重たく感じて来たか?」


「ええ。こうも物理的な重みを持つとは……」


「お前は呪われているんだ。その呪いは武器になるが、同時にお前自身を苦しめる。だが、安心しろ。いずれ慣れる。それに全ての亡者はお前の母ちゃんが管理してる」


「そうですか、母様が……」


 母様はなんと思っているのだろうか?


 早くフリードリヒたちを殺せと思っているのだろうか?


 フリードリヒは正々堂々と勝負を受けるだろうか?


 いや、あの男は勝負を受けたりなどしない。人にやらせるだけだ。


 ならば、どのような方法であれ、殺すのみ。


 アーデルハイドはそう決意して進み始める。


 アーデルハイドは背中にのしかかる呪いの重みを感じながらも、“亡者喰らいの大剣”を引きずって、帝都の中心に向かっていった。帝都の中心にある帝城へと向かっていった。一歩、また一歩と彼女は進んでいく。


 その時、帝城の方から蹄の音が響いて来たのに、アーデルハイドが“亡者喰らいの大剣”を構える。


「アーデ……」


「ゲオルク兄様……!」


 アーデルハイドはゲオルクを憎悪に満ちた目で見つめる。


「分かっている。お前の怒りは分かっているよ、アーデ。私は知った。父上が、フリードリヒがどのような罪を犯したのかを。悪魔と手を結ぶために、君と母上を犠牲にしようとしたことを知った」


「それで? 罪を知ったから、フリードリヒを代わりに殺してくれると?」


「そういうわけにはいかない。それは帝国の崩壊を意味する。父上は今やそれほどの重要人物となってしまったのだ。私は帝国の領土と臣民、そして皇帝陛下をお守りすると宣誓して騎士になった。それを放棄するわけにはいかない」


「ならば、兄様も私の敵だ」


「アーデ! 話し合いでは決して解決できない問題なのか? 父上はいずれ死ぬ。そして死後、その魂は悪魔のものとなる。このままならば。父上はお前を殺すつもりだ。お前を殺して生贄とするつもりだ」


「できるものならば、そうしてみればいい。逆に屠り返してやる」


「父上が魂を悪魔に奪われるという末路だけでは不十分だというのか?」


「不十分だ。私が私の手で殺すことに意味がある。私が私の手で殺さなければならない。それが私と──母様の願い」


 アーデルハイドがそう言って右目の眼帯を上げる。そして、右目を開いた。


 ゲオルクに付き従ってきた第1帝国親衛騎士団の騎士たちが血反吐を吐き、落馬した。ほぼ即死に近い形で彼らは死亡した。


 ゲオルク自身は口と目と鼻から血を流しながらも耐えていた。


 彼の視線の先には変わり果てた姿となった母エレオノーラがいたからだ。


「ああ。そうか。母上か……。思えばあのとき父上を止めるべきだったのだ。いくら黒い魔力を持っていようとも我々は血を分け合った血縁。それを安易に見捨てるなどあってはならなかったのだ」


「今さら悔いても遅い。母様は復讐を望んでいる。私もだ。死んでくれ、ゲオルク兄様。そうしなければ、母様は私を許さないだろう」


「そうだな。私は死ぬべきだ」


「では、さらばだ。兄様」


 アーデルハイドが“亡者喰らいの大剣”を振るう。


 ゲオルクが喰い散らされ、果てる。一瞬のことだった。


「兄様は……罪を悔いていた」


「だから、なんだ。懺悔したからこの世の全てが許されるなら刑務所も警官も必要ない。悔いていようが悔いてなかろうが、罪は罪で、お前はその罪に対して復讐すると誓ったのだろう。ならば、復讐をなせ。成し遂げろ」


「ええ。ベルゼブブ様、私は復讐を成し遂げます」


「それでこそだ」


 ベルゼブブはアーデルハイドの背中をぽんぽんと叩いて励ます。


「復讐を成し遂げろ。それだけがお前の今の存在意義」


「復讐を成し遂げる。それだけが私の今の存在意義」


 アーデルハイドはそう言って母エレオノーラを振り返る。


「フウウウウウウウリイイイイイイイイドオオオオオオオオオリイイイイイヒイイイイイイイイイ! アアアアアアアアアアアマアアアアアアアアリイイイイイイイエエエエエエエエエ! 奴ラニ死ヲオオオオオオオオ!」


「ああ。母様。私がその恨みを晴らそう。それが私の呪いだ」


 アーデルハイドは前進していく。


 だが、異様なことに気づいた。


 帝城の方角がやけに静かなのである。


 第1帝国親衛騎士団の他に軍隊が動いていてもおかしくないのに静かすぎる。


「まさか、連中ここから逃げ出すつもりか……!? 自ら帝都を捨てて逃げ去るつもりか! 何たる連中! このような連中が国を治めてきたとは!」


「遷都するみたいだな。さあ、追いかけるぞ、アーデルハイド。馬を呼ぶ。お前はその物騒な右目を隠しておけ」


 アーデルハイドは右目の眼帯を下ろし、右目を閉じる。


 そこにアーデルハイドたちの馬がやってきた。


「行こうぜ、追撃戦だぞ。派手に殺せ」


「了解」


……………………

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