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第2帝国親衛騎士団“ジークフリート”

……………………


 ──第2帝国親衛騎士団“ジークフリート”



 第1帝国親衛騎士団と第3帝国親衛騎士団が比較的上流階級の子息で構成されているのに対して、第2帝国親衛騎士団はならず者の集まりであった。


 元傭兵、前科者、元囚人。そういうものを集めて構築されたのがカールの率いる第2帝国親衛騎士団であった。


 無論、その行いは決して紳士的とは言えない。


 いや、ならず者のそれであった。


「娘を隠しちゃいないだろうな? 俺たちの取り調べはきついぜ?」


「そ、そのようなことは……」


「ほう潔白を訴えるのか? ならば、いくらかいただかねえと信じられねえな」


 彼らは帝都のあちこちでトラブルを起こしたのちに、地方に派遣された。アーデルハイドは既に帝都を脱出したと考えられたからだ。


「よーい、ドンだ」


 カールがある村落で村人たちを並ばせて銃口を突き付けていた。


「よーい」


 カールが言う。


「ドン」


 マスケットが火を噴き村人のひとりが撃ち殺される。


 村人たちは走り出し、さらにカールは装填済みのマスケットを受け取る。


「ドン」


 また村人がひとり倒れる。


「ドン」


 またひとり。


「逃げたのはふたりだけか」


「しらけちまいますね」


「全くだな」


 カールは村の住民を先ほどのようにして撃ち殺し続けていた。


 彼のマスケットを扱う技術は一流で、あらゆる目標に銃弾を叩き込む。


 今回のこれはその腕試しであった。


「おい。お前ら、楽しめたか?」


「ええ。楽しめましたよ」


「じゃあ、次に行くぞ。俺たちは帝国親衛騎士団だ。正義の味方だ。好き放題やろうぜ」


 村の広場には事切れた女性たちが転がっていた。明らかに暴行された形跡がある。


 カールの率いる無法者集団はアーデルハイドの捜索と称して、地方の村々で暴れまわった。金品を奪い、殺し、焼き払い、無法の限りを尽くしていった。地方では恐怖が渦まき、多くの人間が生まれ育った故郷を捨てて、各地へ逃げ散る。


 カールはそのような人間たちを追い詰めて殺す。オオカミが群れで狩りをするように、獲物を囲い込み、群れから脱落したものから殺していく。


 カールにとってはアーデルハイドの行方などどうでもよかった。彼女が自分たちに復讐しにくるならば迎え撃つだけだ。もっとも、カールはこうして移動して回ることでアーデルハイドの復讐の刃が自分に襲い掛からないようにしているが。


「カールってお前の兄貴が好き放題やってるぞ」


 寂れた山小屋の中でベルゼブブがそう言う。


 アーデルハイドたちは人目を避けて、安全な無人の山小屋に退避していた。食べるものには少し困ったが、携行食料で食いつなぎ、ニーベルング帝国が次にどういう手に出るのかを窺っていた。


「カール兄様らしい。あの人は昔から野蛮だった。犬にネズミやモグラを食わせるのを何よりの楽しみにしていた人だ。その対象が人になったとしても、特に驚くことはない。しかし、居所は特定できないのですか?」


「お前を探している様子はない。殺しまわっているだけだ。どうする?」


「復讐はなさねばなりません」


「そうだな。問題はどうやるか、だ」


 カールの影にはベルゼブブのしもべが潜んでいる。それが絶えず情報を送ってきているが、カールは移動を繰り返しているため、捕捉することは難しい。相手は馬で移動し続けているため、瞬時にその位置は変わる。


「まあ、狩人の位置は捕捉できなくとも獲物の位置は特定できるな」


「と、仰られますと?」


「カールが狩っている獲物の移動は遅いし、位置も特定しやすい。後はそこで狩人が来るのを待てばいいだけだ」


「なるほど。そういうことですか」


 避難民。それに紛れ込み、カールが襲撃してくるのを待とうというわけだ。


「では、早速」


「そうだな。一番近い避難民のいる場所は……。そうか、そうか。おし、いくぞ」


 アーデルハイドとベルゼブブはそこら辺で手に入れた馬に跨り、避難民の集団を目指す。馬は駿馬とも名馬とも言えない駄馬だったが、移動する分には十分だった。それに跨り、アーデルハイドたちは避難民の隊列を目指す。


 そして、避難民の隊列が見えた。


 避難民は行く当てがあるわけではない。ただ、逃げ続けているだけだ。ほとんどの者は歩きで、一部の人間だけが馬車を使い、多くの荷物を移動させていた。家財一式を持って逃げているというべきだろう。


 誰もが暗い顔をしてこの終わりのない脱出に俯いている。子供を抱えた親。年老いた親を背負う子供。多くの人間が逃げ続けている。


 この原因が間接的には自分にあるのかと思うとアーデルハイドの心は重くなった。


「この群れでいいだろう。群れに紛れ込み、狩人を待つ。狩人たちが自分たちが狩られる側に回るとも知らずに追いかけて来るのはさぞ愉快だろうな」


 ベルゼブブは難民のことなど知ったことではないというようにそう言う。


「そして、討ち取るのみ」


 アーデルハイドは決意を新たに避難民の隊列に加わり、カールの。第2帝国親衛騎士団の襲撃を待つ。獲物の中に狩人が潜み、狩人気分の獲物を待ち受ける。


 避難民の隊列からはひとりひとりと避難民が脱落していっていた。歩けなくなったり、気力を失ったり、子供が病にかかったりと理由は様々だが、隊列から誰かが脱落しても、誰も振り返ったりしない。


 見捨てていく。見捨てていく。見捨てていく。


 またひとり、妊婦の女性が脱落した。それを助けるものはいない。


「来たぞ。狩人気取りどもだ。獲物の臭いを嗅ぎつけたらしい」


 そこでベルゼブブがそう言う。


「皆殺しにしましょう」


「ああ。そうしてやろう」


 今のアーデルハイドに正義感などというものはない。そんなものはヴァルトラウトが死んだ時点でなくなった。正義を気取るつもりはない。ただ、自分の復讐を成し遂げるだけだ。正義など何の役にも立ちはしない。


「来てる。来てるぞ。ここら辺で脱落したように見せておくか」


「分かりました」


 アーデルハイドたちは馬を止め、避難民が立ち去っていくのから、距離を取る。


 すると、軍馬の力強い蹄の音が響いて来た。


「おいでなすった。やっちまいな」


「はい」


 第2帝国親衛騎士団の騎士という名のならず者たちは馬でアーデルハイドたちを包囲すると、マスケットの銃口をアーデルハイドたちに向けて、にやにやとした笑みを浮かべ始めていた。


「なかなか美味そうな獲物が残っているじゃないか」


「しけた難民の群れかと思ったが、そうでもないな」


 第2帝国親衛騎士団の騎士たちはそう言い、馬から降りる。


「おい。服を脱げ。まずは味見だ」


「下種どもが。貴様らに相応しい最期をくれてやる」


 アーデルハイドが右目の眼帯を上げ、右目を開く。


 その真っ赤な瞳を見た第2帝国親衛騎士団の騎士たちが倒れていく。瞬く間に血塗れになり、地面に崩れ落ちていく。


「貴様、カールは。カール・フォン・バッセヴィッツはどこにる?」


「だ、団長なら後続で……」


「ここに来ると言うことだな?」


「は、はい」


「よかろう。死ね」


 アーデルハイドが第2帝国親衛騎士団の騎士の背中に“亡者喰らいの大剣”を突き立てる。第2帝国親衛騎士団の騎士は血を吹いてそのまま息絶えた。


「カール。カール兄様。あなたに会えるのが楽しみでならない。母様も兄様に会いたがっているぞ?」


「カアアアアアルウウウウウウウウ!」


 エレオノーラが叫ぶ。


 そんな中、第2帝国親衛騎士団の後続部隊が姿を見せた。


 その中にはカールの姿もあった。


 カールはアーデルハイドを見て、驚いた表情を浮かべ、それから笑った。


……………………

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