挑戦の後
目を開けると、目の前にすずの顔があった。頭の下には何か柔らかい感触のものがある。起き上がろうとすると、すずに止められる。
「まだ横になってた方がいいよ」
すずに声をかけられて、今の自分が置かれた状況を理解した。倒れた後に、膝枕をして寝かせてくれていたようだ。慌ててもう一度起き上がろうとすると、またすずに止められてしまった。おそらく顔が真っ赤になっていたことだろう、しかしすずに膝枕をしてもらっているうちにまた寝てしまった。
もう一度起きると、外は真っ暗になっていた。起きたことに気付いたのかすずがこちらを向く。
「あ、起きた?調子はどう?」
少し心配そうにすずが聞いてくる。
「すずに膝枕してもらったおかげですっかり元気になったよ」
起き上がりながらそう言うと、すずは少し照れながら
「そ、そう。それなら良かった//」
と言った。赤くなったすずの顔を見ているとこちらまで少し照れてきてしまった。起き上がり、しばらく静かな時間が続いたあとすずが水を持ってきてくれた。
水を飲み終わってすずに改めてお礼を伝え、すっかり暗くなってしまった道を家の方へ向けて歩き出す。
「こんな時間まで付き合わせちゃってごめん。」
帰り道でそう言うと、すずは
「全然大丈夫だよ!むしろ元気になってくれて良かった」
と優しく答えてくれた。この前のこともあって、寝ている間すずはずっと心配してくれていたようだ。
すずをすずの家まで送り、自分の家へと帰った。家に帰ると、疲れがどっと出てきた。慣れない長時間の飛行に加えて帰りの降下で強いGを受けたことが思ったよりも体に来ていたようだ。今日は冷蔵庫にあった物を適当に食べて寝ることにした。
翌朝、昨日の疲れもあったのかいつもより起きる時間が遅くなってしまった。新聞を取るために外に出ると、少し高いところに上がった太陽が見えた。今日の新聞にも例の飛行機に関する新情報はなかった。今日は昨日の疲れを取るためにも少しのんびりして過ごそうと思う。
朝ごはんを食べて、コーヒーを飲みながらのんびりしていると家のチャイムがなった。玄関を開けると、すずがいた。
「おはよう、体調はどう?」
昨日のことを心配してくれたのか、会いに来てくれたようだ。
「一晩寝たらだいぶ疲れは取れたよ」
「良かった。体調崩してないか心配だったの」
近所に自分のことを心配してくれる人がいると、非常に嬉しいものだ。一緒に住んでいる家族がいない分、その気持ちはより感じられた。
玄関先で話し続けるのもあれなのですずを家に入れて、今は一緒にコーヒーを飲みながら飛行機の話をしていた。
「じゃあ、当分は飛行テストはせずに整備の時間に当てるのね」
「ああ、昨日のことで機体に少なからずダメージはあるだろうし、すずに手伝ってもらったとしても整備には時間がかかるだろうから」
「うん、私もできる限り手伝うね。また高く飛ぶ飛行機を見たいし!」
その後もお昼前まで二人で話した。港まで買い物に行くというすずをバイクで送り、すぐに家に戻った。今日は休養に専念して、明日から整備をしようと思う。