雲の上へ 2
離陸後、すずに手を振って風防を閉めた。速度が落ちすぎないようにゆっくりと上昇する。
下に広がる畑にはいつもお世話になっている村の人たちが手を振っているのが見えた。
数分後、計器は高度2000mを示した。ここまでくると同じ高さになる雲がいくつかある。しかし、今回目指すのは高度6000m。6000mまで上がれば大抵の雲は下か同じ高さに見えるようになるからである。
高度3000m付近まで上がったところで格納庫にいるすずから通信が入った。
「かなり高いところまで上がっているけど、問題はない?」
古い通信機であるため多少の雑音ははいるものの、すずの声が聞こえ少しほっとした。特に気にしていなかったが3000mというと、近くにあるどの山よりも高いところを飛んでいるのである。ここまで飛んだのは初めてだったが、今のところ特に問題はなかった。すずにも
「現在高度3000m。特に問題なし。」
とそれっぽく返すと、面白かったのか少し笑い声がしたあと
「了解!この後も気を付けてね」
と返事が来た。しかし、その数分後。高度4000mまで上がったところで発動機から異音がしたのだ。先ほどまで元気に回っていた発動機も異音と共にやる気がなくなったように回転数が落ち始めた。急いですずに異音と回転数の減少について報告。今日のテストは一旦中止となった。
滑走路に無事に着陸すると、すずが目に涙を浮かべながら走ってきた。
「ごめん、私があんなこと言ったばっかりに…」
すずは自分が提案したことで危ない目にあったのを気にしているようだ。
「大丈夫、大丈夫。こうして無事に帰ってこれたんだから」
笑顔でそう言うと、泣きながら抱きつかれてしまった。何かやっていることに気付いて、近所の人たちやすずの両親も見に来ていたので、恥ずかしかった。
しばらく泣いて落ち着いたすずを連れて格納庫へと向かった。機体はすぐに点検もしたかったので、一旦格納庫から出した状態で置いておいた。泣き止んだすずと、すずの両親と共に今回の問題点を話し合った。すずの両親は機械に詳しいところがあるので、是非意見を聞こうと思って話を聞いてもらうことにしたのだ。
まずは回転数の減少について話を始めた。あの後、降下していくと2000mあたりでまた元気に回り始めたことを伝えた。回転数については高度が上がったことで、最高速度が低下しただけではないかということで、解決した。異音については、おそらくは今まで飛んでいなかった高度まで飛んだため、発動機への負荷がかかったためという結論になった。会議のあとで、発動機を見ても特に問題はなかったのできっとそういうことだったのだろう。
会議が終わった後、すずと一緒に機体の点検を行った。発動機、機体共に問題はなかった。すずも安心したようで良かった。
点検が終わるともう夕方になっていたため、すずと一緒に機体を格納庫に入れた。
帰り道、すずが改めて申し訳なかったと謝ってきた。何もなかったとはいえ、やはり気になるのだろう。すずの頭に軽く手をおくと、安心したのか笑顔を見せてくれた。その笑顔にドキッとしつつも、また挑戦したいということをすずに話した。すずは一瞬驚いていたが、分かってくれたのだろう。笑顔で
「うん…」
と答えてくれた。