静かな日常
広い畑の上に発動機の音が響き渡る。
風防を開けると目の前にある発動機の音が大きく、より鮮明に聞こえてくる。
いつもと同じような飛び方で飛行し、畑の横の滑走路に降りる。小さな格納庫の近くまでゆっくりと進み、ブレーキをかける。発動機を止めるとプロペラの回転がだんだんと遅くなり、先ほどまで大きな音と共に回っていたプロペラも止まる。
損傷がないか等を確認し、格納庫を後にする。格納庫から少し離れた家までの帰路につく。
ここは三方向に山、一方には海があり、囲まれた地形のため大きな都市は近くにはなく海に面した小さな港町と農村が近くに幾つかあるだけである。港に行けば大体のものも手に入るため生活には困らない。
飛行機の燃料も港で手に入る。
唯一困ることと言えば近くに大きな病院がないことだ。ある程度のことは港町のお医者さんが診てくれるが、大きな病気となると山を越えた先にある病院まで行かなくちゃならない。そういう時は相棒である飛行機で病院のある街までいつも送っている。急ぎの手紙や荷物なんかもこの飛行機で運んでいるため、この辺の人たちとはすっかり仲良しである。
家までの道を歩いていると向こうから近くに住む友人が小走りでやってきた。
「おーい、今日はどうだったー」
元気そうに走ってきた彼女の名前は「すず」。この辺のみんなには「おすずちゃん」なんて呼ばれて気に入られている。彼女とは小さいころから仲良くしていて、この飛行機の整備も時々手伝ってもらっている。
「ねえ、聞いてる?」
「あ、ごめん…」
返事をしたつもりが少しぼーっとしていたようだ。今日も元気に飛んでくれた相棒の話をすると、彼女は嬉しそうに笑った。その笑顔が夕日で輝いて、とても綺麗だった。
「そういえば、今日は是非家に呼んでってお母さんが言ってたんだけど」
彼女はそれを伝えるために会いに来たらしい。普段から彼女の家にはたまに遊びに行っていたので、彼女の両親にもいつもよくしてもらっている。断る理由もないので、行かせてもらうことにした。
彼女の家に着くと、彼女のお母さんが出迎えてくれた。家の中からは美味しい匂いが漂ってきていた。
お風呂に入れてもらった後、みんなで夕飯を食べた。いつもは一人なので、たまに彼女のいえで食べるご飯はとても美味しく、楽しかった。
ご飯をいただいた後、帰り支度を済ませ彼女の家を出た。あたりはすっかり暗くなっており、持っていたランプにマッチで火をつけ、家へと帰る。暗い道を暖かいオレンジ色の光が照らす。