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本編 5 ~世界は終末へと走り始める~

ちょっと買い出しに行ってくる、と龍之助は買い物に出かけた。おそらく諒子が気持ちを整理するための時間を与えてくれたのだろう。


世界が終わる。

なんと陳腐な言葉か。


諒子は考える。

普通、人が妙なことに確信を持つとき。それは、ほぼ間違いなく勘違いだ。

確率論的に、勘違いのうちのほんの一部が当たって、自分にはなにか予知能力のようなものがあるのかもしれない、と思う人はいるだろう。だが正確には、他の外れたものと当たったものの比率をしっかり計算してみたら圧倒的な差が出る。偶然の一致に過ぎないのだ。


それなのに諒子がどうして恐れているか。それは諒子の本能的な予知がほぼ確実にある気がするのだ。巷でいう厨二病ではない。そうであったらどれほどよかったか。


おかしいと気付き始めたのは小学校の1年生のときだった。

遠足が次の日で、みんなは晴れますように、と祈っていた。天気予報だって、快晴だったのだ。だが諒子は雨になる、と確信した。一人、傘とカッパを持って行った。

そして、強雨が当日、降った。こういうことは保育園の頃にも多々あった。


しかし、これだけならまだたまたま当たった、で済ませられる。


ある朝。いつも通っている道が危ない、と確信した。

龍之助と勲と一緒に登校するのだが、二人に違う道で行きたい、と言って、別のルートを通った。

学校について1時間目の授業中に先生が緊急連絡を受け取った。通学路に酔っ払い運転のトラックが突っ込んで何人かが亡くなったとのことだった。

諒子はここで冷や汗をかいた。おかしい。なにか、おかしい。


ある放課後。

いつもの3人で下校中だった。

知らないおばあさんとすれ違った。そのとき。おばあさんが倒れる、と確信した。

だけど、見ず知らずの人にいきなり声をかけられる訳がない。

後ろ髪を引かれる思いで、次の信号のところまで行き、赤でとまる。ちら、と振り返り、見ると、おばあさんは倒れていた。

救急車をすぐ呼ぶことができたので、最悪の事態は免れたが、手首を骨折したり脳震盪を起こしたりして、おばあさんは健康を損なったことは間違いなかった。


そのあたりから、確信することは諒子によって不吉の前触れとなった。

だから、確信したら、その人や物事に気をつけて、防ぐ、もしくはすぐに助けられるようにしていた。その甲斐もあって、最悪のシナリオは免れていたはずだ。


なのに、世界が終わる。

これはどうやって、防げばいいのだろう。

諒子の予知は言葉で降ってくる。言葉というのは、映像などに比べると情報量が少ない。せめて、映像さえ浮かべば…。


考えすぎのせいか、強い睡魔が諒子に押し寄せる。もっと考えねばならぬのに、と思いながら諒子は眠りについた。


******


「奇跡的な力で治療してくださった優子さんには、とても感謝しております。言葉にも尽くせないくらいの御恩を感じております。」


諒子に似た淡々とした口調で答える男性の声が聞こえる。父だ。


「ですが、私と優子さんの間にはあのときの関係しかございません。お力になれず申し訳ございません。」


「そうですか…。わたくしどもはこちらにお嬢様がいらっしゃるとお聞きしていまして。丁度優子が産んだと推測される時期に合致する年頃の。

ぜひとも、一度わたくしどもに会わせてほしくて参りました。もしかすると孫かもしれない子ですから。」


にこにこと、しかし全く温度の感じない表情を浮かべた老夫婦が言う。

嘘だ、と諒子は確信する。


「申し訳ございません。妹が産んだ子供がいましてね。その子を預かっているのですよ。なのであなたたちに会わせる必要は全くない子でして。」


はっきりと言い切る父に嘘がないことを確信し、驚く。しかし、そこに現れた人物を見て、納得する。


「伯父さん。私の顔を見て満足してくれるならいくらでも見てもらえばいいじゃない。こんばんは」


きりっとした目をした少女は確かに父の妹、叔母の子であり、諒子にとって従妹の麗だった。

付け入る隙を一切与えないその鋭い美貌を前に、さすがの怪しい老夫婦もそれ以上は何も言えないようだった。


「…そうですか…。では最後に質問です。あなたは妻帯したことがないのですね?」


「ああ、そうです。そろそろ遅くなってきました。おかえりください。そして優子さんにはあの時は本当にありがとうございました、とお伝えいただきたい。」


父の言葉は嘘がない、どうしてだろう。

父は、この人たちには嘘がわかってしまうと知っているかのようだ。

それに。優子さんとは母の名前だったはず。これでは優子さん―母はまだ生きているみたいだ。


渋々と老夫婦は外に出る。日はもう落ちて気温は低い。


「ったく、なんで俺がばばあなんかに化けなきゃいけねえんだよ」


その声は男だった。

ああーさびい、と言いながら両腕をさする。先ほどの品の良い老婦人の面影は一つもなかった。


「あんたの背が低いからだろ。おいらだって嫌さあ、長年連れ添った夫婦相手が男とかよお」


そう答えた男も、きりきりとした老爺の見た目に反して、ゆったりとした眠そうな口調で話す。


「ふん、うっせえ。おい、オジョーサマ捕まえられなかったぜ、どーする?」


「そもそもさあ、オジョーサマっているのかあ?

さっきのおっちゃん、嘘はついてなかったぜえ」


「結婚せずに子供できたんじゃね?一応法律的には妻帯者になんねえし、すり抜けられる可能性はあんだろ。」


「へえ、なるほどお、そこまで考えて対策してきているとなると…、いっそう怪しいよねえ」


「ん~俺的にはもういいんじゃねって思うんだけどねえ、神様」


「おいおい、おいらじゃなかったら告げ口されてえ…、どうなんだろ、おいら末路聞いたことないやあ」


「もちろん墓場いきじゃね?

だけどさ、言っちゃ悪いんだけど、神様の威光?みたいなのあんまり目にしたことのない俺たちにしちゃ、ありがたみがよくわからんって部分ねーか?

神様ってなんなのさ」


「ええ、それをおいらにきくう?おいら罰は当たりたくねえから、お前に対する答えは何もいわねえけどお。

神様って予知ができるんだろお?あと祈れば叶う力が強いとかあ?

神様なのになんで祈るのおって聞いたらばっちゃんに頭なぐり飛ばされたぜえ」


なんだ、何の話をしているのだ?

カミサマ?

予知…祈ると叶う?


じゃあ、世界が終わらないで、って願ったらどうなるんだ?


『それはね、代償を元に叶えられるのさ、私のいとし子よ』


世界が暗転する。変な、声がする。男とも女とも取れない、それに人とも何ともいえない声。

酩酊感に伴う吐き気のようなものが渦巻く。


だが、世界が終わるとはどういうことなのか。そして代償をいくら払えばそれを免れるのか。それを私は知らなければならない。


『ほんとはね、情報にも対価がほしいけど、初めてだしね。私のいとし子だから初回はただ、としようか』


『ああ、誰かに話しかけられて、返答するなんて、久方ぶりだから…現代語で言えば、さーびす、をしたくなっちゃうね?


カミサマって呼ばれる存在はね…、君の家では神として崇められる存在なんだ。

カミサマって呼ばれているのは本当は神ではなくて、神の声を降ろせる者、つまり預言者かな。あとは巫女とか?まあ、私のいとし子のことなんだけどね。


で、その特典として、素敵な才能がついてくるんだ。まあこれはカミサマの生まれる家系の子供が強かれ弱かれ持っている才能でね?

君の場合は…、身体能力の特化かな?まあまあ怪力だよね?あとは弱めの治癒能力もあるのか。そして真実を見抜く勘。

やっぱりカミサマは才能も強めだよねえ。神に近い者なんだからそれもそうか。

さっき老夫婦に化けていた子たちは真実を見抜く力を持っていたみたいだね。

カミサマとその家系についてはこのくらいかな。


そして次に、世界が終わるということについて。

私が預言者に託せる言葉数や情報が限られていてね…、特にカミサマとして目覚めていなかった君とかは非常に厳しかった。

君が一緒の場合は別なんだけど。

いない場合、情報は君に身近な人、心に近い人になればなるほど規制がかかるんだよね。

つまりね、君の大事な人が危ないよ、という意味だったんだ。


今君の近くに…いないね?』


起きなければ。起きないと。私がそばにいって、彼を助けないと。


『そうだね、では代償についてだけ軽く。


彼を今すぐ私が助けたら、君は私にその身体をこれから毎年6か月間貸してもらおう。もちろん一回だけの救いじゃない。これからも彼を救うことを約束するよ。


そして、君が今からすくいに行くんだったら…、ただにしよう!これはほとんど見込がないと言っておくよ。


最後に。君が治癒能力を使って。完全に力を使いきってダメだった時も僕が力を貸そう。

でもその時は…1年間身体を貸してもらって賭けをすることにしよう!

そうだな…彼が、中に入っているのが君じゃないって気づいたら身体を返すっていうのはどうだろう?

1年以内に気付けばその時点で即、君に身体を返却。気付かなければ、身体は永遠に私のものだ。


うん、面白そうだ、いいなあ、ね、たのしいね?』


どうでもいい。私は、起きて彼を自分で助けに行く。起きて、起きて、起きて―――!


「はあっ、はあ!」


とてつもなく汗を掻いている。嫌な夢を見た。夢はおぼろげだが、何か大切なものが危ないことだけが、本能に訴えかけている。


ここはどこだ。龍之助の家だ。

大切なものってなんだ?今離れているって何かに言われて―――


「りょうちゃん!」

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