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5月2日 えんぴつ記念日

作者: blueberry

中学生が主人公の作品です! 5月2日がえんぴつ記念日なんです。そのえんぴつがテーマになった作品です。現役中学生、中学校を卒業したみなさんにもぜひ読んでほしいです! 

 最近の僕の趣味は、恩師たち美術部員と共に、画材を収集するため、文房具屋へ行くことだ。僕は鉛筆で絵を描くことが大好きだ。美術部に入部するまで無趣味だった僕が、「鉛筆」という画材の虜になったのは、あの日が起点だ。

 

 「ねー、今日から部活動見学期間なんでしょう? どの部に入るの?」

 僕が中学校(言の葉中学校)に入学して約1週間。部活動に入る予定はなかったのだが、言の葉中学校は生徒は必ず部活動に所属しなければならないという。

 もし入るのであれば、運動は苦手なので文化部だ。コンピューター部、美術部、吹奏楽部。言の葉中学校は人数が200人にも満たない小規模校なので、文化部は3つしか存在しない。他は全て運動部だ。

 とりあえず、学校に行ってから考えよう。僕はバッグを背負い、通い始めて間もない通学路を辿った。


 「今日どの部行くー?」「私は卓球部かなー」

 僕の所属する1年1組には、部活動の話題であふれていた。

 「よー、お前は何部入んだよ」

 小学校時代からの友人が言った。彼はバスケのスポ少に入っていたので、おそらくバスケ部だろう。運動神経もいいことだし。

 「わ、分からない」

 「まじかよぉ。バスケ部入んねえ?」

 「それだけは却下」

 僕がそう断ると、彼はうなだれながら、他のクラスメイトを誘って行ってしまった。

 まだ部活動に入部するまで、1週間ある。だが、急いで決めて3年間後悔はしたくない。無趣味で何部に入ろうかよく分からない僕でも、そんな思いは確かにあった。

 「・・・・・とりあえず、美術部行くか」

 パソコンも音楽もできない僕は、適当に美術部に行くことにした。

 

 これが、僕の新たな出会いの始まりだった。


 静寂。この熟語が良く似合う美術室だった。部員は10人もいなかった。見た目でおとなしそうだと分かる先輩たちが集っていたが、一人だけ赤いリボンでポニーテールにした人がいた。

 失礼ながら、何だか意外だった。

 「1年生さんたち、どんどん先輩の作品、見学していいからね」

 美術の先生が僕たちを促す。僕以外にも、見学者は2人いた。1人は知らない人だが、もう1人は同じ小学校出身だった人だ。

 2人が作品の見学を始めたので、僕もつられて歩く。

 「あ・・・・」

 声が漏れた。目に入ったのは、美しい筆致で描かれた世界。きっと空想の世界であろう。驚くべきことに、鉛筆で描かれていた。

 「ちょっと、声出さないでくれる、今集中してるんだけど」

 声のする方を振り向くと、そこには先程のポニーテールの先輩がいた。作品に気を取られて気づかなかったが、これはこの先輩の作品だったようだ。

 あまりに美しい。

 「す、すみません・・・・」

 口元を手で押さえ、僕は先輩の作品を眺めた。

 「ゆかりちゃん、そんな言い方すると部員が入らないわよ」 

 先生が彼女ーゆかりさんに苦笑しながら言った。

 「ごめんなさーい、どうぞどうぞ見てって!」

 あまりの変貌ぶりに戸惑ったが、僕は彼女から目を離せなくなった。

 美しい筆致で彼女の世界観を描いている時の目は、真剣そのものだった。その視線からは、言葉ではうまく表現できないが、「才能」の光が、作品に注がれている気がした。

 あの眼差しは、美術をよほど愛していないと、そして才能がないと、見せられない視線だろう。

 ここまで感銘を受けたのは、彼女の作品と、彼女が初めてだ。

 「んー、ここはHBの方がいいかな。ちょっと濃すぎて世界観がごっちゃになっちゃうな・・・・」

 作品を見てゆかりさんは呟く。そして、使い込まれた独特の形をしている消しゴムで、作品を訂正していく。

 「・・・絵の具とかでは描かないんですか?」

 気がついたら、僕は彼女に質問をしていた。集中力を削いでしまったかと慌てて口を抑える。だが彼女は、あはっと笑い、こう答えた。

 「あたしは鉛筆が大好きなのよ。色染も水彩鉛筆でやってる。小学生の時、地区小学生絵画展に行ったときにね、鉛筆で描いた絵がね、地区の最優秀賞取ってて。あたしは昔から絵を描くのが好きなんだけどね、あそこまで鉛筆が美しい世界観を表すなんて知らなくて。その頃から鉛筆の虜なわけ」

 さすがだ。才能がある人は見るところがちがう。ただ「すごい」のではなく、画材に注目する。美術に秀でている人の感性は鋭いことが、彼女の口調から伝わって来た。

 そして。僕はこの話を知っている。

 「・・・・その作品描いた人の名前って、なんですか?」

 「忘れもしないわよ。あたしは雪ノ下小学校出身だから、その人のこと自体は全然知らないんだけど。都草小学校出身の、浦添ひかる(うらそえ ひかる)って子だったわ」

 やっぱりだった。

 「・・それ、僕です」

 そう告げた瞬間、彼女の目がたちまち大きく見開かれていくのがわかった。

 「へ、へえー、あ、あなたが!? あなたすごいわよ、あの世界観を小学4年生で描き出せるとかマジで才能がすごいわよ!」

 彼女の大声に反応した他の先輩たちが僕らの方を振り向く。2人の1年生は、僕らの方へ寄って来た。

 「浦添くん、絵うまいもんね」

 そう言ったのは、出身小学校は違うが、同じクラスの子だった。女子のような見た目だが、男の子だという子だった。

 「えっと・・・八幡浜、くん?」

 「うん。クラスのプロフィール用紙の自画像、すごく可愛く描かれていて、すごいなって思ってたんだ」

 「ひかる無趣味とか言ってるけどさ、マジ絵うますぎんもん」

 同じ小学校出身の小笠原雨音おがさわら あまねもこくこくと頷いている。

 「ぜひ美術部、考えてみて、諸君!」

 ゆかりさんははじけた笑顔で僕たちにそう言い放った。


 確かに、絵がうまいと褒められたことはあった。しかし、日常的に描いているわけではない。

 だけれど、僕の小学生時代の作品が、あの才能あふれる先輩に影響を与えたなんて思いもしなかった。たまたま鉛筆で描くという課題だったため、鉛筆で描いただけだったのが、あまりいろいろなものに関心を持たない僕が感銘を受けるような作品を生み出してしまった。あの鉛筆の作品の起点は、僕の作品だったと思うと、何だか胸がいっぱいになる。

 絵を描くこと。『鉛筆で』作品を描くこと。あの先輩の作品、そして今日の会話が、頭から離れず、なかなか今日は寝付けなかった。


 それから部活動見学期間が終わるまで、僕は毎日美術部に通った。試しに絵を描かせてもらったりして、僕は気づいた。

 僕は絵を描くことが好きで、それが僕の輝ける道なんだ。

 あの日から少し気がついてはいたが、確信にまでは至らなかった。でも思い返してみると、今まででも、絵を描いている時が、一番いきいきしていたような気がする。

 自分がいきいきとできることを意識すること。無意識だと、才能に気付かないかもしれない。

 いつの間にか、そんな風に考える自分がいた。

 今僕は、絵を描くことにいきいきしている。

 そして、『鉛筆』で、誰かの心に響くような作品を描きたい。そう思っている。 

 僕は、美術部に入部しよう。

 そう誓い、僕は入部届を提出した。


 「やっぱしひかるも鉛筆の虜になりましたか!」

 今や先輩ではなく僕の恩師、色麻ゆかり(しかま ゆかり)さんに、僕も鉛筆の虜になった、と伝えた。

 「今度画材用の鉛筆買いに行くから、一緒に行かない?」

 「いいんですか、恩師」

 美術部に入部して、僕は日々鉛筆で、恩師を目指して作品作りに励んでいる。

 今作成中の作品は、「いきいきしている瞬間」という題だ。入部する時に気付いた大切なことを、いろんな人に知ってもらいたい。そんな願いを込めて、僕は作品を描いている。

 「うちの近くにさ、いい文房具屋さんあるんだよね。老舗でさあ」

 「うわ、たまんないですね。楽しみっス」

 「僕も文房具、興味あるな」 

 「俺も。一緒行きたいなあ?」

 共に入部した八幡浜夢叶やわたはま ゆめか、小笠原雨音も僕たちに寄って来る。

 「せんぱぁい、美術部みんなで文房具屋めぐりとか、どうですか?」

 そんな和気藹々とした雰囲気が、言の葉中学校美術部にはあった。

 笑顔。この言葉が良く似合う美術室だった。

 


 

 何月何日というのは実はあまり関係ありません・・・『○○の日』の○○をテーマにした作品を、これからもゆっくりではありますが、投稿させていただきます。もし「この日の書いて欲しい!」という意見がございましたら、感想を頂けたら嬉しいです! みなさんの癒しになるような作品にしていきたいと思っていますので、これからも読んでいただけると嬉しいです!

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