【剣】目の当たりにした現実[2]
「お嬢様…よくぞご無事で…」
「い…や…なんで、なんで杏奈が!?ねぇ、次が始まったら杏奈は元に戻るわよね!?ねぇ!!」
シナリオに反して俺が魔物を倒し、館へ急ぐと、目の前で泣きじゃくる髪を綺麗に縦に巻いたお嬢様…
そして目の前には、横たわった魔物と…血を流し倒れているお嬢様付きのメイド、杏奈がいた。
…こんなシナリオでは無かった。
「お嬢様…!っ、杏奈…!?」
シナリオ通り駆けつけてきた執事はそのシナリオ通りではない状況にフリーズした。
「な、んで…」
そして杏奈の前に執事は崩れ落ちた。
沈黙が続いた。シナリオとは違った結末に俺らはどうすればいいのか分からなかった。
そしてその後、いつも通り急に目の前が光った。
…また新しいシナリオが始まる…
きっとそこには杏奈も涼しい顔をしてコーヒーを淹れて…
「お嬢様、おはようございます」
「杏奈が、杏奈がいないの…っ」
シナリオ通り、お嬢様の護衛のためお嬢様の部屋に向かうと…そこにはいつもいたはずのメイド…杏奈がいなかった…
やっと…会えたと思ったのに
「…っ」
目の前にいたのは顔を真っ赤にした彼女だった。
「大丈夫か?」
思わず声をかけると彼女は慌ててこちらへ頭を下げた。
「すみません、お客様がいらっしゃるのに」
その表情や仕草はあっちの世界では見たことがないようなものだった。
「いや、気にすることはない。恋人といたらそういう雰囲気になることもあるだろう…」
恋人…奴のことを彼女の恋人と認めたくはないが、もうあの現実を目の当たりにしたら、そう認めるしかなかった。
あっちの世界ではひたすらお嬢様のために動いていた彼女…相手が奴であることは気に食わないが…こんなに伸び伸びと表情豊かに過ごしていることはいいことではないか…そう、自分に言い聞かせるしかなかった。が、次の彼女の言葉で俺は安心しつつも奴への怒りが収まらない状態となった。
「あ、の、お客様の目の前で…その…キスをしてしまったことには変わりないので、私が何を言っても…言い訳になってしまうのですが…その…恋人では、ないんです。」
恋人では…ない…と、いうことは
「奴…いや、あの客が無理矢理か!?」
奴は…あの王子はそういう奴だった…
「無理矢理といいますか…私に隙があったといいますか…」
彼女は困っていた。
カランカランっ
沈黙が続きそうになった瞬間にお店のドアが開いた。
「本当にお見苦しいところを、すみませんでした」
彼女はもう一度俺に頭を下げるとドアの方へ向かっていった。
「…今度こそ俺がお前を守ろう」
俺は小さくつぶやいた。
口にしたコーヒーは苦くも懐かしい味がした。