不思議な出会い[2]
「俺は…俺は、お嬢様…莉々様の専属騎士なんだ。…だからお前とは…くっ、駄目だ、やっぱりお前のことが…」
昨日の夜、眠れなくてたまたま広告で流れてきた乙女ゲームアプリを夢中でやってしまった。
『イケナイ恋の行方』というタイトルで、ひょんなことから王様の養子となった主人公が兄弟となった王子三兄弟または伯爵家のお嬢様付きの執事か騎士から1人選んで攻略していく乙女ゲームだった。
で、私が攻略対象にしたのが伯爵家のお嬢様付きの騎士だった訳なんだけれど…
このお客様凄いその騎士に似てる…
そう言えばオープン前に見た夢でもその騎士が出てきたなあなんて。
「こちらがメニューです」
私は男性客にメニューを渡す。
「ありがとう」
うん、やっぱり乙女ゲームの攻略対象の騎士に似てる。この人がモデルとかいうのも有り得るのかな…。
「とりあえずコーヒーを1つ。あとはツレが来てから注文する。」
「かしこまりました。それでは少々お待ちくださいま…っ」
私はそこに段差があったことをすっかり忘れ、その段差を踏み外し身体がよろけた。
「危ない!」
転ぶ、と思ったが私の身体は、逞しい腕によって支えられていた。
「申し訳ありません…!ありがとうございます」
自分のカフェなのに段差を忘れていただなんて恥ずかしくなる。
「気にするな」
申し訳ない気持ちと恥ずかしい気持ちもありつつ、でも何故だか、この人の腕と声に落ち着いた自分がいた。
「本当にすみません、」
私は小走りにその場を後にし厨房へ戻った。