新しい日常と不思議な感覚[2]
「花村杏奈と申します。よろしくお願いいたします」
カフェを開く資金を集めるために私が就職したのは、番組制作会社だった。
カフェを開くために経理業務を知りたくて、経理として新卒採用している会社を探していたら、たまたま見つけ、運良く採用してもらえた…といった経緯だった。
「花村さん、葉鳥さんが飲みに行こうって言ってるけど来ない?」
「え、あ、うん、行く」
そこの会社は番組制作をする人たちと、会社業務をする人たちで大きく分かれていた。
私は同じく会社業務をするシステム部の同期とその上司、葉鳥さんによく誘われて飲みに行くことが多かった。
「え、俺もそのバンド好き!」
「本当ですか!?まさか葉鳥さんも好きだとは思わなかったですー!」
葉鳥さんとは好きなバンドも同じで、よく2人でライブも行った。
「花村さん、大丈夫?」
「っ、ありがとうございます」
葉鳥さんはとても紳士で、人混みで困っている時とか腰を支えてエスコートしてくれた。
そして、葉鳥さんと目が合うとしばらく離せなかった…
葉鳥さんの私への態度はなんと言うか…甘い感じがした。10歳も歳上だからこんな小娘、恋愛対象にもなっていなかったと思うけれど…。
危うく、恋に落ちそうになったことは何度もあった。
………
…カランカラン
開店して5分くらい、会社時代のことを思い返していると第一号のお客様がやってきた。どんな方かな…
「いらっしゃいま…え、葉鳥さん!?」
「え、花村さん…?」
記念すべき第一号は、今まさに思い返していた人だった。
「あは、お久しぶりです、花村ですー、まさかのお客様第一号が葉鳥さんで気が抜けちゃいました」
こんな偶然ある…?
「俺もびっくりした。まさかふらっと入ったカフェに花村さんがいるとは…。え、なに?俺、第一号なの!?」
葉鳥さんは店内を見渡していた。
「そうなんです、今日オープンで、さっき開店したんです。」
「なんかラッキー!」
葉鳥さんは屈託なく笑った。会社で働いていた時から思っていたんだけど、この人、本当に38歳なのか…同い年くらいに見えるから怖い…。
「それではお客様、お好きなお席にお座り下さい」
「おお、カフェっぽい」
葉鳥さんは笑いながらカウンターの席に座った。
「こちらメニューです」
私は葉鳥さんにメニューを手渡した。葉鳥さんと目が合う。…やっぱり葉鳥さんと目が合うとしばらく目が離せない…。
「ありがとう。何にしようかなー」
やっと目を離せた。私はカウンターの反対側にあるキッチンへ戻る。
チンッ
あ、シフォンケーキ焼けた。